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episode 18

圭司はやっぱり、営業接待でほんのり酔ってうちに来た。

もう日付は変わろうとしている頃で、

でも、一度部屋でシャワーを浴びて来たようで、

ジーンズにTシャツ姿だった。

ソファーのいつもの位置に座ると

少し疲れた様子でもたれかかった圭司。

「なんか食べる?」

そう聞くと、ちょっと眠たげな顔で

「いや、お腹いっぱい。明日起きてから食べる」

と返事した。明日食べるって・・・

夕食準備してるのなんとなく察しているのかな…

気を使わせているのかも。

なんかちょっと申し訳ない気分になっちゃう。


私も斜め向かいのいつものところに座ろうとすると、

圭司はこっちにと手招きで合図した。

「はいはい。座って欲しいのね。」

そう言いながら圭司の隣に座る。

圭司は私の肩に手を回し、ぎゅっと抱きしめてきた。

ほんのちょっとお酒の匂いもするけれど

石鹸の匂いもする。シャンプーの匂いも

まだほんのり髪は湿ってる。

「遅くに悪い、奈央の顔がどうしても見たかったから。」

自然な流れでキスをする。

軽くキスして一度顔を離す。

「奈央、メガネ、取って。」

私は圭司の眼鏡を外し、もう一度深くキスをした。

でも、脳裏にほんのちょっと、可愛い浜本ゆかりさんが浮かんだのは

とても言えないことだ。


信用しているけれど、あんな綺麗な人がそばにいるのは

なんだか複雑だなあ。

あたし、一体いくつの女の子なんだろう。

変な嫉妬してる年でもないのにね。


圭司がそっと囁く

「奈央、もうベッドで寝ようか。」

頷きながら、

「圭司、明日は?何か用事あるの?」

仕事、休日でも出たりしているから聞いておかないと。

「ああ、午後からちょっと打ち合わせに行くよ。

 朝はゆっくり寝てられるから。」


誰と仕事?とは聞けなかった。けれど

立ちあがって、テレビを消した。

居間の電気を消して、圭司と寝室に向かった。

ジーンズの圭司のために、この間2人で買った

パジャマを出してあげたけれど、

結局パジャマは着なかった。お互いに。朝まで。

圭司の暖かさを感じながら眠る。

このまま時間が止まればいいのに。

そう思いながら眠りに引きこまれた。

翌朝、10時まで2人でベッドでダラダラ過ごし、

一緒にシャワーを浴びた。

夏まっさかりで、すでに外の気温は

30度を超えている。

マンションではもう一日中エアコンが切れない。

エアコンの風で涼み、昨夜の分の食事を取って

部屋で着替えて仕事に行くという圭司を見送った。

玄関先で、圭司は私のおでこにキスをして

「今日は早く帰るから。」

「うん。わかった。」

そう言ってもう一度軽くキスを交わしてから出て行った。


なんだか幸せかも・・・・

新婚っぽい?


誰と仕事かとか思い悩むの止めよう。

居間に戻って、洗濯ものをかき集めた。

今日は外に干してみよう。

暑くなりそう、あっという間に乾きそう。

寝室に入りベッドのシーツをはがし洗濯機に向かった。


*****************

本社の駐車場に自分のランクルを止めると

専務のエルグランドを見つけた。

もう来ているようだな。

そう思い、まっすぐ専務の部屋に向かった。


部屋の前でノックをすると

「入れよ」と一言聞こえた。

ドアを開けると、ポロシャツにチノパンの

ラフな格好の取締役がデスクに一人で座ってた。

「休日に悪いな、圭司。」

「いえ、このほうがゆっくり打ち合わせできるし。

 文也兄さんこそ、家族サービスはしなくていいの?」

「今日は友達と子供交えてランチの約束してるらしいよ。

 俺はいつもいないようなもんらしいから。」

そう言って苦笑した。


「文也兄さん、浜本君の件はありがとうございます。

 俺、中国語は苦手なんだよね。浜本君はやっぱすごいわ。」

「契約書、抜けがあったら困るしね、我が社も。

 浜本君はお母さんが中国の方だし、やっぱり違うもんな。」

俺は黙って頷いた。

向こうからの契約書の案があまりに細かくて

中国語が堪能な浜本君がいないとお手上げだった。


「どうだ、久しぶりの支社は。まあ、知ってるのもいたろうけれど

 身内だって認めると色々しばらくあるとは思うけれど。」

「大丈夫だって。」

孝也の兄である専務の文也兄ちゃんは、7歳上で

子供の頃から頼れる兄貴だ。

俺の兄は1個上で結構競争心で争って育ったし

孝也との喧嘩の仲裁も宿題も文也兄ちゃんの助けが多かった。


「なんか、表情が柔らかくなったな、圭司。」

机に肘を置いて余裕の表情で文也兄ちゃんは言う。

言わんとしていることはうっすらわかってる。


「そお?支社はのんびりしてるからじゃね?」

「支社には、奈央ちゃんがいるしね。」

目線を上げると、文也兄ちゃんはニヤニヤしながら

書類に目を通していた。

「あれ、反論しないの?」

そう言ってこっちを見た

なんか面白がってるような表情だ。

「文也兄ちゃん、なんか叔母さんに性格似てきてない?」

文也兄ちゃんはくくくと小さく笑う。

「仲人好きのうちの母ちゃんに?」

「ああ、この間は俺の母ちゃんそそのかしてさ、」

「あれは孝也が言いだしたんだよ。自分に矛先が向かないよう

 言い逃れでお前と奈央ちゃんをって言いだしたんだよ。」

書類に目を通しながら、文也兄ちゃんは続けた。

「奈央ちゃんはさ、小さい頃から傷つきやすいんだ

 奈央は家の中で宙ぶらりんの存在で

 うちに置いて行かれると、よくクローゼットに隠れて泣いてた。

 お前が支社に別れて置いてった時は、お前殴ったほどだけれど

 まあ、まだ若いしお前の本当の気持ちはわかったけれど

 俺としては奈央ちゃんは可愛い妹なんだよ。」

淡々と語るけれど、その言葉は力強い。

奈央は可愛い妹、その気持ちは十分に伝わる。

「・・・・・文也兄ちゃん」

目線を再びあげた文也兄ちゃんに

俺は真剣な目で伝えるべきだと思った。

「奈央は俺が一生守る、10年前に兄ちゃんの家で

 初めて会った日からそう決めてたんだよ。」

そう、あの日からずっと。

文也兄ちゃんはじっと俺を見た

そして急ににっこりほほ笑む。

「頼んだぞ、奈央を。

 ただ、親父に説明するときは覚悟しろ。

 奈央を溺愛してるからな。

 うちは男しかいなかったから、

 親父にとっては奈央は娘なんだ。

 この間は調子に乗って

 奈央には良いように言ってたらしいけれどな。」

「・・・・・やっぱそう思う?」

二人でくくく、と笑いあった。

「で、この契約の方針なんだけれどね。」

急に仕事の話に戻した。

早い所仕事終わらせて、奈央のところに帰ろう。




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