episode 15
この叔母ちゃん2人の攻撃は、小1時間続いた。
昼から打ち合わせが入っているからとそそくさと逃げだすまで
あのね、圭司はこんな子供だったのよとか
最近の生活だとか、語るのを聞かされた。
唯一の救いは、私が同じマンションに住んでいることに
気がついていないことだった。
「圭司に先に話すと、上手くあしらわれるから
やっぱり先に奈央ちゃんを崩すべきだと思ってね。」
叔母ちゃん達は嬉しそうに話をしている。
高尾さんが持ってきてくれたコーヒーの味も分からない。
ここはうっかりした事は言ってはいけないな。
黙って聞くに限る。うん。というかそれしかできない。
どんな営業より疲れた。
午後の打ち合わせが楽しいと思えるくらいに。
なんとなく午前中の事も忘れかけてしまうくらいに。
帰宅しようとした午後7時
圭司から、メールが入った。
「ちょっと遅くなるけれど絶対に家に来るから。待ってて。」
なんだか複雑な気分。
ああ、投げた匙、拾いに来るんですね・・・・
そんな拗ねた気分で午前中の事を思い出して、重い足取りで会社を出た。
もしも本当に結婚なんてしちゃったらどうするんだろう。
私、仕事どうなるんだろう。
相手は上司で、残るなんて無理だよね、
でも転職とか出来るかな、子供だって出来るかも知れない、
ああ、結婚って複雑すぎる。
白い家で、小さな女の子と子犬がいて
優しい家庭的な夫と・・・・なんて現実には上手くいかない。
自分の両親がそうだったじゃない。
お互い仕事が忙しくて、子供はほったらかし
たまに顔を合わせれば言い争い
私たちがそうならない保証なんかどこにもないし。
そうして圭司をまた失うとか、そっちが辛い。
思うだけで辛い。
帰宅してご飯作って、お風呂に入って
午後11時になるころ、携帯が鳴った。圭司だ。
「ドア開けて~。」
携帯を切ることもせず、ドアを開けた。
するりと圭司が入り込んできて、後ろ手に鍵を閉めた。
数秒、そのまま私のことをじっと見ていた。
「・・・どうしたの?入らないの?」
そう言うと、ああ、と靴を脱いだ。
ソファーに座り、ネクタイを緩めるとため息をついた。
「随分遅いのね、なんか疲れてるし。
なんか食べる?」
そう言うとちらりとこっちを見て頷いた。
「ちょっと本社まで行ってたから。」
と言って大げさにがっくりうつむく
「え?お呼び出し??」
そんな圭司の事までそんな私用で呼び出すの?
「ああ、役員の会議で。ちょっとあって。」
ああ、そうよね。そんなオバちゃん達の話で呼び出したりしないでしょ。
夕食はハンバーグ、レンジで温める。
サラダとご飯と一緒にテーブルに出す用意をした。
圭司は話を続ける。
「俺、社長の甥だって公表はしてないけれど
知ってる人は知ってる事実じゃない?
母ちゃん、役員になってるし。」
「そうなの?」
「そうなの。」
私の周りはあんまり知らないんじゃない?
聞いたことないし。
「お前はずっと支社でひっそりやってたから聞かないだけかもな。」
まあ、本社においでと言う叔母さまの話はずっと断ってたからね
レンジで温めた夕食を圭司の前に並べた。
「もう役員として名前を入れるって話だったの。」
「ああ、そう言う話だったんだ。それでお母さんが来てたのね。」
「で、この日に奈央を呼び出せってことになったみたい。」
思わずがっくり肩が落ちた。やっぱりそれだけのためなのね。
「本当横暴だわ、もう何回目かしらね・・・・。」
「ごめん、とりあえず母ちゃんの方はきつく叱っておいたから。
仕事の邪魔するなって。」
そう言うとがっくり肩を落とした。
「そしたらさ、あら?もう聞いたの?午前中の事なのに
結構奈央ちゃんと仲良かったりする?だって
俺とした事が、ヘマやっちゃったよ・・・。」
がっくり肩を落とす圭司なんて滅多に見れない。
なんかおもしろいかも・・・
さすがお母さんも結構やりて??
「ま、まあとりあえず食べて。冷えちゃうし。」
そう言ってご飯を勧めると、ああ、と言って箸を取った。
食べ終えた食器を片づけてソファーに戻ると
午後12時を回っていた。
「奈央は、結婚したいと思っているか?」
私は思わず答えた
「私は、何のため結婚するのかよくわからない・・・」
力ない目で圭司に向かう
圭司はまっすぐ私を見返した。