12.
拓海は、あ、ヤベッといった顔になった。
「あ、はじめまして……。」
私は簡単に自己紹介をした。胸がドキドキする。
今日から付き合ってます、どうのこうのなんて、言えない。
「拓海の彼女?」
「そうだから! もう行って?」
「デートなら、今日の買い物はやめていいわよ? 明日でもいいし。」
「わかった。わかったから、もう向こう行って?」
拓海のお母さんは小柄で、サラサラのボブヘアで、さすが愛加里さんのお母さんといった綺麗な人だった。
「凄く気持ちの悪い虫が出て、拓海に捨ててもらってたのよ。あの子は、外国から入ってきた蛾て言い張るけど……。それより、待ったでしょう? ごめんなさいね。」
それはそうだ。手の平サイズの蛾なんて、聞いたことない。
でも、拓海のお母さんに優しそうに言われて、私は少し肩の力が楽になった。
そう、色んな意味で……。真っ赤になったり、鳥肌が立ったり、うろたえそうになったり、忙しい朝だった。……いや、もうすぐお昼だけど……。
「あなた達、これからどこか行くの?」
「今、帰ってきたとこ!」
「ああそう。暑いでしょう? まずは冷たいものでも飲んで?」
私達は拓海のお母さんに言われるまま、リビングへ行かされた。
大きな窓のある開放的なリビングに、やっぱりロココ調の家具の置いてある、甘い雰囲気のリビングだった。
拓海のお母さんがキッチンへ行ってる間に、
「そうだ! いいもの見せてやるよ!」
と拓海が言い、私達はリビングを出た。
「死んだじーちゃんから貰った魔法の箱。」
「魔法の箱?」
「うん。子供の頃に貰ったんだ。お菓子のシール集めて、抽選で貰える魔法の箱。中身はレアなシールやカードらしいけど。」
「見たい! 見たい! あれ、なかなか当たらないよね?」
「うん。俺、忘れてたんだけどさー。なんせ、大往生したじーちゃんが、死ぬ間際に言うんだぜ? その後のてんやわんやで見つからなくて、でも、さっき見つけた。あれは絶対そう。」
私達はピアノのある部屋へ行った。
部屋の隅に、可愛い雑貨がたくさん入れられた籐のバスケットがあった。
魔法の箱は、こう言っては何だけど、ドカ弁のようなものだった。
ステンレス地に、キャラクターやら描かれて、「魔法の箱」と書いてある。
なんかガッカリな見た目だけど、開けたらレアシールやレアカードなら、子供には受けるのかな?
「これ。まだ未開封みたいだけど、姉ちゃん、これ気付いてるのかな? 姉ちゃんに取られる前に奪還。俺、子供の頃、欲しかったレアカードあるんだよ。入ってますように!」
「拓海!」
背後から直矢の声が聞こえた。
私達は驚いて、その拍子に、振り向きざま、互いの頭を軽くぶつけてしまった。
その時、拓海の指先がかかっていた魔法の箱の蓋が開いた。
でも、中を見れなかった。
軽くとはいえ、頭をぶつけてしまった私は、目の周りがチカチカし、拓海も頭に手を当てていた。
「拓海! 夏帆!」
直矢の声はちゃんと聞こえる。でも、だんだん遠くなる。
次に気付いた時、私達はとんでもない所に立っていた。
「あの……何ここ?」
さっき拓海と頭をぶつけてしまって、夢でも見てるのだろうか?
そういえば、頭をぶつけた時、星がチカチカして、下から上へ上がっていく感覚はあった。
単に火花が出ただけだと思ってたけど……。
でもここは……?
夢の世界? にしては、頬に当たる風とか、足元のゴツゴツとかリアルなんですけど……。
直矢が両手にシールやカードをいっぱい持った状態で、寝そべる形で地面に転がっていた。目を閉じている。
拓海は?
拓海はどこ?




