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episode 23

翌週も浜本さんの攻撃は、いきなり来た。


「ここいいですか?」

にっこりと笑って浜本さんは前に座る。

いいですかも何も座ってるって。

社員食堂、わざと人が多い時間をずらして使っているのに。

空いてるところ一杯あるんだけれど!!

「どうぞ。」

何も分かってない振りでにっこり笑って答える。

ああ、大人って怖いなあ。

でも、会話するネタなんかないや。

そう思っていたら、浜本さんの右の薬指に

かわいい小さなパールを使った指輪があった。

「かわいい指輪ですね。似合いますね。」

そう言うと、浜本さんはにっこり笑って

「あ、これ。この間の中国出張の時、佐久田部長が見立てて下さって。」

圭司が見立てたって?

なんか自分で地雷踏んじゃったみたい。

すっかり罠にはまったのかな?

一見無邪気そうな笑顔に悪意を感じるのは

私の思い込みかしらね・・・・・

「どれがいいか迷ったらこれを選んで下さったんで。

 淡水パールの店だったんですけれどね。

 すごくいいお店でした。」

「そうなんですねえ、綺麗ですね、そのパール。」

ショックだ、あまりのショックに

一応パール綺麗ってパールだけ褒めたんだけれど

全然嫌味になってないし・・・・。


なんだか浜本さん満足そう。

これは私、ダメージ受けた顔してるのかしら。

淡水パールのそんな店行ってたんだ。

お茶貰って喜んでる私ってなんかみじめかも。


浜本さんは笑顔でさらに続ける

「楽しかったです、仕事だけれど。

 本社にいらっしゃる頃はよく一緒に飲んでたのに

 久々に中国ではじっくり飲んだりできました。」


なんかもう限界かも。

暴れ出したくなりそう。

もう戻るしかない。退散だ。

「良かったですね。じゃ私お先に。

 浜本さんどうぞごゆっくり。」

そう言って立ち上がると。

「お疲れ様です。」

と余裕の表情で私を見た。

「じゃ、失礼しますね。お疲れさま。」

そう言って食器を持って返却口に向かって歩いた。

泣くな、泣くな。がんばれ私。

30女が泣いても誰も可愛いって思わない。


歯磨きのために洗面所に向かう。

すごい勢いで歩いたと思う。

鏡の前に着いたら限界を超えた。

涙が溢れる、でも、

目を腫らさないように、アイメイクを壊さないように

洗面台に直接涙を落とすように工夫している自分に

気がついてちょっと笑えた。

大丈夫かも、私、これならば。

一通り涙を流して、歯を磨いた。

そして充血を取る目薬を差した。

これ、常備してて良かった。


午後の会議で圭司と同席した。

プロジェクターで移される資料を見ながら

ぼんやり考えた。

つまりそういう土産屋に入る事があったのに

私には選んでこなかったんだなあ。

だれか友人が言ったなあ。疑い出すときりがないって本当。

こんなにたったあれだけの言葉で

動揺してしまうって、私たちって儚い関係だな。

仕方がない、5年も離れてて、忘れようとしてたのに

いきなりこんな展開になって、何が何だかわからない。


冷静に考える時間が必要かも。


「おい、高岸君。次、もうすぐだから。」

隣に座ってた佐藤係長にペンで小突かれて我に返った。

「どっか意識が飛んでたぞ。バレバレ。

 珍しいな、寝不足かよ。」

はぁ、こんなんじゃダメだよね。

プロジェクター動かすの頼まれてたんだ。

「すみません、もう大丈夫だから。」

今は冷静に考える時間ではなかった。

慌てて、今報告している人の話の流れをチェックして

残り時間を予想した。あと5分くらいかな?


鉄の女って言われてきたはずなんだけれど。

恋愛ごときで仕事に身が入らないとかダメじゃん

ってか最近恋愛しないように仕事してたんだけれどさ。

今、もし圭司と目なんかあったらダメなような気がする。

午後の会議が終わるまで、目線を向けないようにしよう。

なんでこんなに動揺しやすいんだろう。

最近、ちょっとおかしくなってるかも、私。

なんだか疲れた。今日は早く家に帰ろう。

前の人が報告を終えたので、プロジェクター前のパソコンに向かった。


******************


早く帰るつもりだったのにな。

急な仕事が入ってしまった。

今日片づけないと間に合いそうにないし。

終わった時には8時半過ぎていた。

まだ週の真ん中水曜日なのに、こんなに疲れて

あと2日持つのかな?30過ぎたらあっという間に

こんなに疲れやすくなるのかしら?

夏バテかな?もうすぐお盆だ。今年も墓参りに行かないと。

お盆はやっぱり社長の家に挨拶に行かないと。

なんか考えるだけで疲れる。

帰って寝よう。荷物を抱えて立ちあがった。

階段を下りるのも辛いので、エレベータを待った。

下りのエレベータが開いた。

開いたドアの中にいたのは、圭司と浜本さんだった。


当たりだなあ、今日は。

ぼんやりそう思った。

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