Episode 4
奇襲だった。
土曜日の夜10時。
チャイムが鳴った。
誰?恐る恐る覗くと、佐久田圭司!!
「あ~~け~~て~~」
何故か会社帰りのスーツ姿。
いや、今日は会社は休みだけれど
お偉いさんですからね、自主出勤かしら?
いや、開けたくないけれど、隣の人たちに
誤解されたくない。
素早くドアを開けると、当たり前のように入ってきて
さっさと靴を脱いで上がりこんだ。
「へ~~俺の部屋と間どり違うわ。」
そりゃそーでしょ、上の階のほうが一部屋多いし。
ずうずうしくもソファに座りこんでネクタイを緩めてる。
「あのさ、誰も座ってって言ってないわよ。」
そう言うと、片目でちらっとこっちを見た
「入れてくれたじゃん。」
「近所に誤解されたくないし。」
そう言うと、ふふっと笑った。なんで笑う?そこ笑うところ?
「30歳独身女性に彼氏出現!って噂が立つって?」
ぐ・・・・・
「それより何の用?こんな時間に。」
「疲れたなあって思って~~。」
「・・・・・家帰って寝たら?」
もっともだと思うんだけれど・・・・
「お前の顔見たくなったの。」
にっこり笑ってこっちを見た
バカにしてる?
腹立つ!!ここは一言言ってやらねば
「5年も見なくて平気だったんだから
また5年見なくても平気でしょ??」
そう言うと、奴は片眉だけピクリと上げて私を見た。
やった、刺した!いいとこついちゃった。
だが、数秒でいつもの表情に戻った。
眼鏡を外して、目頭を数度揉んでから
そしてゆっくり口を開いた
「平気だったと思ってる?」
その表情は真剣にも見えたし
私をからかってるようにも見えたし
どう取っていいのか良く分からない。
数秒沈黙が続いた。
また急に奴は口を開いた。
「奈央~なんかカレーの匂いするけれど。」
がっくり・・・・
「お腹空いてるの?」
「うん、今日昼も食ってない。」
で、なんでまたいそいそと
食事の支度なんかしてるの私??
カレーとサラダとビールまで飲んで
11時半になって、やっと奴は立ち上がった。
「さて、メールチェックしないといけないし戻るかな。」
やれやれ・・・やっと帰るのか。
玄関まで来て、つい聞いてしまった
「忙しいのね、会社休みなのに。」
薄笑いを浮かべて答えた
「ああ、まあ、もう慣れたけれどね。
叔父貴には恩がいっぱいあるし、
なによりやりがいあるしね。」
そしてやっぱりちょっと昔より
大人の表情に気付いてしまった。
しまった、なんかちょっとときめいてしまった。
ダメだ
私は、あの頃の小娘じゃない。
同じ失敗と同じ苦しみは味わいたくない。
こんなの同窓会が楽しいのと一緒だ
終わった後には空しさが残るんだ。
靴を履いて圭司は立ち上がった。
「じゃ、ちゃんと鍵かけろよ。」
そう言ってドアを開けた、ところでふっとまたドアを閉めて
振り返った。
「何?」
そう言うと、真面目な顔で
「忘れ物した。」
と言うな否や、一瞬で抱き寄せられた
思考回路停止
気がつけば、圭司の顔がそこにあった
ただ、黙って目を閉じるしかなかった。
どのくらい時間がたったのだろう
もしかしたら短いのかもしれない
唇が離れた瞬間、ちょっと聞こえた
「平気なわけないじゃん」
やさしく体を離した圭司は
「鍵、忘れるなよ。」
そう言ってドアの向こうに消えた
ドアが閉まった瞬間、我に返って鍵をかけた。