面合わせでは終わらない
♤「いやぁ~皆様ようこそダイスワークス株式会社にいらっしゃいました!社長の一橋剣と申します。今日は当社のマスコットキャラクターでもあるオロチ君の姿でご案内してますよ~」
そう言って壇上で小っちゃいゴジラが――ゴジラじゃん!何アレ?隠す気ないよあのパクリ具合――俺達に手を振っている。
♤「我が社はご存じの通り小さな会社ですが、公共事業を始め多くの企業・団体への人材派遣を行い、安定した経営状態を保っています。これも偏に皆様方の先輩である社員一同のお蔭であり、皆様にもぜひ後に続いて頂きたいと思います」
しかし変な会社だった。
人材派遣業務らしいけど社員が(人の姿じゃない)社長含め五人しかいない上、インターン生も俺と三葉を合わせ六人しかいない。
♢「おい三葉」
軽妙に続く社長の挨拶を尻目に、俺は隣の三葉を小突いた。
♧「何よ、私初日から睨まれたくないんですけど」
♢「ここ本当に大丈夫なの?」
♧「……まあ見てなさいって」
嫌な予感を懐かせる薄い笑顔を見せ、三葉は俺をシャットアウトした。
ああどうしよう。何で俺三葉に任せちゃったんだろ。
そうこうしている内に社長挨拶はクライマックスを迎え、事態の深刻さに気付き出した俺の耳に信じられない一言が入って来た。
✡「人事課長の市ヶ谷菱久です。早速ですが皆さんの“技能”を見せて頂きたいと思いますので、各自準備をお願いします。」
♢「え?」
流石にこれは聞いてないぞ三葉。と隣を向いた所で、
♧「大丈夫、私に任せて大哉はジッとしてて」
俺の口元に指を当て、至近距離で真顔の三葉がそう囁く。
色々な意味で、俺は黙って頷くしかなかった。
壇上では、ゴジラの脇に一人の女が加わり、先の人事課長がゴジラの前に置かれていたスタンドからマイクを取った。
✡「じゃあ手っ取り早くここで一人ずつ見せて頂きましょう。一番の方からどうぞ」
✡「はい!」
ヤバいヤバい始まってしまった!
番号順に進むなら俺は四番目だ。
取り敢えず何をすればいいのか見ておこう。
✡「千葉大学より参りました五十嵐剣輔です。私の持つ先天特殊技能は発火能力です。噴出指定可能ヶ所は末端部を中心に背中や脛等、遠隔も可能の」
……はい?
✡「成程、では遠隔発火の方を見せて下さい。……そうですね、丁度私の手元に余分にコピーしてしまった評価票があるのでこれをお願いします」
✡「分かりました。失礼ですが、その紙を掲げて頂いても宜しいでしょうか?」
え?
✡「こうでよろしいですか?」
✡「有難うございます。……行きます」
市ヶ谷人事課長が掲げた紙を、一番の御仁が睨む。
すると次の瞬間、
ボッ!!!と言う聞き慣れない音と共に、人事課長の持った紙が燃え散った。
って、えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!嘘?何これ?何なのコレ?ここサーカス団か何かの会社?技能ってマジックか何かの事なの?え?え?どういう事?
横で三葉が物悲しい表情を浮かべている事にも気付かず、俺はただ口をパクパクと動かす事しか出来なかった。
✡「次、二番の方」
✡「はい、自分……じゃねぇや、私はn乗世界線第五番から参りました。そちらの世界では主に剣技による戦闘を担当しており」
あわわわわわわ……
♢「ねえ三葉!」
♧「何よ」
♢「これどういう事?」
♧「後で説明するって」
♢「今説明してよ!何だよコレ!」
小声ながらも全力で語気を強めて俺は三葉に抗議した。
だが。
♡「そこ!静かに!」
壇上の女性面接官が厳しい口調で俺達を咎める。
そう言われても、俺はそんな場合ではない。
一体何が起こっているのか、ここにいるインターン生や社員達は何なのか、三葉はこの事を知っていたのか。
♢「あの……えっと……」
三葉が答えないのなら、この女性面接官に訊こう、と決心がついた時だった。
♧「すみません、私と彼で先に一緒にやらせて頂いても宜しいでしょうか?」
傍らで三葉が立ち上がる。
♡「…それは何故です?」
女性面接官が顔を顰める。
って言うかよく見るとこの人、とてつもなく美人だ。
外国人とのハーフなのか、むらのない金髪に黒い瞳。
母性もたわわに実っていてけしからたまらん具合だし、脚も長くてモデルみたいだ。
完璧な容姿に正面から睨まれ、妙な威圧感と罪悪感を覚える。
それなのに――
♧「ご覧頂ければ分かります」
三葉は全く怯んだ様子も見せずに不敵に笑って見せる。
……俺何も出来ないんだけど、何でこの子こんなに自信満々なの?
♧「ほら大哉立って」
♢「ああ、うん」
言われるが儘、立ち上がる。
でも一体何をすればいいんだ?俺には火を出す能力も無ければ異世界で活躍した剣技なんてものもない。
一体どうしろって言うんだ。
♧「それと、一番の…イガラシ君でしたっけ?ちょっと手伝ってくれない?」
✡「え?…俺?」
♧「そう、イガラシ君だったわよね?うん、貴方よ……いいです十二里さん、ご心配には及びません」
へえ、あの女性面接官トジリさんって言うんだ……え?何で三葉そんな事知ってるの?
♧「それじゃあイガラシ君、彼、十一 大哉って言うんだけど、彼にさっきの発火技能を試してみてくれない?」
✡「え?でも……」
♧「大丈夫よ、そんな心配いらないわ」
✡「もしかして……彼は」
♧「そうよ、だから余計な事は考えないで彼に、大哉に発火技能を使って」
✡「……分かったよ」
ちょっ!
♢「ちょっと待ってよ三葉、それ俺死んじゃうよ!イガラシ君のってさっきのアレだろ?火燃えたヤツだろ?死んじゃう死んじゃう!」
♡「十一君、城下さんを信じなさい」
♢「え?トジリさんが何でそんな事」
♧「大哉、いいからこっちに集中して……イガラシ君?まだなの?」
✡「……やってるよ、さっきから……」
♢「え?」
♡「……十一君、何ともないの?」
♢「…はあ、まあ今の所は」
♡「五十嵐君、君は本当にやってるのよね?」
✡「ええ、何なら彼のジャケットにターゲット変えましょうか?」
♡「結構よ」
え?どういう事?
♡「……社長、見付けましたよ」
♤「十二里君でも読めないのかい?」
♡「ええ、確かに彼からは何も」
♤「そうか…ようやく見つけたね」
♡「はい……城下さん、貴女も含め、十一君の技能はよく分かりました。取り敢えず二人とも着席して下さい」
♤「十二里君、ここは君に任せるから。一旦二人には社長室に来てもらってくれる?十一君全然分かってないみたいだからさ。勿論城下さん、君にも来て貰う必要はあるけど」
♢「え?……え?」
♡「そうですか。城下さん、今の通りです」
♧「分かりました。ほら大哉、行くよ……何頭抱えてんの?」
♢「……どうかしそうなんだよ」
♤「それじゃ二人共、行くよー」
そう言って、壇上のゴジラ人形がヒョイッと三葉の両手に収まり、彼女はテコテコ歩き出す。
何だコレ?マジで。