表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/36

episode 16

「私、結婚って何のためなのか良く分からない。

 圭司が好きで一緒にいたいと思う

 でも、結婚となると良く分からない。

 結婚しても別れることがあるならば

 一生一緒にいられるためでもない。

 私の両親がいい例。

 一緒にいれば言い争い。子供は放置。

 じゃあ、何のために結婚したんだろう。」


そう淡々と語る私の横に移動した圭司は、私の肩を抱いた

そして私の手を取り、手をいじりながら続けた

「何のためって?

 俺はただ、奈央と一緒にいたい。

 結婚しますって言えば堂々と一緒に住める。

 家に帰ると奈央がいて、そこにいて

 夜中ふと目覚めたら奈央が寝てて

 そんなのが幸せじゃいけない?」

見つめあってそう言われると

ああ、そんな気になる。

でも、この時間がある日無くなったらどうしよう。

冷え切った夫婦関係になってしまって。


「別に焦ってないから、5年も待ったんだし

 まだ、じっくり考えればいいよ。」


圭司が部屋に帰って行って、もう遅いので寝ることにした。

ベットの中でそんな未来を想像してみる。

想像が上手くいかなくて、悶々としたまま時間は過ぎていった。

そしてふと気付いた


これはもしかしてプロポーズなんだろうか???

いや、曖昧すぎるよね・・・

余計に眠れなくなってきた。


梅雨明けも宣言されて、本気の夏がやってきた。

エアコン入れてても暑いものは暑い。

クールビズで軽装なんて言いながら、取引先に行くのに

そんなの通用しないし。

今日は佐藤係長と得意先回り。

真夏のビジネススーツは着ぐるみに匹敵しそうな暑さだ。

佐藤係長は噴き出る汗をタオルで拭きながら

営業車のハンドルを握る。

「あと1社で終了~サラリーマンって本当に辛いな、奈央ちゃん。」

私もハンドタオルで汗を押さえた。

「もう化粧がなくなりそう。いいよね、男はすっぴんでも失礼にならないし。

 それに眉毛消えたら人相変わっちゃうし。」

「俺も本当はこれ化粧なんだよね。」

そう言ってふざけてくるので

「化粧してそれなんて相当もとが悪いのかしらね!」

と突っ込み返した。

佐藤係長とはた部署が変わったことはあっても、社内での付き合いが長いので

こういう会話も平気で出来る数少ない同僚なのだ。

「奈央ちゃんも30だよね、時が流れるのは早いなあ。」

「佐藤さんだって年取ってるでしょ、お互い様!」

「ねぇ、内緒話しようや、ここだけの話。無礼は承知で。」

そう会話を続けてきた。

渋滞に巻き込まれて信号2回待ち。

いつになったらこの交差点渡れるんだろう。

ぼんやり上の空で答えた

「どんな話?また前部長のヅラ疑惑?」

「お前、佐久田さんとヨリ戻しただろ。」

その時、信号が3回目の赤に変わった。

ドキッと心臓がすごい音をたてた

眠たかったのに、一気に目が覚めた。

佐藤さんはにやりと笑って私を見た。

「やっぱりね。」

「ちょ、ちょっとやっぱりねって何???何よ!!」

なんであんたが知ってるのよ!

一言だって言ったことないのに!!

「付き合ってたこと、誰から聞いたのよ。」

「俺はさ、あの付き合ってた頃から気づいてたもんね。

 佐久田さんが本社に異動になる前。」

「ええええ!なんで?」

「それは俺のカンがいいから。」

「うそだ!!」

佐藤さんは笑いを浮かべたまま続けた。

「う、そ。2回くらい休日にスーパーで買い物してるの見ちゃった。

 あの頃、嫁さんと結婚しようかって頃で、

 嫁さんの部屋が佐久田さんちの近所だったの。」

驚きだ、本当に、だってそれについて何も言われたことなかった。

だってその頃だって一緒のオフィスだった時期だし。

「でもさ、佐久田さんが移動になって、

 奈央ちゃんの様子から、あからさまに別れたなって感じたから

 何も突っ込めずにいたんだよね。」

もう返事を返せない。

動揺しすぎて何言えばいいかわかんない。

佐藤さんはけらけら笑って続けた。

「大丈夫だって、俺、口は固いし。

 でもさ、奈津美ちゃんがさ、

 「高岸主任、最近なんか綺麗なんですよね~

  彼氏いるんですか?」って言ってたよ。

 相手は佐久田さんだろうなと思ってたけれど

 俺はあえて知らねえなあ、年も年だし

 エステにでも通ってるとか?って言っておいた。」

「何それ、ひどくない?年が年って!」

思わず笑ってしまった。

「ま、佐久田さんの方も生き生きしてるしね。」

思わず大きい声で聞き返してしまう。

「え?そうなの??」

そう返すと、佐藤さんは冷やかすような表情で

「まあね、本社で何度か会ったけれど

 もっと眉間に皺寄せて怖かったぞ。

 昨日も会話したけれど、穏やかになってるなあ。」

そうなんだ、私は、会社ではなるべく会わないようにしてるからなあ。

それに、圭司が本社にいたときなんか避けて歩いてたし。


5回目の信号でやっと交差点を抜けた。

「ま、向こうも忘れられなかったんだろうよ。

 なんで別れたのか、俺にはわからんがね。

 奈央ちゃんも奈央ちゃんで、ずっと忘れてなかったんだろう?

 でなきゃ、何回かいい話はあったはずだぞ。

 俺、2人はお前に告白した奴知ってるぞ。

 かわいそうに、あっさり断られたって言ってたし。」


・・・・・多分あの人とあの人だな。。。

思い当たる人はいる。。。

いや、だって社内は論外だし、やんわり断ったつもりなのに。

なんだ知ってたのか。秘密にしてたのに。

ああ、でも、圭司も社内だし理由になってない??


「内緒話はここまでだ。内容は守ること。

 さ、もう着くぞ。準備はいいか?」

そう言って駐車場に入った。

きっと私の顔が赤かったのは、暑いせいだけではない・・・


会社に戻ると午後6時になっていた。

資料をまとめたりしてたら8時前になっていた。

「じゃ、俺は先に帰るから。子供が待ってるし~。」

佐藤係長は先に帰って行った。

電気代節約ってうるさいし、もう帰らなきゃ。

そう思って荷物をまとめて立ちあがった。


「まだいたのー。今日外回りだったのに。

 残業までやるのか。」

振り向くと圭司が立っていた。

「佐久田部長だってまだいるじゃないですか?」

わざとらしく皮肉ぽい顔で突っ込むと

「俺は今帰社したとこなんだよ。」

手にはビジネスバッグ二つと紙袋を持ったままだ。

「忙しいのね。私はもう帰るとこなのよ。」

そう言うと圭司はため息を付きながら言った。

「俺も一緒に帰りたいのは山々なんだけれどね

 まだ用事が残ってるんだよね。

 浜本さんも残って待ってるって言ってるし。」

「浜本さんって?」

「今週から本社から来た人。向こうで一緒に仕事してて

 2カ月手伝ってもらうように出向してもらってる。」

「へぇ、知らなかった。

 そんなに忙しいの?」

「まあね、浜本さんは今まで手伝ってもらってて

 慣れた部分もあるし、

 ちょっと手伝ってもらうよう本社に頼んだんだ。

 じゃ、気を付けて帰れよ。」

「うん。」

圭司は階段のほうに歩いて行った。

私も席を立って、階段の方に向かって歩いた。

階段を下ろうとした時にかすかに聞こえた。

「あ、佐久田さん、お帰りなさい、お疲れ様です。」

・・・・・・??え

「ごめんね、遅くまで待たせてて。家遠いのにさ。」

「大丈夫ですよ、どうせ帰っても何もすることないし。」

・・・・・・女の人の声だ。

好奇心に負けて、そろっと階段を上った

気づかれないように、窓に映っている姿だけ見える位置についた

圭司の机の横に立って、仕事の話をしているのは

綺麗な女の人だった。私よりちょっと年下かな?

そっか、浜本さんって女の人だったのね。


なんかちょっとショックな気分を

仕事なんだからと押し込めて

再びそっと階段を下りて、今度は一階まで下って帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ