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episode 32

「叔父さん、

奈央と結婚させて下さい。」


社長でもあり、叔父でもあり、

私の父親役である叔父は、

火を付けようとしたタバコを、

ポロリと手から落とした。

圭司は立ったまま深く頭を下げている。

慌てて私も頭を下げた。

「お願いします。」

一瞬、呆気に取られてた叔父は、

タバコは床に落としたままだった。


「ま、まあまず座れ、2人とも。まずは座れ。」

そう言って私たちを座らせてから、叔父は話し始めた。

「付き合ってます、でなくて

 結婚しますって、だって圭司、

 お前が移動になったのは、確か6月だろう?

 お前たちが付き合ってくれればいいなとは思ってたが

 急展開過ぎないか?」

叔父はあたふたした様子だ。

会社では、取り乱す姿を見た社員はどのくらいいるだろう。

いつも冷静な叔父が、驚いた顔で圭司と私を交互に見た。


圭司が冷静な声で話し始めた。

「実は叔父さん、」

圭司が話す様子を見つめながら、

私はなんだか、口が乾くのを感じた。

自分が喋っているわけじゃないのに。

「奈央とは本社に移動になる前、付き合ってました。

 別れて5年間ずっと、やっぱり奈央しかいないと思い続けてました。

 今回、再会して奈央も俺を許してくれて、

 また付き合うようになりました。」

叔父はまだ呆気にとられている様子だった。

そりゃそうだ、寝耳に水ってこういうことだろう。


そこへ叔母が、コーヒーの乗ったトレイを持って戻ってきた。

話は聞こえてたようだ。

「何で、あなたたちその時別れたの?

 別に転勤になったからって、別れる必要無かったのに。」

叔母さまは意外なことに冷静にそう聞いてきた。

「俺が、はっきり言えば置き去りにしたんです。

 奈央は何も悪くなかった。

 奈央も仕事が乗った頃だったし

 佐久田のあの頃の状態も良くなかったし、

 別れた方がいいと勝手に思ったんです。」


叔母はため息をつきながら

「本当に勝手ねぇ。ねぇお父さん。

 確かにあの頃色々あったと思うけれど

 そこまで圭司君が思いつめなくても良かったのに。」

そう言って、コーヒーを並べながら呟く。

「これで納得いくわ。

 奈央がかたくなにお見合いに応じなかったのも

 圭司君が、やっぱりお見合いもしなければ、

 誰とも付き合おうとしないのも、

 休日も仕事ばっかりしてたのも。」

そう言いながら

「ほら、冷める前に飲みなさい。

 奈央も、奈央の好きなチーズケーキも買ってきておいたのよ。」

そう言ってケーキを私の前に出した。

子供の頃から好きだった、この近所のケーキ屋さんの

チーズケーキだ。

「これ買いに行ったら、奈央ちゃんが来るの?って言われたわ。」

そうだ、子供の頃、ここに泊まるときはいつも

一緒に買いに行ってたんだ。


「でも、本当急展開ね、結婚するなんて。

 もうお互い30代だし、もちろん賛成よ。

 ねぇお父さん。」

そう叔母が言うと。叔父が続けた。

「だが急だなあ。いつ式を挙げようと思ってるんだ?」

叔父はようやく落とした煙草を手に取り口に運ぼうとした。

「叔父さん、すぐにでも。

 来年3月には子供が生まれるんで。」

叔父はまた煙草を手から落とした。

叔母はコーヒーに入れようとした

シュガーを袋ごとコーヒーに落とした。


圭司はいつも、仕事でも簡潔にわかりやすく進める人だけれど、

今日ばっかりはその性格が憎いと思った。

直球にも程がある。


***************


圭司のご両親は、本当は、午後6時に来る予定だったらしい。


しかし、結婚の一声で、

片道45分なのに、1時間でやってきた。

そこからは、圭司の両親と叔父と叔母で大はしゃぎだった。

35歳と30歳の結婚に反対なんか誰もするわけがなかった。

式の話しはちょっと待ってもらい、とりあえずその日の夜は

お祝い事のような騒ぎだった。

気の早い人たちばかりで、赤ちゃん用品は

誰が何を買うとか、そんな話で盛り上がってた。


車で一時間かかるからと、私たちが失礼したのは、午後9時だった。

助手席でボーッと外を見ていた。「奈央、大丈夫か?」

そう聞くので

「うん、すごい騒ぎになったね。」

そう答えた。圭司はにやりと笑い、私の頭をポンポン叩いた。

「これも全て終われば、熱も覚めるよ。

とりあえず、悩むなよ。」

そう言って微笑んだ。



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