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episode 27

佐和子の席から自分の席に戻るため

廊下に出たところで、自分のオフィスから

私の事を探している声が聞こえた。

「高岸君~~~電話!!」

慌てて部屋に入り

「はい、ここです。」

課長が怪訝な顔で言った

「本社の営業部の水島部長代理からなんだけれど。

 佐久田部長の乗ってる飛行機にトラブルがあって

 怪我をされてるらしいんだけれど、

 高岸君に代わって欲しいって。」

一気に言われて飲み込むのに時間がかかった。

圭司が怪我?

「何番ですか?」「2番」

自分の席の電話を取り、2番を押した

「もしもし?孝也なの?どういうこと?」

「奈央か?落ちつけよ。

 兄さんと圭司の乗った飛行機がトラブルがあって

 怪我したらしい。

 奈央、そっちの課長には話付けてやるから

 お前が病院に来い。

 落ち着いてこいよ。俺も行くから。」

心臓が痛いほど脈を打ってる。

飛行機の事故なんて、悪い事しか思い浮かばない。

「怪我ってどんな?ねぇ。」

「何しろ搬送されたばっかりだし。分からないけれど、落ち着いて来いよ。

 携帯、ちゃんと出れる様にしておけよ。いいな。」


本社で電話をしている孝也の後ろに、浜本ゆかりがいた。

電話を切るのを待ってたかのように話しかける。

「水島さん、高岸主任とお知り合いですか?」

孝也は振り返って、浜本ゆかりを見て、ああ、という顔をした。

立ちあがって上着とカバンを手に取りながら

「奈央はいとこだよ。俺の。」

そう一言返した。浜本ゆかりの表情が驚きに変わった。

「佐久田部長もいとこじゃなかったんですか?

 なんで付きあったりしてるの?」

「圭司は親父のほうのいとこ、奈央は母親の方のいとこ。

 圭司と奈央は血は全く繋がってないから。

 もう少ししたら、親父が来る。そしたら

 もう今日は帰っていいよ、浜本君。」

そう言い残して、圭司はオフィスを出て、駐車場に向かった。


慌てて身支度をする私に

「高岸君、気を付けて。

 どうなってるのか電話で報告してくれよ。」

課長はそう言って送り出してくれた。

「はい、行ってきます。」

慌てつつも、冷静さを見せないと。

課長を振り返って見てからそう答えた。


パタンとドアが閉まる。

課長が、もう一人残ってた佐藤係長に話しかけた。

「佐藤君、高岸君大丈夫かね?顔色悪いけれど。」

「大丈夫ですよ、着きますよちゃんと。」

課長は怪訝そうな顔のまま続けた。

「高岸君と社長の次男坊は仲いいのか?

 名前で呼んでたけれど。」

そう言うと、佐藤は小さな声で言った。

「内緒ですよ、いとこらしいですよ。」

課長の表情が変わる。驚いた声が2人きりの部屋に響いた。

「は?俺は初耳だぞ。知らなかったよ、佐藤君」

「俺のかみさん、結婚前は本社の人事部だったんで

 こっそり聞いたんですよ。一応緒内緒らしいので

 黙っておいてやって下さいよ。」

「佐久田部長もそうだろう?社長の甥なんだろう?」

「佐久田部長は社長の甥、高岸君は奥さんの姪。

 だからこの2人は血のつながりはないですよ。」

そうにっこり笑って続けた。

「多分、高岸は、そういう身内扱いが嫌で

 ずっと支社でひっそりやってるんですね。

 だから課長も知らない振りしてやって下さい。」


地下鉄に飛び乗って、教えてもらった救急病院を目指した。

飛行機で帰ってくるなんて言ってなかったじゃない。

怪我って、どうしよう。

このままだったらどうしよう。

プロポーズだってまだ返事もしてないのに

圭司をがっかりさせたままじゃないの。

なんだか気分が悪い。でもしっかりしないと。

地下鉄の窓には自分しか映らない

でも、外を見ながら必死で自分の気持ちを守った。


病院の最寄駅に着いた時、孝也から電話が鳴った。

「奈央、今どこだ?」

「駅に着いたよ、タクシーがいいかな?」

「5分待ってろ、西口の方で。俺も近くまで来た。」

改札を抜けて駅前のロータリーにたどり着くと

孝也の車がちょうど入ってきた。

助手席側に回るのももどかしいので

後部席に滑り込んだ。

「どうなったの?」

我慢できずにまず聞いた。

「たいした怪我じゃないって、安心しろ。」

「たいした怪我じゃないってレベルがわかんない。」

「ま、かすり傷とかその程度よ。」

「本当に?ねぇどのくらいで着く?」

「10分もあれば着くから。」

あまりに冷静な孝也を見ていたら

自分の慌て方が恥ずかしくなって

座席に深く腰掛けた。

「新幹線移動って聞いてたのに。」

そうぼそっと言うと

「ちょうどキャンセルが出たらしくて、

 新幹線より早く着く飛行機でって

 なったらしいよ。」


病院の駐車場に車が滑り込んだ。

車を止めたとたんに奈央は車を飛び出した。

「奈央!ちゃんと周り見ろよ!危ないぞ!!」

慌てて駆け込む奈央の後ろ姿を見ていた孝也は

「なんだ、やっぱり上手くいってるんじゃねぇか。

 取り越し苦労だったな、俺の心配は。」

思わず笑いが込み上げつつそう呟いたが、

玄関の段差で引っかかった奈央を見て

慌てて駈け出した。


救急受付の待合室に治療を終えたらしき人が

数人いた。圭司じゃない。

後ろの孝也を振り返って見ながら泣きそうになった。

「孝也、いないよ圭司も文也兄さんも。」

「奥に行ってみよう。」

奥には大きい待合室があって、そこは外来の待合室のようだ。

そこに圭司が座っていた。

手首に包帯と目の上に絆創膏。

「あれ?奈央、来たのか。」

その姿を見てほっと力が抜けた。膝が震えてる。

近くに寄っても、声も出なかった。

「たいした怪我じゃないよ。たまたま乱気流入った時

近く歩いてた小さい子が転んで、そっちを抱き抱えたら

一緒に飛ばされてさ。休みだからか子供が多くて、

急に揺れ出したし、うろうろしてる子が何人かいて

文也兄さんも違う子かばって飛ばされたけど・・・」

そこまで聞いた記憶がある。

そこから意識が薄れた。自分の膝が崩れたのは分かった。


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