表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

episode 13

そう、何もなかったように朝は来るんだ。

1週間も始まった。

何もなかったように日常は動いた。

たしかに5年前の別れの時もそうだった。

何もなかったように毎日は過ぎたものだった。

恒例の月曜日の会議も当たり前に過ぎたし

普通どおりに仕事もこなした。

平日はとても会えるようなスケジュールではなさそうな人だし。


ただちょっと違うのは

私の携帯に、時々圭司のメールが入るようになっただけ。

今日はまだ残業してるとか

今日は営業でどこに出てるとか

今日は本社に来てるとか。

短いメールで圭司の日常が垣間見れるようになった。

忙しいのは相変わらずだから

同じマンションでも平日は会えない日が続く

私がメールを打っても

すぐに返って来るわけでもない

でも、それでも満足だった。

無理に圭司を閉めだそうとした日々を思えば

それでも満足だった。


「ああ、奈央は報われたわけだ・・・」

高校からの付き合いの悪友の実花は

うっとりした眼で当てもない方向を見ながらつぶやいた。

久しぶりに週末土曜日に、旦那が出張中という実花と

表参道に出てきた。天気も良くて暑い。

もう7月だもの、暑いのは当然か。

カフェで昼ごはん。もちろん屋内だけれど。

一緒に過ごす友人も少ないので本当久しぶり。

実花は圭司の事を知ってる数少ない友人だ。

「報われたって言うか。。。。とりあえず」

あの週末から2週間。

今週は圭司は週末も接待とかで今週末は会えないわけだ。

「肌のつや良いですわよ、奈央~~。」

にやりと笑ってからかう実花にフォークを突き付けた

「ちょっとやめてよ!人妻はこれだから・・・」

「いつになったら乗り越えるのかなって心配してたのよ。

 圭司さんほどの男、出てくるのかなって。

 良かったね、今年の夏は楽しそうよ。」

そう言って実花は微笑んだ。

「圭司さんもさ~35じゃない?一人が淋しいとかありそうだし

 このまま結婚とかありかもよ!!」


結婚???


「それは、ないかもよ・・・」

「なんで?」


率直な実花の問いに返事に詰まった。

あれれ、私、結婚ってあんまり考えたことないかも。

「想像つかない、かな。。。」

「そう言えば、奈央から結婚に対する憧れって聞いたことないね。」

そうかもしれない・・・・

一緒にいたいとか思っても

結婚したいって思想に至ったことないなあ。

多分両親の姿がとてもいい関係とは言えなかったせいかもしれない。

「うち、両親が仲悪くて。私一人っ子で、母親も仕事してたし

 父親はあんまり家にいなかったし。なんだか

 幸せな家庭像が浮かばないかも。」

実花は黙って話を聞いてくれた。

「叔母さんは結婚しろってうるさいけれどね。

 遊びに来いって言うから行くと、そればっかり

 最近重荷で、足が遠ざかってるんだけれどね。」

小さい頃の事を思い出した。

母親の出張で、叔母さんちに泊ったりした思い出。

社長も叔母さんも優しかったけれど

孝也には苛められたっけ。

クローゼットに閉じ込められたり、

蛇のおもちゃカバンに入れられたり。

ああ、昔からろくなことしない奴・・


「子供欲しいとかないの?」

「あ、それはある!!。」

赤ちゃんの、あの柔らかな手やほっぺた。

いとおしいと思う気持ちはある。

「でもさ、家にいて奥さんってのがリアルに感じられない。

 実花すごいよ。子供いくつになったっけ?」

いまさら子供の年を聞くとか、親友なのにさ。

「忘れたのね、もう小学生だし。一年生だから。」

同級生が小学生の子供がいるとか・・・

いまさらながらちょっとショック。

「あのさ、奈央

 結婚だけが幸せじゃないし

 結婚したら幸せになれるものでもないし

 一個の大きな通過点だと思うべきだと思う。

 今、好きな人と通じ合えてたら

 それが幸せだと思う。

 結婚はそこに付いてくるか来ないかだから。

 あんたのこの5年はどう見ても

 幸せな顔とは思えなかったもん。」

まっすぐな実花の言葉は胸に刺さった。

そんなに顔に出てたっけ???


毎日、仕事に追われて生きてきた。

圭司を忘れようと仕事に没頭して

いまさら結婚とか女の幸せとか、思い出せないかも。

「どうしたボーっとして。」

接待を終えて、ちょっと酔った圭司が部屋に来たのは午後10時。

シャワーを貸してと入って行ってあっという間に出てきた

「ん、昼久しぶりに実花と街に出たから疲れたのかもね。」

頭を拭きながら下着一枚でソファーに座った。

「あー実花ちゃん元気?子供いたよね。」

「うん、小学生だって。」

「そうか。」

そう言いながらうっすら目を閉じそうになっている。

「眠いの?」

「ああ、ちょっとだけね。でも大丈夫。」

何が大丈夫なのか良くわかんない・・・・

「うちで、寝るの?帰るの?」

「ここで寝るー。」

髪、濡れたままなんだけれど。

仕方がないのでドライヤーを持ってきて乾かしてあげようかな。

ソファーで気持ちよさそうに寝息を立てている。

そっとドライヤーのスイッチを入れて乾かしに入る。

「・・・・気持ちいい~。」

そう一言言うとまた寝息を立てている。

乾かし終えて、ドライヤーを片づけると、圭司に薄い綿毛布を

そっとかけてあげた。だってパンツ一枚だし・・・

寝顔を見ていると、やっぱりちょっと年を取ったなって思った。

皮膚の感じに眉間や目尻

ちょっとずつ年を取った感じがした。

でも、オジサンと言う感じじゃない、そこは確かに。

ふと思った。

どんな5年間を過ごしてたんだろう。

ずっと忘れられなかったって言ってたけれど

圭司は誘いが多いし、きっと色々あったよね。

見ないようにしてたから、何も知らない。

きっと知ろうと思えば見えたと思う

結局は同じ会社だし。でも、見ないようにしてたから。

今更だけれど、空白の5年が憎いと思った。

この目尻の皺一本出来る間を知らなかったのが

ちょっと淋しいと思えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ