episode 6
こっちは悶々と苦悩の週末を過ごしたのに
会議室の上座の圭司は漂々と涼しげな顔で
月曜日の定例会議をこなしている。
憎たらしいくらい普通に私に意見を求めた。
ここはビジネスだ
当たり前の日常に戻るのが大人だ。
内心を隠すことはこの5年で
嫌というほど学んだじゃない?
その成果を試すのよ。
自分で感心するくらい普通に
意見を返した。
大丈夫、私は大丈夫だ
惑わされちゃダメだ
もう一切、金輪際奴に傷つけられるんはごめんだ。
あんなキス奴にとってあれは、歯磨きと変わらない
日常の当たり前の動作だ。
手元の資料に集中することにした。
幸い中身が自分の手がけている取引だったので
仕事脳にあっという間に戻ることが出来た。
会議が終わりオフィスに戻る前に、トイレに寄ったので
ちょっとずれたタイミングでオフィスに戻るところだった。
階段に差し掛かると、見慣れない顔があった。
これは今一番憎むべき顔、いとこの孝也だ
「げ!奈央!!」
明らかに動揺しているのはわかった。
給湯室に引っ張り込み睨みを利かせた
「あ~~~ら、本社の人が来てるわ、珍しい。
シンガポールに行ってたんじゃなかったのかしら??
それに会社で奈央って呼ばないでよ。
それで、私になんか言うことあるんじゃないのかしら?」
「なんのこと?」
ちょっと冷静さを取り戻したらしく、にこやかに私に返した。
「あなたはあのマンションしか紹介する物件を知らないってわけ?」
孝也はニヤリと笑い
「圭司にはあの物件しか合わなかったんだよ。
なんか不都合でも??」
・・・・・・・・・・・・・
そう言われちゃ言い返せない。
「別に、ただあんたは知らない訳じゃないのに
不文律なことするわね。趣味が悪いわ。」
そう精いっぱいのプライドで答えた。
そうだったんだ、プライドがズタズタなんだ。。。私。
「いつまでも幻に取りつかれてるお前を見てられないんだよ。」
そう言うと孝也はぽんと私のおでこを叩いた。
「あいつもずっととらわれたままだ。
幻に取りつかれる苦しさはお前が一番わかってるだろう??」
その一言は
私を一瞬捉えた
そして全身を一気に血が流れたような
そんな錯覚を起こした。