凡人の俺が異世界では最強だった話
俺はどこにでもいる普通の日本の高校生だった。
勉強はそれなり、体力もそれなり、顔のよさもまあ普通かそれ以下だろう。学校では目立たない存在だと思っている。
そんな俺はあるとき、あり得るハズのない妙な穴に落っこちてしまい、次に目を覚ましたときにいた場所は広大な草原だった。
不思議に思ってあたりを見回してみると、見たことのないでっかい獣が一人のおびえた女の子を前に唸り声を上げている。
ヤバい、と思って俺はなにも考えずに両者の間に割って入った。
すると俺は知らぬ間に、紫色に輝く光の剣を握りしめていて。
無我夢中でそれを振り抜いてみると、けったいな獣は真っ二つに両断されてしまった。
どうやら女の子を助けることができたようだが、この女の子、涙目で俺に何度も感謝の言葉を述べ、それどころか一緒にお城についてきてくれと言う。一撃で倒した割にそんなに狂ったほど感謝され、俺は困惑してしまった。
彼女に連れられて来てみたのはそれこそファンタジー世界にあるような巨大な城で、俺は少女に連れられるまま、これまたテンプレチックな王冠とローブを身につけた王様みたいなオッサンと謁見するハメになった。
というか、王様みたいと言うか本当に王様だったんだが。
王様は娘を助けてくれて本当にありがとう、それもあんな凶悪な魔獣から守ってくれたなんて何と礼をすればよいか分からぬ、などと言ってしきりに俺の手を取ってくれた。
凶悪な魔獣って言ったって、気がついたら真っ二つになっていたんだが。
俺はこの辺で気がついた。
ここは異世界なのだ。
そして俺は、どうやらこの世界ではとんでもなく強い存在らしい。身に宿した魔力がどうとか聞いたが、まあ言ってみれば俺の魔力はこの異世界の住人とは桁違いに並外れているらしい。
常人の魔力が一だとしたら、俺は六千六百なんだとか。
やべえ。
俺の時代じゃねえか。
それから俺はその助けた少女――お姫様と親しくなり、その流れで王族といきなり親しくなり、特別待遇で城に住まわせてもらい、特別魔法修練教官とかわけのわからないポジションに着かされて、週に一回王宮の兵士たちの前で適当なことを言った後に実演として魔力を開放して、まあデモンストレーションみたいなことを見せてやった。
と言ってもその時の俺の魔力は一パーセントすら出していないんだが、なんかもうそれでも兵士たちは驚きと感動で俺を讃えてくれるんだ。まあ悪い気はしない。
俺は月に一度王国で行われる魔闘会とかいうのには無理やり参加させられて軽く優勝し、もうこれ以上要らないというのに賞金と名声を受け取り、王国の外部をうろついている危険な魔獣の討伐を命じられ、散歩気分で軽くバラバラにして首を持って帰ってまた讃えられ、あげくにはめちゃくちゃな要求を突きつけて進攻してきた隣国の魔法戦士の大軍を、魔力を十五パーセントほど開放した魔法剣の一振りだけで殲滅してまた英雄とかなんとか言われるハメになった。
こんだけ簡単なことをやって讃えられるんだから、そりゃもういい気分だ。
気がつくと俺はお姫様だけじゃなく、凛々しい女騎士団長や通っている魔法学園のアイドルをはじめ、魔法学園の一般女子生徒や市井の女の子たちに追いかけられ、ファンクラブなどまで作られすっかり参ってしまった。
男たちの嫉妬もあったりしたが、たいてい俺が一睨みするとあいつら揃って黙ってうつむくしな。根性なしめ。
そんなこんなで、俺は最強の名をほしいままにして王国で悠々自適に暮らしていた。
もう元の世界になんて帰らなくていい。
この世界で過ごす方がずっと楽しいしな。
俺がこの異世界に飛ばされて半年が過ぎた頃、また王国の外で凶悪な魔獣が暴れているとの報を聞き、俺は周りの連中にそろって頼まれたのでいつものことだと討伐に出向いた。
王宮の人間たちの期待の眼差しを背に受けながら、まあ十秒で片付けてやろうと魔力を開放して剣を作り出したその時。
俺が剣を振り抜く前に、魔獣は真っ二つどころか八つ裂きにされて勝手に崩れ落ちた。
不思議に思っていると、魔獣の残骸から男が一人出てきた。
参った参った、何事だいったい、などと言いながら魔獣の残骸からひょっこり現れた、そいつ。
俺はそいつを知っていた。
忘れかけていた元の世界で、俺のクラスメイトだった奴。
成績優秀で容姿端麗、性格も気さくで男女ともに友人の多い、それこそ非の打ちどころのない、俺が密かに妬んでいた野郎じゃないか。
あいつもこの異世界にやってきたというのか。
そして今、奴が見せた魔力は、俺の軽く十数倍の――。
俺の最強かつ自由かつハーレムな天下はその日、終わりを告げた。
しょせん人間なんて、どこの世界でも同じだ。
一番優れている奴だけが持て囃されて、二番目以降の奴はまるで相手にされないのさ。
続きません。
読んでくださった方に心よりの感謝を捧げます!