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episode 25

木曜日の昼休み、圭司からメールが来た。


件名 土曜日の夜に

花火大会、割と近場であるから

行こうか。

明日、朝から大阪に行くことになった

土曜日の午後に帰るから。 圭司


ちょうど近くのカフェにいた。

明日まで浜本さんがまだこっちにいるので

社員食堂を避け、外に出てご飯を食べようと

ビルを出てすぐのカフェの中にいた。

暑いし、あまり外には出たくないけれど

また狙われたら嫌だし。

でも、8月のビル街の熱気は異常。

なんだかくらくらしてくる。

あんまり食欲もないけれど、

仕事もあるし、ばててる場合じゃない。


花火、土曜日ね、すごく暑いし疲れたまってるけれど

私は休みだし、昼間ちょっと休養すればいいかな。

働きづくめの圭司には申し訳ないけれど。

メールの返信を打って、冷たいラテを飲んだ。

ここのラテ大好きなのに、

なんだか味がわかんなくなった。

思った以上にストレスだったのかな、浜本さんの事。

まあ、それも明日までだし。

この週末から会社がお盆の連休に入る。

叔母様に挨拶にも行かないといけないだろうな。

ああ、覚悟しないと。

ああ、余計食欲無くしそう。

この間があれだったしな。

でも、やっぱり挨拶には行かないと。

手土産は何にしようかな。

サンドウィッチに手を伸ばしながら

携帯で、今、評判の手土産を探した。


**********

その夜、残業だった圭司が戻って来たのは9時。

携帯で、ちょっと部屋に来てと言われて

いそいそと自分の部屋の戸締りして

圭司の部屋に向かった。


「明日の準備した?大阪いいなぁ、もう2年行ってないよ。」

そう言うと、圭司はちょっと呆れ顔で

「仕事じゃなかったらな、楽しいだろうよ。」

そう言って、風呂上がりの濡れた髪を、タオルで擦った。

「専務と2人で、大阪で何するよ。

 専務あんまり飲み歩くタイプでもないし。」

ふふっと笑いが込み上げる。

専務の文也兄さんは、孝也と性格違って寡黙だもんなぁ。


「文也兄さん、最近会ってないよ。元気かしら?

チビちゃん達にも正月から会ってない。

元気かなぁ。」

文也兄さんには2人の男の子がいる、元気でやんちゃな男の子たち。

叔母様を避けると、必然的にチビちゃん達にも会えないのだ。

「お盆はやっぱり一度は叔母様に挨拶に行かないと。

なんか考えるだけで疲れるわ。」

つい、大きなため息をつくと、圭司が吹き出した

「ひどーい。叔母様の最近の話は決まってるのよ。

 もう自分で結婚相談所でも

 開いた方がいいんじゃない?って思うわ。

 大体、孝也だっているんだし、

 独身なのは向こうも一緒なんだし、あっちが先じゃない?」

ついブツブツと愚痴を並べると、

圭司は困った顔で私の横に座った。


「なんかこのタイミングで言いにくいな。

 これ、今日出来てきたから渡したかったんだ。」

圭司は小さな水色の紙袋を、私に渡した。

「見てみろよ。」

無言でうん、と頷いて、紙袋を開いた。

中には、紙袋と同じ色の小箱が入っていた。

オフホワイトのリボンがかけてあった。

小箱をそっと紙袋から出した。

「開けていいの?」

そう聞くと、

「当たり前だろ。早く開けてみろ。」

リボンをほどいて、箱を開けると、

デザインリングが入っていた。

「遅くなったけど、中国土産の代わり。

 いいのがなかったから、帰って来て、

 専務のお勧めの店で買って、名前入れて貰ってたんだ。

 今日出来て来たから、早く渡したかったけど、

 残業だわ、明日から出張だわ、

 で、ちょっと来てって言ったんだよ。」


綺麗な石が、小粒だけどいくつも付いてて、キラキラ光ってる。

「奈央、4月生まれだから、誕生石ダイヤモンドだろ?」

「ダイヤモンドなの!高かったんじゃないの?」

お土産代わりとかのレベル?

なんだか動揺してしまう。

すごい可愛くて、綺麗なリング。嬉しいけど、ダイヤって。

「バーカ、なんの心配してんだよ。

 中国で宝石屋二軒見たけどいまいちだったし、

 どうしても誕生石で贈りたかったから、

 文也兄さんが、じゃ帰国してから買えって教えて貰った。」

あ、そういう事だったんだ。

え?文也兄さん?

「なんで文也兄さん?」

「一緒に中国行ってたから。」

ああ、浜本さんと2人じゃなかったんだ。


「ありがとう、すごい可愛い。

 すごい嬉しい。はめてみていい?」

そう言うと、

「早くはめてみて。サイズあってると思うけど。」

「サイズ言ったっけ?」

そう言うと、圭司は

「これは返さないとな。」

そう言って、小さな紙袋を出した。中をひっくり返して出した。

「あれ、これは…」

「ゴメン、お前の借りてた。」

それは、先日、無くしたと思った私のリングだった。

「無くしたと思った。」

「ほら、手を出して。」

私の話を聞こえないふりして、

圭司はお土産代わりのリングを私の手にはめた。

私の右手の薬指にきちんと収まった。

光に反射するようにキラキラ光る。

「うわー、綺麗。」

「良かった、ちゃんと合ったな。」

圭司はほっとした様子で、ソファーにもたれかかった。

「ちょっと心配だったんだ。」

「ありがとう。圭司」

指輪を見つめた。綺麗だなあ。

嬉しい。でもこれして会社に行ったら

絶対目ざとい人たちに何か言われるなあ。


「で、さ。奈央。話があるんだ。」

「あ、ごめん、夢中になってた。何?」

そう言うと、圭司はちょっとため息をついて

私の手を取った。なんだか深刻そう。

「どうしたの?」

「急がせないって言ったけれど、

 やっぱり結婚しよう。奈央。

 お前がいない家が淋しい。

 この5年、仕事に生きてみたけれど

 仕事はお前の代わりにはならなった。

 もう離したくない。だから結婚しようよ。」


真剣な圭司の目

私は頭が真っ白になった。

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