episode 20
デスクで自分のモバイルPCの電源を入れたら
圭司からのメールが入ってた。
後ろに誰もいないのを確認して
メールを開く。
件名 早く帰りてぇ
こっちはいい天気だ。やっぱり暑いな。
早く帰って、奈央の顔が見たい。
奈央の作ったハンバーグ食いたい。
お土産は何がいい?希望あったら言えよ。
圭司
思わず顔がほころぶ。私も会いたい。
会いたいって素直に思ってる事が嬉しい。
会いたいって気持ちを打ち消してきた5年は
思い出すのも辛い日々だったから。
午後からの外回りに合わせ、人の少ない時間。
今のうちに返事しちゃえ。
件名 おみやげ
何がいいかなあ、すぐには思い浮かばないよ
圭司が選んでくれたものが欲しい。
次の週末はハンバーグにしようかな。
間に合うかな?帰ってくるの。
奈央
さっと送信してメーラーを閉じた。
スケジュールを開くと、昼食を終えた人たちが戻ってきた。
間に合った、ちょっとにんまりとしてたようで
佐藤係長に見つかった。
にんまりと笑いながら
「高岸主任、今日も暑いねえ。」
何か含んだ笑みでそう言った。
絶対気付いた、気付いてる。
睨み返すと微笑み返された。
ああ、調子が狂うわ・・・・・
*******************
週末もあっという間に過ぎ
木曜日の午後にメールが入った。
送信は昼にあったみたいだけれど
気付いたのは帰宅してからだった。
件名 明日帰るぞ!
明日の午前の便で帰って、
そのまま本社に行って報告して
午後はそっち、夜は普通に帰れそう。
でも、社長が誘うかもしれないし
まあ、ハンバーグは土曜日で
明日、遅くなっても会いたい。
圭司
うふふふ
思わず嬉しくて速攻で返事した。
件名 了解~
お疲れ様、
わかった。どうしよう、圭司の部屋で待っててもいいよ
荷物もあるでしょ?
家に置いて片づけなきゃ。
奈央
送信して掃除機をかけていると
もう返信が来た
Re: 了解~
あ、じゃ部屋で待っててよ
その方がなんかホッとするかも。
お土産は、帰ってからのお楽しみで
これから会食だから、明日な。
圭司
明日は掃除して待ってようかな。
浮き浮きした気持ちを隠しきれずに、買い物に出かけた。
********
翌日のランチは、社員食堂のAランチが
お得な日だったので、社員食堂にした。
ちょこっと時間をずらしたので少し空いてた。
窓際の席に座りお茶を飲むと、向かいに誰か立った。
「ここ、いいですか?」
目を上げると、浜本ゆかりさんだった。
不意打ちだ、ちょっとドキッとした。
「どうぞ。」
ここは大人の表情で、前の席を勧めた。
「高岸主任ですよね、お疲れ様です。」
「はい、浜本さんですね、お疲れ様です。」
とりあえず、あいさつを交わす。
何話せばいいんだろうなあ。
この人も今日、中国から帰って来たのね。
「さっき、出張から戻ったばっかりなんですよ。
佐久田部長と一緒に中国行ってました。
部長は本社に行かれましたが、私はこっちに直行で
雑務を片づけていろって。」
動揺するな、圭司の名前で!
「そうなんですね、お疲れさまでした。
大変ですね、出張終わって疲れてるんでしょうに。」
そう、にっこり返すと、向こうも余裕の表情で返した
「いえ、いい出張でした。
昨夜も最後の接待で、部長と取引先と飲んで
その後夜景に綺麗なバーで飲んで
飛行機早いのに飲んでたんで、社会人失格ですね。」
そう言ってにっこり浜本さんは笑った。
・・・・なんか微妙に表情に悪意感じるけれど。
「そうなんですね、いいですね、夜景見ながらって。」
当たり障りなくそう返した。
「佐久田部長は優しいですから。
本社にいる頃も何度となく気を使っていただいて
こっちに異動になられて、淋しいなって思ってました。
今回是非手伝って欲しいって言われて
嬉しくて飛んできました。」
そうにっこり笑って言う浜本さんの表情は
間違いなく挑戦的だと思った。
ダメダメ、この挑戦に乗っちゃ。
「頼りにされてるんですね、浜本さん。」
そう返すとなんだか浜本さんの表情が険しくなった。
え?なにそれ・・・そう思っていると。
「はい、佐久田部長を一番理解しているのは私だと思ってます。」
そう言って、Aランチを食べ始めた。
私も何も言えなくてランチを続けた。
早くここを去らなきゃ。
なんだか居心地悪い
そう思って、箸を置いた。
「じゃ、お先に。」
そう言って立ちあがった。
間髪入れずに浜本さんは言った。
「高岸主任。」
「はい。」
見ると真剣な表情だった。
「この数年間、佐久田さんを支えたのは私です。」
そう言って私に挑む表情。
何も言い返せない。
この人、何をどこまで知ってるんだろう。
「じゃ、失礼します。」
そう言って立ち去るしかないじゃない?
どうしようもないもの。