神様の賭博場
♧「おっはよーございます」
♢「おはようございます」
♤「はいおはよー」
♡「……おはようございます」
お気楽なのが二つと緊張したのが一つ、どんよりしたのが一つと、実に心象の分かり易い朝の挨拶が行き交った。
っていうか相変わらずゴジラなんですね、社長。
彼等二人は車で来たのか、灰色のワゴンから手を振っている。
♤「早速だけど乗ってくれるかい?時間もあまりないし」
♢「分かりました」
言われた通りに乗り込んで、十二里さんに向かい合う様にして体面座席に腰掛ける。
腰掛ける際、トランク部分に積まれた巨大な段ボールが目に留まったが、何かの備品なのだろう。
間もなくワゴンは動き出し、俺達は賽縁庵へと運ばれる。
♤「ところで十一君、この車何に見える?」
♢「え?ワゴン……ですけど」
♧「はぁ?」
♢「ふふふ、君は本当に凄いね。幻術も完全無効か。正解、これはリムジンなんかじゃない。賽縁庵所有の幻術視覚加工のワゴンだ。ほら、城下君はそんなに不貞腐れないの」
♧「せっかくセレブ気分に浸ってたのに……」
♢「俺を睨むなよ……ちょっと訊きたいんですけど、賽縁庵では一体何が起こってるんですか?昨日の説明だけではいまいち把握出来てないんです」
♡「……ごめんなさい。それは重々承知なんです。色々と腑に落ちない点も多いかと思いますが、見て頂くのが一番手っ取り早いと思いまして……」
どう説明するかを考えあぐねる様に、十二里さんは俯く。
それ以上、彼女はその件で口を開く事はなかった。
退屈そうに車窓を眺めていた三葉が、ポツリと呟く。
♧「不便ね、考えが共有できないって」
賽縁庵は海のよく見える断崖の上にあった。
昨晩の内にグー●ルマップで大体の位置は確認していたが、視点を地上に下ろすと、やはり絶景だった。
雲の目立つ空の下にあって、そこにだけ差し込む日差し。
それは純白の城の様な施設を、どこまでも漂白して行く。
美しいと、普通は感じるのだろう。
だが、この時の俺達には魔王の城にしか見えなかった。
それは、正に純白だった。
一切の濁りを許さず透き通るまで浄化され、不自然なまでに人の手の加わった、造り込まれた白。
余りの不透明さに、手垢が透けて見える様だ。
♤「……行こう」
真っ黒なゴジラ人形の言葉で、俺達は歩き出す。
魔王が出るか魔神が出るか、知っているのはサイコロの持ち主だけだ。