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一匹眼▼「少女千層猫八百」

 

 --- 見しことも 見ぬゆくすゑも

     かりそめの 

       枕に浮ぶ まぼろしの中 ---



 全部嘘で、全て虚空。虚構でからっぽ。


 そんなあたしの、突飛な妄想真相千層世界。




 一匹眼▼「少女千層猫八百」




 むかしむかし、あるところに一人の可憐で華麗な少女がおりました。


 愛すべき家族に囲まれ、幸せな時間を過ごす日々。人並の幸せ。そこに在る幸せ。平凡な幸せ。


 けれど、そんな日々は唐突に忽然と変貌を遂げます。


 ある日。少女は、ふと疑問を抱きます。自分の在り方、生きる意味、世界平和、宇宙の果て… 「現実」って何だろう、と。


 そうなっては居てもたってもいられません。家族と学園と社会からエスケエプした彼女は、その解を得るため貝になり、自分の殻と言う絶対領域に浸り続けます。


 愛すべき家族。そう、半身である双子の妹から《こんな一言》が投げかけられるその日まで。


「おねいちゃん、そろそろ… 現実みよう?」


 これは、そんな一言から始まる、とある少女の物語。

 少女と、《魔女》とその他大勢による、《魔眼》と言う名の《何か》を探す物語。



          ◆ ◆ ◆



「妹ちゃん。あたしね、魔眼を探す事にしました。イェーイ、ぱちぱちぱち。にゃっはっはぁ」

 そんなあたしの一大決意を知ってか知らずか、妹ちゃんはいつものクールな表情を崩さずたった一言だけぽつり。

「やっぱり、病院、逝く?」

「にゃによぉー、そもそも最初に偉そうな事いったのは妹ちゃんでしょー」 

「… ごめん、おねいちゃん。まったく話が見えてこない」


 ふぅ、やれやれだぜ。これだからパンピーは困る。

 1を言って10を説明しなきゃらないのが、選ばれし者の宿命にゃのね。


「だからさ、あたしもそろそろ現実って奴をみようかにゃー、などと思いまして」

「うん。良かった。本当にそれは、良かったと思う。… それで?」

「オゥ。それでときたか! 流石マイシスター!」

 見慣れたいつもの鉄面皮を引っさげて、妹ちゃんがあたしを見つめる。一心に、底無しに。果ても無く。

 長年一緒にいるけれど、なんやかんやで一緒にいるけれど、未だに読めないその心。その表情。

 にゃーるほどにゃ。こりゃー、ポーカーが鬼強いわけだ。

「あっ、もしかして妹ちゃん、魔眼を知らにゃいのかい?」 

「知る由も無い」

「ジーザス! 底が知れるぞ妹ちゃん。君は一体全体、学園でにゃにを習ってきたんだい!」


 底無しの妹ちゃんの底が知れてしまったら、それこそただの妹ちゃん。

 飛べない妹ちゃんはただの妹ちゃん。

 つまり、底のある妹ちゃんもやっぱりただの妹ちゃん。あーあー、どこもかしこも妹ちゃんだらけだにゃ。世界は、妹ちゃんで出来ていた! それって想像したらちょっと嫌だにゃ。いや、案外アリ? むしろ桃源郷? 天国?


「ご心配なく。それで?」

 ソークール。

 ってか、あたし、にゃんの話してたんだっけ? やれやれ、良い感じに虚無ってきちまったぜ。

「それにしても妹ちゃん。裸エプロンってあるじゃん。最近あたし的にはさ、スク水エプロンなんてのもありじゃねーかと思うんだけど、どうよ?」

「魔眼どこいった」

「つまりね、あたしがにゃにを言いたいかと言えば… あたしが真人間になるには、もー魔眼に頼らざるを得ないってわけですよ」

「… おねいちゃん、沸いてるの?」

「失敬だにゃ。あたしはいつだって大真面目だっちゅーの。いいかね? この世にはね、人智を超えた神秘ってやつがあるのだよ、妹ちゃん」


 緋色の頭脳を持つあたしの話は難解すぎたためか、傍らに置いてあった文庫本にその意識を移し始める件の妹ちゃん。本当、やれやれですよ。


「ほら、あたし位のレベルの賢人になると、そりゃーもう俗世というやつから離れまくり浮きまくりにゃわけですよ。で、考え方も価値観もそりゃーもう、ズレズレにゃわけですよ。股ずれにゃわけですよ。色々と悶えまくりにゃわけですよ」

「そうだね。残念なレベルでね」

「でもさ、可愛い可愛い妹に頼まれちゃ、流石のあたしも無視できにゃい。で、どうしたもんかと我が緋色の頭脳をフル回転させながら、量子の海を彷徨っていたわけですよ。でもさでもさ、妹ちゃんに言われたのが《現実みて》ってセリフで良かったヨ。もしも夢が無いねなんて言われたら、あたし、大海原に旅立つところだったもん。人繋ぎの大秘法を求めて」

 

 妹ちゃんの意識は、もはや完全に文庫本に集中しまくりんぐ状態。こんちきしょー、ネタばれしたろーか? 

 にゃにゃにゃ。い、いや、駄目にゃ。

 静まれ、静まれあたしの中に巣食う悪魔よ。魔獣よ、猫神よ。一度でも、ネタばれなどという非人道的行為に手を染めてしまったら… 妹ちゃんに口聞いて貰えなくなっちゃうゾ♪ 

「それでねそれでね? 苦節30分。ついにあたしは運命の出会いを果たしたってわけですヨ。聞いて驚け、見て喚け。ソイツの名は……… 《直視の魔眼;キャッツアイ》。おぉっと、直死じゃないよ、直視だヨ? 聞いて聞いて妹ちゃん、この眼を手に入れると《現実≠真実》ってやつが見えるようになっちゃうらしいよ! びっくりだよね! 青信号も真っ青だぜ」

「厨ニ病乙」

「嘘じゃないもん! 本当だモン!」

「ソースは?」

「某巨大掲示板ですぜ、旦那。断じて嘘じゃねー。信憑性ばっちりでさぁ。掃き溜めに鶴、鶏群の一鶴。オゥイエス」


 あたしが声高らかにそう言い放った時の妹ちゃんの表情と言ったら… 今でも夢に出るレベル。逆に言えば、それがあたしに旅立ちを決意させる一端でもあったのでアリマス。


「ぐぬぬぅ。今に見ておれ、妹ちゃん。そのクールな表情を完膚なきまでにぶち壊してくれるわっ… なんちゃって」


 つーことで。

 さよーなら、甘美なる、あたしのだらけきった日常。

 こんにちわ、千層なる、あたしのにごりきった未来。


 これは、あたし《猫毛式子》と妹ちゃんとの、プライドを賭けた少女戦争にゃのです。


END



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