1. プロローグ
「好き、て、言っていい? ねぇ、夏帆……。」
拓海の薄い唇が、私の耳にそっと触れる。
顔と同様、形の綺麗な唇だ。
拓海は少し細目だけれど、陰影を感じさせる顔立ちに、綺麗な鼻と唇をしている。
声も低くてゆっくりしていて、落ち着いている。
私の薄い耳朶は熱を帯びる。
ピッピッピッ……と恨みたくなるような音色。私はバン! と目覚ましを止める。
拓海に夢で触れられた右耳に、思わず手をやる。
……本当に熱い……。
スマホを取る。拓海は時々、ラインを送ってくる。
今日は無い。昨夜も無い。
タイムラインを見ると、また変な動画をアップしていた。
『女子は絶対見るなよ! グロいからな』
といつも同じコメント付きの動画や画像だ。
それは直矢と裸でベッドに入ってニヤリとしているものだったり、
頭にネクタイを巻いて、踊り狂うものだったりした。
拓海と直矢は幼馴染みで、高校も一緒だ。
私は、高校で初めて二人と出会った。
そして拓海を好きになった。
私はありふれた女子だし、拓海を好きな女子は少なくない。
たまたま席が隣で、宿題を何度か教えてるうちに、ラインの交換をしただけだった。
拓海とライン交換してる女子は、私だけではない。部活の子や、生徒会の子もしているそうだ。
私は拓海にとっては、ただのクラスメート。
それでも、拓海との繋がりは、何よりも嬉しかった。
高校生になって初めての夏休みを迎えていた。
何か起こりそうな予感と共に。
……直矢はいいな、いつも一緒にいられて……。
私はちょっと妬いた。
スマホを置いて、昔のハリウッド女優のポスターを2~3枚飾っている部屋のカーテンを開ける。
ブルブルッとスマホが振動した。
拓海からだった。
それは、物語の始まりだった。




