その8
美少女後輩の呼び出しがあった翌日から、秀ちゃんは学校に来なくなった。
一日目の時は、ばったり遭遇して一緒に登校するのは気まずいからと、いつもより少し早めに家を出たので秀ちゃんの異変には全く気付かなかった。
教師から秀ちゃんが休みであることを聞いて、もしかして告白が上手くいかなかったんだろうか、とそんな下世話な心配を抱いてから三日。
相変わらず秀ちゃんは学校に来ていない。
「徳川君、今日も休みなんだねー。よっぽど酷い夏風邪にかかったかな」
「馬鹿は風邪引かないって言うのにね」
「でも夏風邪は馬鹿が引くって言うじゃない」
何気に酷い友人の言葉にそれもそうだと頷きつつ、私は空席になっている秀ちゃんの席を見やった。
さすがにあの秀ちゃんが失恋で三日も学校に来ないとは考えられないので、本当に風邪でも拗らせているのかもしれない。
見舞いにでも行こうか、と考える。
しかし安井君ほどの強かさを持たない私は、まだ秀ちゃんと2人きりで会える勇気がなかった。それに幼馴染の免罪符は、恋人の権利よりも低い。
そんな風にたたらを踏む私の背中を押したのは、やはりというか昼休みにやって来た、あまりにも意外な人物だった。
「山田ー、例の美少女後輩がお前を呼んでるぞ」
もしかしてこれは修羅場フラグだろうか。
よくある私の恋人から離れてくれる? 宣言とか、そういう呼び出しだろうか。牽制とかされちゃうのか。このままキャットファイトになだれ込んでしまうのか。
件の白レースパンチラの君ならぬ美少女後輩によって人気のない中庭へと誘いだされた私は、そんなくだらない妄想に余念がなかった。
「徳川先輩、学校に来てないんですよね」
「そう、ね」
美少女後輩の一言目は、いきなりの直球だった。
脳内でゴーン、というゴングの音が鳴り響き、咄嗟に身構えそうになる。背筋に冷たい汗が流れるが、何でもない顔を取り繕って頷いた。
そんな私に向かって、美少女後輩は余裕のある笑顔を浮かべた。それも、予想外な言葉を付け加えて。
「多分今頃、地にのめり込むほど落ち込んでると思うんで、山田先輩、会いに行ってあげてください」
「私が? あなたが会いに行った方が、喜ぶと思うけど」
落ち込んでいるということは、やはり秀ちゃんの告白は玉砕に終わったのかもしれない。そうだとしたら、彼女が会いに行っても気まずいだけかもしれないが、私だって気まずいし、醜い自分――失恋した秀ちゃんという事実に同情しつつも喜んでしまいそうだ――というものを実感してしまいそうだから、正直なところ、気が進まない。
浮かない顔の私を余所に、美少女後輩は心から楽しそうに、
「山田先輩は、ひとつ勘違いをしてますよ」
「勘違い?」
「グルだったんです」
「は?」
「私も最初から、徳川先輩とグルだったんですよ」
「…………え?」