セイコなんて大嫌い
悪魔ちゃんはたまに人間を捕まえて悪魔界に連れていく。
理由は遊びたいからだ。ごっこ遊びや追いかけっこなどの可愛い遊びがしたいわけではない。
死にたくなるまで喋りかけて人間を追い詰める、いわば「人間限界チャレンジ」がしたいのだ。
一カ月前、不運にも悪魔ちゃんに拐われた人間がいた。その名もセイコ。セイコは最初は怒り、悲しみ、悪魔ちゃんを批判したが、だんだん正気を失ってゆき、今では悪魔ちゃんに媚を売るようになった。
人間って面白いね。どうにもならない状態に陥ると、いじめていた者を憎むのではなく、愛するというバカげた手段を取り出す生き物なのだ。
今日はそんなセイコの話。
※※※※
「悪魔ちゃん。大好き」
そう連呼するセイコを見て、悪魔ちゃんはイライラした。
なにが好きだよ。
本当は悪魔ちゃんたちのことなんかこれっぽっちも好きじゃないくせに。
でも、そう言わなきゃセイコの正気が保てないのだろう。
気の毒なことだ。
他の悪魔ちゃんたちは、本当にこんな遊びが楽しいと思っているのだろうか? 悪魔ちゃんは全然楽しいと思えないのだが。
みんなセイコの本音には気付いている。
気付いているが、わざと何も言わないのだ。
なぜなら面白いから。
必死におべっかを使っているセイコが滑稽だから。
みんなニヤニヤ笑いながらセイコのおべっかを聞いていたのだが、一人だけ悪ノリした悪魔ちゃんがいた。
そして、悪ノリ悪魔ちゃんはセイコにこう言ったのだ。
「セイコ。俺も大好きだぜ」
「!!」
瞬間、セイコの顔が歓喜に染まった。
悪意のある冗談に本気になっているのだ。
セイコは相当追い詰められているので、大好きだと言う言葉が救いに聞こえたのだろう。
バカセイコバカセイコ!!
なんでお前はそんなにバカなんだよ。
悪ノリ悪魔ちゃんはニヤニヤ笑い、恋愛ごっこを始めようとしている。
このままではまたセイコが傷付いてしまう。
好きなわけねーだろ、バーカと言われて泣きそうな顔をしてしまう。
セイコの泣き顔が見たくなかった悪魔ちゃんは、咄嗟に叫ぶ。
「セイコのバーカ! 自殺しろよおめー!」
悪意しかない言葉を投げかけると、他の悪魔ちゃんたちが爆笑した。
「あはは。そりゃねーよ悪魔ちゃん。言い過ぎ」
「ウケるけどさぁ、可哀想だろう? セイコが」
可哀想なのはセイコだと思いつつ、悪魔ちゃんは悪態を続ける。
「いいんだよ、こんなバカ。死んだら地獄行くぜ? 楽しみだなぁ」
悪魔ちゃんたちはさっきよりも更に大きな声で爆笑している。
セイコはと言うと、悪魔ちゃんの言葉にちょっと正気を取り戻したようだ。
憤慨して「酷い酷い」と騒いでいる。
良かった。恋愛ごっこの流れは防げたようだ。
内心ホッとしていたら、友達の悪魔ちゃんがそっと耳打ちしてきた。
「お前って、優しいな」
「!?」
友達悪魔ちゃんはそれだけ言うと、他の悪魔ちゃんと一緒になって爆笑する演技をし始めた。
別に悪魔ちゃんは優しくない。
だけど……だけど、セイコが本気で悲しむ顔が見たくない。
それだけなのだ。




