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Episode 5

奈央の部屋から、自分の部屋に戻って、

パソコンの電源を入れた。

メーラーを開いてから、シャワーを浴びにバスルームに向かった。

パソコンに再び向かったときには、日付が変わっていた。

1通1通メールを開いて必要なものはプリントして

一息ついたらどっと疲れが押し寄せた。


支社に配属になってから、まともな休みが一日もない。

20代の頃まだ良かったけれど、多少疲れる。

部屋を見回して、カーテンを閉めてないのに気付いた。

窓辺に近づいて、外を見た。

コンビニ、ファミレス、24時間営業の店。

便利はいいんだが買出しに出る気にはならないな。

コンビニの明かりを恨めしそうに見つめて

カーテンを引いた。明日は日曜日だし、好きな時間に仕事に行けばいい。

もう少し資料をまとめるか。それとも寝るか?

その時携帯が鳴った。

おいおい、もう深夜だぜ、誰だよ。

苛立ちつつ携帯を手に取った。

画面を見てかけてきた相手の名前を見て、ため息をついた、孝也かよ。

「おう、何だよ。」

「今、お前んちの前。今帰ってきたんだよ。」

「わかった。」

ドアに向かって歩いた、あいつはアポってものを知らんのか

ビジネスマンの癖に。


ドアを開けると、孝也が土産の紙袋と旅行鞄を携えて立ってた。

「遅くにすまんな、お前が寝てるとは思えないから

 遠慮なく新居を見にきたよ。」

「たまには遠慮しろよ。お前は。」

「まーそうガミガミ言うな、数日早めに戻れたんだ。酒飲もうぜ。」

ああ、この土産の袋はアルコールか・・・・


準備よくつまみまで持ってきてる、こいつ。


乾杯してすぐ孝也が切り出した

「奈央の反応は?」

その目は面白そうなものを見るようだな。

「そーねー・・・・まあ、お前は会うときは

 サンドバックにされるかもな。」

「怒ってんの?あいつ?」

「多分ね。」

グラスの中の琥珀色の液体をぼんやり眺めながら

さっきの奈央の反応を思い出した。

怒ってるんだろうな。間違いなくな。

「話してないのかよ。この下に住んでるのに。」

「いや、さっきも会ったよ。」

孝也は表情を変えずに目線だけをこっちに向けた。

「さっき?」

「1時間ちょい邪魔してた。」

「で?」

「カレー食ってきた。腹減ってたから。」

「で?」

「帰ってきた。」

「それだけ?」

「それだけ。」

孝也は大げさにソファーに身を倒した。

「なんだよそれ、つまんねー。」

「俺は真面目だから♪」

「真面目が聞いてあきれるな。」

「孝也ほど女癖悪くねえよ。」

孝也はニヤリと笑っていたが、しばし沈黙が流れた。

その後ゆっくり孝也が話し出した。

「母さんがさ、なんで奈央は浮いた話ひとつないんだって

 もう30なのにって、もう何回か話を持ちかけてて

 奈央も最近うちにも寄りつかなくなったよ。

 母さんもしつこいからな。」

「お前が身をもって知ってるもんな。」

孝也の母、つまり叔母はよく写真を持って

会社までも追いかけてくるらしい。

現に俺にも数度、話を持ってきたことがある。

くくくっと孝也は笑った。

「俺は恋愛結婚派なんだよ。」

良く言うよ、まともに恋愛なんてやってるの見たことないぞ。

「じゃ、一生無理だな。」

「お前もな。奈央が許してくれない限りな。」

「もう打込まれまいとがっちり固めてるよ、あいつ。」

奈央の最近の表情を思い出し

ついしかめ面になって答えた。

「そりゃ、お前の仕打ちの酷さを物語ってるんだわ。」

孝也を睨むと、孝也はすました表情で見返した。

「捨てられた男の幻に惑わされてるとしか思わんな。

 お前も捨てた女の幻に惑わされてると思ってた。」


奈央の幻

惑わされてるとは違う。

まだ違う、何か違うものだった。

ただ、思い出にするには生々しすぎる感情が消せなかったかもしれない。


決して捨てた訳じゃないんだ。決して。

あの時はそれなりの理由があったんだよ。


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