2.
『10時に俺んち来て?』
という内容で、拓海からラインが入っていた。
拓海のスッとした眼差しを向けられてるような気になった。
大好きな眼差し……。
夢と現実がリンクする。
これは、ドSな告白シチュエーションの始まり?
だって、今まで、こんなライン受け取ったことない!
もっと……事務的……。
真っ赤になった。
頭をかろうじて、僅かに残ってる現実世界へスライドした。
……絶対、間違えて送信してるから……!
いやでも、間違いラインでありませんように……!
でもでも、ここは、冷静を装わないと、変だよねっ!
すぐに返信をした。
『多分、間違いライン……。』
間違いでありませんように!
と、願いを込めつつ、送った。
いつまでも既読にならない。
私は期待と現実に脱力しながら、直矢宛てだろうと思い、直矢にラインした。
直矢も、女子から人気のあるほうで、宿題こそ教わりに来ないけど、拓海繋がりでライン交換した。
私は断然、ラガーマンの爽やか直矢より、陰影のある大人びた拓海が好きだ。
『拓海様から後伝言です。(嘘。誤送信だと思うよ)。「10時に俺んち来て?」との事っ!』
と、打った。
なんでこんなことしてるのか、訳わからなくなる。
やっかみも混ざってる。……男子に妬いてる自分こそ、おかしいのだけど……。
それ位、二人は仲が良い。
直矢からはすぐに返信が来た。
『了解』
拓海とのラインは相変わらず、既読になっていなかった。
ライン電話など、無理っ!
あんな夢見て、電話なんてしたら、声裏返りそうだものっ!
たまに宿題を、冷静を装って教えてる自分のポジション、崩れるのイヤー!
せっかくの大!貴重なチャンスを……動揺してる自分なんか、悟られたくない……ような、悟られてヨシヨシされたいような、
脳内、こんなにおかしいなら、不審者のようにならない道を選びたい。
女子に人気のある拓海に宿題を、たまにだけど教えてても、イジメの対象にならないのは、
単に私が、決してキラキラ女子でもなく、
部活は中学から続けてる剣道部で、
剣道部の上下関係は絆が深いからだ。私を、というか、剣道部員をイジメの対象にすると、
先輩の圧力が来るという、なんか、バック団体でもついてるのかといった体たらくだからだ。
私はラインを閉じると、まだ顔も洗ってないことに気付いた。
階下のリビングの横に洗面所がある。リビングのTVはつけっ放しだ。
「ママ、いないの?」
シーン。
まあいいや、TVもついてるし、ひょっとして庭かな? と思い、私は顔を洗うとリビングへ行った。
有名なアイドルグループの解散が連日、放送されている。
その合間に、海外で隕石が落ちたやら、永久凍土が溶けたやらのニュースを、当てもなく見入った。
「夏帆、起きてたの? まだ寝てると思った。」
「目覚ましはいつも通りだよ?」
「二度寝してるかと思っちゃった。ごめんね。」
ママの手には大葉とミニトマトがあった。小さな庭で小さな家庭菜園をしているのだ。
私は不意に見た夢を思い出して、顔が熱くなった。
……あんな夢っ。マンガの見過ぎだよー、恥ずかしい!
「朝ごはんにしましょ。」
ママは私の分の朝食を持ってきてくれた。トレイの上には、小さなお皿に、採ってきたばかりのトマトを添えたサラダもあった。
私はオレンジ・マーマレードをトーストに塗りながら、モグモグと口を動かした。
家族は商社マンのパパと専業主婦のママ、大学進学を機に東京へ行った姉の4人家族だ。
ここは東京から離れた港町で、海から吹く風と汽笛の音は、日常に溶け込んでいる。
……そういえば私、拓海がどこに住んでるかも知らないな……。
高校に入学して、1学期を終えてる。
知ってても良さそうなことを知らないでいたことに、驚いた。
好き過ぎて、知ってるつもりになっていたのかもしれない。
私は恥ずかしさで無言で朝食を終えると、自分の部屋へ戻った。




