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その5

 屋上に出て、私は先程の男子生徒が慌てて逃げて行った理由を知った。

 奥の方にある給水塔の物陰で、柄の悪い男子生徒3人組に、1人の女子生徒が絡まれていたのだ。あの男子生徒がこの状況を見て逃げ出したのは情けないが、仕方がないとも思う。

「よく見りゃ可愛い顔してんじゃねーか。今すぐここでヤっちまってもいいんだぜ?」

 やたら大きい声で、ありきたりな内容が扉の前にいる私たちの方まで聞こえてくる。今時こんな古風なヤンキーがいるのかと変なところで感心しかけたが、女の子の貞操を考えたら、このまま放置するのはまずいだろう。

 思わず一歩踏み出しかけた私を、秀ちゃんが手で制した。

「秀ちゃん?」

「山田はここで見てろよ。これはラブコメ主人公によくあるイベントのひとつ。ヒロインを助けてキャ、カッコイイ、ポッ……ってなるシーンだから」

 ――朝から思っていたことだが、秀ちゃんのフラグイベントは、どうもラブコメといってもちょっと少女漫画が入っているような気がしないでもない。曲がり角でぶつかるとか、どこの古い少女漫画だろう。そんなどうでもいい感想を、私が抱いているとは思いもしない秀ちゃんが、私の肩をポンと叩いて不良たちの方へとゆっくり歩み出す。

「……秀ちゃん」

 一体、どうやって場を収めるつもりなんだろう。

 喧嘩、凄く弱いのに。

 あまり頼もしく見えない背中に、私は疑問を抱かざるを得なかった。




 しかし私の心配とは裏腹に、あっけなく片はついた。

 いつでも助けを呼べるようにと扉の前で佇んでいた私には聞こえなかったが、秀ちゃんが不良組に何かを言うと、彼らはあっさりと引き下がったのだ。

 助けた女子生徒と何かの会話を交わしている秀ちゃんを遠目に見ていると、不良組がこちらに向かって歩いてくる。

 私は素早く扉の前から退けた。

 すれ違う瞬間、彼らは私を一瞥したが、特に何も言わずに階段を下りて行った。

 しかし開いたままの扉から、彼らの声がこちらまで響いてくる。階段では声が良く通ることに気付いていないのか、扉を閉めなかったことに気付いていないのか。そもそも、私に聞かれても困る話ではなかったのかもしれないが。

「徳川さん、上手くいくといいっすね~」

「だなあ。お前はどっちだと思う?」

「俺は成功するに野口さん1枚だな」

 その聞こえてきた内容に、私は息を飲んだ。

 ――秀ちゃん、あいつらとグルなの。わざと女子生徒に絡むように頼んだの。さすがにそれって犯罪はいってるんじゃないの。イベントって、これただの自作自演じゃない。女子生徒には今すぐ誠心誠意謝った方が後でバレるよりもリスクは低いんじゃないかな。

 一瞬にして様々な言葉が脳内を駆け巡る。

 そうして出た結論は、土下座でも何でもさせて謝らせようということだった。

 意を決して改めて秀ちゃんと女子生徒の方へと目を向けた私だったが、そこで女子生徒に見覚えがあることに気付いた。

 彼女、今朝の――白いレースのついたパンツの女の子だ。

 我ながら酷い覚え方だが、インパクトがありすぎたので仕方ない。まず間違いないだろう。

 そしてその事実を元に、ひとつの推測が浮かび上がる。

 わざわざ不良とグルになってあの女子生徒を襲わせたということは、今朝の曲がり角の件も、相手が彼女だったことは偶然ではないのかもしれない。すると、わざわざ彼女があの時間にあの曲がり角を通ることを把握していたことになるが、そういえば直前に腕時計を確認していた。となると、秀ちゃんはストーカーの如く入念な前調査をして、この計画を立てたことになる。わざわざ遅刻したのも、時間を合わせるためだったのかもしれない。だったら最初からその時間に出れるように待ち合わせをしろよと言いたいが、自由人な秀ちゃんなら仕方ない。

 つまるところ、秀ちゃんはあの子に気があって、自作自演をしてまでも気に入られようとしたのだ。それだけ本気、と言うことなのだろう。

 この茶番に私を引き入れた理由が分からないが、その推測は限りなく正解に近い気がした。

 秀ちゃんがそこまで本気だというなら、例えやり方が間違っていても、自作自演であることは黙っておいた方がいいのかもしれない。

 今朝のビンタのことは水に流したのか、仲睦まじく何かを喋っている2人から、私はそっと目を逸らした。

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