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episode 9

なんで。電話一本でのこのこ出かけてるんだろう。

圭司の部屋に・・・・・

「飲み足りないから、こっちに来いよ。」

ってそんだけの言葉だったのに。


「5分で迎えに来るから。」

そんな言葉に何いそいそ準備してるんだろう。

きっとさっき居酒屋で飲んだ生ビール3杯のせいだ・・・



あえて、あえて素っぴんで来た。

服装もTシャツにハーフパンツ

髪も洗いざらし。

だって部屋で飲むだけだし。

圭司もTシャツにハーフパンツ

サンダルで迎えに来た。

私もサンダルで、部屋の外へ出た。

「鍵、ちゃんとかけたか?電気は?」

黙ってうなずくと、

圭司は私の手を引いて、一緒に階段で上の階へ上った。


部屋に入ると、当然だけれど

圭司は玄関のカギをかけた。

なんだか、ドキドキした。

玄関から廊下を抜け、ダイニングに入った。

「そこ適当に座れよ。」

やっぱり殺風景な部屋だった。

中には見たことのある家具もあった。

ソファーとか、オーディオとかクッションとか・・・・

ぼーっとしていると。

「テレビでも付けろよ。」

相変わらず几帳面にリモコンが並んでいる。

テーブルにはそれ以外乗ってない。


冷蔵庫からビールを出して圭司が戻ってきた。

「カーテンも買いに行く暇ないんだよ。」

本当、カーテンないや。

でも最上階で周りにもっと高いマンションないし・・・

まあ、覗かれることはない。とは思う。

たった一階違うだけなのに、景色が違う。

「カーテンは買えなくても、ビールは豊富なんだ?」

冷蔵庫からビールを出す様子につい口も出た。

「ビールは宅配で届けてくれるからさ。」

「カーテンもネットで買えば?届けてくれるじゃない?」

「ネットでじっくり探す時間もないよ。

 それに目で直に見れないし触れないし。」

ソファーに座り、部屋を見回した。

「やっぱ、広いね。私の所より。」

一部屋広い分、なんだかがらんとしてる。

家具もあんまりない。

冷蔵庫だけやけに大きい。

その冷蔵庫もきっと、アルコールしか入ってないに違いない。

でも、独身だからと言って、彼女がいないとは言わなかった。

中はあまり見ないでおこう。

もしも、何かあったらこの楽しい時間が台無しだ。

「運ぼうか?」

あまり見ないようにして、ビールを受け取って

テーブルに運んだ。

L字型に置かれたソファーに並ばないように座る。


「ベランダ。広いよ。何もないけれどさ。」

「洗濯ものでも干すの?」

「そんな訳ないだろう、干す時間がないし、俺、主婦かよ。」

「でも、散らかってないし。掃除とかしてるの?」

「だから、家にいる時間が少ないからさ。

 あーでも、この間、母ちゃんが来て、狂ったように掃除してて。」

「圭司その間どうしてたの?」

「仕事しながら、母ちゃんの小言聞いてた。」

思わず大笑いして、そのままの勢いで缶ビールで乾杯した。

つまみはスナック菓子ばっかり。

この辺全然変わってない。


「お母さんの説教のネタは何?掃除しなさいとか?」

「掃除機買い替えろ、全然吸わないとかー、洗剤がないとかー。

 ゴミ袋がないとか。バケツもない、モップリースすれば。

 引っ越したばっかであるか!そんなん。」

「いや、引っ越しの時、普通買うものばっかりだし・・・」

「そうなのか!!」

「そうだよ~~~。」

「母ちゃん、社長と顔そっくりだし、そのうちなんか

 社長に怒られてる気分になるし。」

「社長は洗剤ないとは言わないだろうけれどね・・・」

顔を見合わせてくすくすと笑うと、本当に楽しい。

こんなに年月流れたなんて信じられないくらいだ。


「こんな年取った息子の面倒見るのはしんどいとか

 いい加減結婚しろとか、もう耳にタコ・・・。」

と言った時点で圭司もふっと表情が変わった。

そこは触れてはいけないポイントだったような。

どう答えていいかわかんなくて黙ってた。


しばらく沈黙でテレビの画面を見つめた。

週末のお決まりの番組。

もう見飽きた。

正直見飽きた。

毎週、テレビで曜日を感じ、

特番の構成で、季節を感じた。

陽気な司会者が番組を進行している。

笑い声は間違いなく演出。

でもそれがなかったら気まずいだけ・・・


ふっと気付いた。とってもいまさら・・・

「ちょっと待って、あたしの携帯番号何で知ってるの?」

私は、圭司と別れてから携帯番号を変えたんだ。

そして圭司の番号も消去したのよ。

「携帯番号変わったんだけれど。」

「今頃気付いた?遅っ!!」

酔っているせいなのか、圭司は大爆笑している。

重い空気がいっきにまた晴れた。

「何で知ってるのよ!!」

「あのさー、一応俺上司だから、連絡先位把握してるけれど。」

「ああ・・・そういうこと。」

なんか拍子抜け。

そりゃそうだ。

「俺のは変わってないけれどね。」

そう言って私を覗きこんだ。

なんか意地悪したくなって、口を開いた。

「消したわ。あなたの番号は。」

どう反応するのかドキドキした。

でもさらっと、圭司は返した。

「そうだろうな。」

この至近距離で冷静に返されたら、どう反応したらいいのか。

大人のクールな会社での私に戻れるだろう。

うつむいて、黙りこむしかなくて。

無防備な、昔の私に戻った気がした。

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