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第七章 セイレーンの倦怠

 月曜日の朝というのは、どうしてこんなにだるいんだろうね。

 律儀に大音量で鳴り響く目覚まし時計を止め、布団から這い出しながら俺はこれ以上ないくらいの倦怠感に襲われていた。

 昨日、珍しく週末課題を終わらせ、午後はテレビを見ながらダラダラして、夜は10時半に布団に入った。

 夜中に目が覚めることもなく、最上級の睡眠のさなかに俺はいた。

 どんな夢を見たかは覚えてないが、眠りの質としては文句なしだろう。

 永久に寝ていたかったが、それを許さないのが目覚まし時計だった。時の流れは早い。

 いやいや起きだし、靴が鉛でできているんじゃないかというくらい重たい足を引きずり、電車に乗ったところでそういや今日はシスタンの日だったと思い出した。

 英語の寺田が月曜日を単語テストの日と勝手に決めたため、俺たちはしなくてもいい苦労を被っているわけだ。

 半開きの目でテキストを睨んでいるうちに駅に着いた。単語が情報として脳内にまったくインプットされなかった気がするが、多分気のせいではない。

 最高にローなテンションで学校までの道を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 「おはよう、水城くん」

 倦怠感とは無縁の笑顔で手を振ってくるのは、副室長の神門紗だ。

 俺は前を向いたまま応じる。

 「おはようさん」

 だるさ120パーセントみたいな感じの声が出たが気にするまい。今の俺にはこれが限界なんだ。

 「今日はシスタンの日ね。ちゃんと勉強してる?」

 「一応」

 神門は同情なのか呆れなのかよくわからない笑顔で、

 「そ。ま、がんばることね。また、エンドレス再テストになるわよ」

 おっしゃる通りであります。

 だいたい、再テにかかるようなテストは、要は苦手なジャンルであるってことで、つまりはどんだけがんばろうと大して変わらないということだ。運だけの問題だな、運だけの。

 ぶつぶつぼやいていた俺の言い訳を、神門は

 「努力次第でしょ」

 華麗に一蹴した。

 まさしくその通りでございます。

 俺は無言になって、視線を前に向けた。

 先週は、テストの日にシスタンを忘れ、んじゃノー勉でいってやろうじゃねえかという勢いで返ってきたテストの右上にでかでかと「再」と書かれていたため、神門にシスタンを借りて地獄のエンドレスを受けたのだ。

 今回はまじめにやろうかな、そろそろ親に遅れる理由の言い訳が尽きる……などと考えているうちに学校についた。

 この間、神門は俺の横を歩いていたが、一言も話しかけて来なかった。俺の喋る気力のなさを感じ取ってくれたのかもしれないな。

 


 俺のシスタンのテストは、俺の半端ない努力によってぎりぎり合格ラインの上に乗っかった。

 相互採点で浅倉と答案を交換し、浅倉の驚きの表情とともに俺は自分の努力が報われたことを知った。

 「珍しいこともあるんだな。今日は雨か?」

 失礼なことをいう。

 ここんとこ晴れ続きだから、降ってくれたら助かるかもな。俺の名の知らぬ農家の人々がさ。

 満点の浅倉の答案を突き返しつつ、俺は肩をすくめた。



 でもって、放課後だ。

 浅倉の声が天に届いたのか、午後から急に雨が降ってきた。

 そのせいでテニスコートが使えなくなったということで、本日テニス部は休みとなった。

 これまた珍しく今日は補習もなく、さっさと帰るかどうしようかなと丸々空いた放課後プランを脳内で練りつつ校内をぶらついていると、食堂へ続く廊下のところで神門と会った。

 「どうだった?今日のシスタン」

 開口一番、その話題を振ってくるとは、お前にはほかに話すことがないのか?

 「おかげさまで。ぎりセーフだった」

 すると、神門は緩い微笑みに若干驚きの色を混ぜた。お前もか。

 「なるほど、だから急に雨が降ってきたのね」

 誰かさんと同じことを言いやがる。

 別に俺がテストに合格することがそれほど珍しいわけではないだろ、言って25パーセント位……、て十分低いのか、これは。

 「よかったわね。エンドレスは、疲れるもんね」

 お前にはわからないだろうがな。この苦しみは実際にテスト受けてる奴にしかわからないんだ。

 「この調子で、次からもがんばってね。じゃ、今日はこれで」

 ひょい、と片手をあげて神門は立ち去ろうとした。

 「ああ、またな」

 俺も片手をひらりと振ってそれに応じる。

 「さて、帰……、」

 るか、と続けようとして、それはかなわなかった。

 なぜなら……、


 「どうしてっ!!」


 絶叫とともに突っ込んできた人影が、俺の肩をつかんで壁に押し付けたからだ。

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