episode 30
翌日、休日診療をやっている産婦人科を探し
診察を受けた。
一緒に行くという圭司を無理矢理説き伏せ
駐車場まで送ってもらい、終わってまた
迎えに来てもらった。
終わったよと電話をかけて5分で、
圭司の車は駐車場に入ってきた。
歩き寄ると、すぐに助手席に乗り込んだ。
「早かったのね、どこかで待っていてくれたの?」
そう聞いてしまうくらい早かった。
「まあブラブラとね。そろそろかなって。
ところで、どうだった?なぁ、元気そうだった?子供。」
元気そうとか、なんか可笑しくて、クスクス笑うと。
「笑うなよ、俺、真剣よ?
付いていけば良かったよ、落ち着かなくて。」
そう言いながらも車を走らせた。
「で、写真とかもらった?いつ生まれるの?」
前を見ながらも気になって仕方がない様子で聞いてきた。
「そうじゃないかとは思ってたんだけれどね・・」
思わずふーっとため息が出た。
「何が?悪い話?」
ううん、と頭を振ってみたけれど、言いにくい。
「圭司がこっちに来たのは6月初めだったでしょ。」
「ああ」
「圭司が来た頃が最後の生理だったのよね。」
「へぇ。」
「だからつまりはね・・・。」
ああ、なんだか言うのが恥ずかしい。
「つまり、あの5年ぶりの夜で出来ちゃったってことか?」
・・・・・・・・・・・たぶんね。
ああ、身も蓋もない人なんだから。
「お前、何恥ずかしがってるの?今更。」
「だからつまり・・・計算的にはもう妊娠10週目で。」
「あまりに早すぎて周りに言うのが恥ずかしいって?
別にお前一人で作ったわけじゃないんだからさ。」
!!!!!!!
「だから恥ずかしいんでしょ・・・」
そう思わず呟くと、圭司は大笑いした。
ちょうど信号は赤に変わり、車を止めてこっちを見た。
「そんなの言わせときゃいいんだよ。」
圭司はさらりとそう言った。
信号が青にかわり、車を走らせた。
「なぁ、とりあえず、奈央がうちに引っ越さないか?
うちのほうが少し広いから。
大きい家具は業者に頼んで動かしてもらうから。
小さな物は俺が運ぶから、自分でやろうとするなよ。」
「あ、でも圭司だって怪我してるのに。」
あまりに目まぐるしいくらいいろんなことが起こって、
圭司が怪我してるの忘れそう。
「こんなの怪我に入るか。
サッカーやってる頃のほうが、
傷だらけだったんだじゃないか。」
圭司は大学でもサッカーやってたらしく、
出会った頃は、趣味で社会人チームにも入ってた。
何度か試合があったりしてたけれど
周りに内緒で付き合ってたんで、遠くから見てるだけだった。
それでも、サッカーしているところ見られるってだけで
それだけで楽しかった。
「サッカー、いつ辞めたの?」
「本社に移動になったときに。時間もなくなったし、
色々思ったら、続ける気分になれなかったし。
お前も仕事がんばれよって言った手前もあるし。」
その言葉にちょっと落ち着かない気分になった。
それで辞めちゃったなんて。
圭司はすぐさま
「バカ、また勝手に私のせいとか思ってるだろ?
違うよ。仕事に打ち込むと決めたからなんだから、
まぁ、ジムには週末通ったけど。
それぐらいしないと、メタボになるだろ?」
そこまで全部言われると、
もう言うことないじゃない。
「圭司はさ。」
そう、いつもだ。
「私の心、読んじゃうよね。
昔からいつも。」
そう悔し紛れに言うと、フッと鼻で笑った。
「で、予定日はいつ?」
「2月終わり頃だろうって。」
「そうか、色々急ぐか?
今からこのまま社長とこ行くか?」
「ちょっと待って!」
「心の準備が出来てない?って。」
そう圭司は笑った。
「具合悪くない?」
「うん。」
「買い物行こうか?」
何を?まぁお昼とかだろうけど、今すぐ社長に会うのはためらう。
「暑いからな、具合悪いときはすぐ言えよ。」
そう言うので
「どこに行くの?」
そう聞くと、一瞬だけこっちを見て、
「着いてのお楽しみ。」
そうニッコリ笑って、また運転に目線を戻した。
今日もよく晴れて、アスファルトに太陽が照りつけ、
歩道を歩いている人は日傘を差したり、
汗だくだったり、日陰を選んで信号待ちをしていたり。
そんな街中の風景を、ぼんやり眺めていた。
だけど、目に入るものより、
今自分の中の不安感や、なのに嬉しい気持ちとか、
それを抑えるような気持ちとか入り乱れて、
現実なのか夢なのか、そんな落ち着かない気分になる。
どのぐらいぼんやりしていたんだろう。
急に圭司が話しかけてきた。
「奈央、一人で悩むな。」
はっと我に返った。
運転席の圭司を見ると、ちらっと私の方を見て。
「不安な気持ちはきちんと口に出せよ、
俺は別にお前の気持ちが読める訳じゃないぞ。
これから先の人生一緒に暮らすのなら
ちゃんと気持ちを口に出すようにしないと。な。」
そう言って左手を、私の頭に伸ばして、ぽんと叩いた。
「うん、わかった。」
そう言って、前をしっかり見た。
うん、そうだよね
お互いの思っている事は
口に出さないとわかんないか。
でも、圭司はわかってるような気もするけれどね。
圭司の横顔を見ながら、話を始めた。
「ねぇ、冷蔵庫も洗濯機も一台ずつ余っちゃうね。
どうしようか?」
そう言うと、にっこり笑った圭司が言う。
「そうそう、その調子でどうしようって言えよ。」
まず一つずつ簡単なものから片づけていこう。
大人っていろいろ面倒くさいね。