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その7

 よくよく考えてみると、最近の昼休みにはろくなことが起きない。

 そうしみじみと実感してしまったのは、やはり今日の昼休みもろくなことが起きなかったからだ。

「あの……徳川先輩はいらっしゃいますか?」

 昼休み、恥じらいでうっすらと頬を染めて、教室の入口まで襲来したのは、件の――秀ちゃんがべた惚れしている女子生徒だった。先輩呼ばわりなところを見るに、彼女はどうやら後輩だったようだ。

 秀ちゃんを訪ねてきた美少女後輩に、その時教室に居たクラスメイトたちは騒然とした。

「あんなに可愛い子が……徳川の顔に騙された新たな犠牲者に……!」

「リア充爆発しろ。イケメン絶滅しろ」

「徳川許すまじ」

「ちょっと江戸幕府討幕してくる」

 主に男子生徒たちの嫉妬の視線が、秀ちゃんに集まる。色々と残念な人もとい残念なイケメンと名高い秀ちゃんは、そんな視線も怨嗟の声も無視し、私の前に立って、何やら物言いたげな顔でじっと見てくる。

 私は首を傾げた。

 好きな人が待ってるのだから、早く行けばいいのに。もしかして背中を押して欲しいのだろうか。変なことには無駄に行動力がある秀ちゃんだが、肝心なところで尻込みする傾向がある。

 仕方ないな、と私は苦笑した。

 私にとって、秀ちゃんは何があっても大切な幼馴染であることに変わりがない。この変人たる幼馴染の恋を、私くらいは応援してやらなければならない。

「好きな子待たせちゃ駄目だよ。もしかしたら告白かもしれないでしょ。早く行ってきなよ」

「山田は、俺が告白されてもいいのかよ」

「いいも悪いも……むしろ秀ちゃんから告白するくらいの意気地を見せてきなよ」

 私はなるべく自然な笑顔を浮かべて、そう言った。




 さすがの秀ちゃんでも、告白フラグの前では緊張するのか、よろよろと覚束ない足取りで美少女を連れ立って教室を出て行った。

 野次馬に行ってやろうか、むしろ邪魔しようぜと嫉妬に燃えるソロ軍団たちをしり目に、私もひっそりと教室を出た。今の私には、人が多い場所は息苦しくて堪らなかったのだ。

 何しろ失恋真っ只中に、その相手をネタにして騒げる気など起こるはずがない。とりあえず人気のないところでも行って、ひっそり傷心に浸りたい。

 ふらふらと廊下を歩く私の背中を、静かな声が呼び止めた。

「――山田さん」

 凛としたその声には、確かに聞き覚えがあった。

 ゆっくりと振り返った先に居たのは、つい先日私に告白をしてきた、安井君その人だった。

「安井君……」

「名前、覚えててくれたんだ」

「う、ん……」

 はにかむように笑った安井君に、実はついさっきまで忘れていましたなどと言えるわけがない。私は罪悪感を覚えて、さり気なく目線を泳がせた。

「何だかふらふらしてるけど……具合でも悪いのか? よければ、保健室まで付き添うけど」

「いや、そういうわけじゃ……」

 その親切さに戸惑いつつ、私は首を横に振る。彼は色んな意味で気まずい相手だ。早いところ立ち去りたいが、善意を持って接してくる人を素気無く扱うのも心苦しい。

「でも、顔色悪いよ」

「……ちょっと傷心中なだけだから」

「もしかして失恋でもした?」

 何気なく言われた言葉が、グサりと心に突き刺さった。この人は私に追い打ちをかけるために現れたのだろうかと勘繰りたくなる。

「安井君、そういうことはオブラートに包んでくれないと」

「あ、図星だった? ごめん」

「…………」

 もしかしたら彼は、好青年に見えて結構腹の中が黒いのかもしれない。そんな私の疑惑の眼差しに、安井君は苦笑した。

「この間俺が告白した時に、好きな人がいるからって言ってたし……もしかしたらって思ったんだ」

 そういえば、そんな切り返しをしたような記憶がある。思えば、お互いテンプレすぎるやり取りをしたものだと思う。

「それにしても、よく自分を振った相手に話かけられたね」

「俺は、結構諦めが悪いからね。一度振られても、チャンスがあれば見逃さない性質なんだ」

 そう言って、安井君はにっこりと笑う。その強かさに、私は目を瞬く。

「……強いんだね」

「それほどでも。せっかくだし、山田さんもあやかってみたら?」

「え?」

「その失恋相手に、リベンジかましたらって」

「敵に塩を送る真似、しちゃうんだ」

「山田さんがその相手に見込みがないことをとことん思い知って、俺の方に来てくれないかなって思ってさ」

「……本当に強かね」

 告白された時には知りもしなかったが、安井君は中々にユニークな人だったらしい。

 呆れとも感心ともつかない声で呟いてから、さすがに真似は出来そうにないなと私は笑った。

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