episode 33
会社は10日間の大型休暇中。
とりあえず最低限の荷物は移動して
後は業者に任せることにした。
部屋の中は大きい家電が残っている
いるものいらないものの移動は業者にお願いした。
家賃も決して安くないので今月いっぱいで引き払えるよう
孝也に頼んで話はついた。
社長である叔父と相談しながら
会社の事を処理し、私は時期を見て退職することにした
今まで築いたキャリアは正直惜しい。
でも今じゃないと出来ない事もある。
私は、自分の子供と家庭を大事にしたいと思った。
不器用な私には、両立なんかできない。
じゃ、うちの会社手伝わない?という圭司のご両親の話は
圭司が、ダメだと断っていた。
それはそれで賢明な対応かと思う。
いろんな意味でね。
明日から休暇明けの仕事という夜になった。
圭司は、昨日から会社に行ったり、部屋に籠って仕事したりしている
私はというと、暑さとやはり妊娠による体調の変化と、環境の変化で
部屋でぼーっと空を眺めて過ごしていた。
それよりきっと、明日からどんな顔でみんなに話せばいいのか
正直悩んでいた。
これまで仕事の鬼とか、鉄の女とか、一生独身だろうとか
好き放題思わせていたのにね。
本当はしばらく黙っておきたいところなんだけれど
体調不良の理由を隠しておくのは良くないと
圭司が駄目って言ったんだよね。
なんだかテレビも面白いのがない
夕飯を終えて、圭司は部屋で仕事をしているようだ
ちょっとネットでもするかとパソコンを開いた。
最初にメールをチェックした。、
仕事関係のメールも入っている。
もう夏の休暇も終わった取引先からだった。
そんなメールを読んでいると、新しいメールが入った。
差出人の名前を見て驚いた。
圭司だ。なんで???
ドキドキしながら開いてみた。
題名 驚いた?
ごめん、ほったらかしで部屋にこもってしまって。
パソコンの起動音がしたからさ
あんまり元気がないから、明日からの心配してるんじゃないかと
気にはしていたんだけれど、つい仕事が気になって。
あまり気に病むなよ。大丈夫、俺が何とかするから。
とりあえず今日はゆっくり休んでろよ。
思わず、後ろを振り返ってみたけれど
ドアは閉まったままだ。
・・・・本当に気の回る人ね。
なんだか隠しごとが出来ないみたいだけれど
一つだけ、私が隠していることがあるのよね。
これは秘密にしておこう。うん。
一つくらい私が優位に立ててもいいじゃない?
そうひそかに笑いをかみ殺して、
私は大丈夫、仕事がんばってねとメールを返した。
後で、コーヒー淹れてあげよう。
パソコンに入力していると目に付く。
私の左手には昨日出来上がった婚約指輪。
結婚指輪は、式が終わってからに取っておこうと決めた。
キラキラするダイヤモンドをずっと見つめていた。
角度を変えるごとにキラキラするその輝きをしばらく見つめて
指輪をケースにしまった。
思っていたより結婚っていいかも。
電源を落として、コーヒーを淹れにキッチンに立った。
翌朝、圭司は先に会社に行った。
いつもかなり早くに出勤しているから。
「お前はゆっくり出てこいよ。
気分が悪い時は遅れてもいいから
出来るだけ空いてる車両に乗って、・・・」
と心配そうにいつまでも言う圭司を見送った。
会社に着くと、いつのも一日だった。
朝の定例会議で見かけただけで、圭司とは会わなかったし
営業に出かける人たちで人間の減った頃
課長にちょっとと呼ばれて、おめでとうと言われるまでは
誰も何も聞いてこなかったし
午後に、笑みを浮かべた佐藤係長にハイタッチを求められただけだった。
奈津美ちゃんが
「高岸主任~~おめでとうございます!!
すごい~~お互い5年も思い続けるなんて
うらやましいです!」
と興奮してやってきたのは3日後のことだった。
それから何人かに冷やかされたけれど、
その頃には私の気持ちも落ち着いていた。
そして私は、圭司の忠告を聞いて
定時に帰るようになった。
圭司は相変わらず忙しそうだけれど
今から帰ると電話やメールを貰う度
結婚したんだなって実感できた。