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家族の絆



「犯人は、そう……あなたです」



 竜胆の指がゆっくりと上がり、周囲の人間にとっては気の遠くなる様な時間が経ってから一人の人間を指差した。

 各自それぞれの、息をのむ音が静かな部屋に響き渡る。

 竜胆と皐月のみが、冷静に皆を見渡していた。だが、静寂を破る様に一人の男が怒声を上げる。


「なっ、何故私なんだ! それに、それでは私が父を殺したと言っている様なものじゃないか!」


 竜胆を睨みつけた後、皆に同意を求める様に周囲を見渡す。


「私は、そう言っているんですよ、円条寺訓行さん。あなたが殺人のあった晩、自分の父親を包丁で刺し殺した(・・・・・・・・)と言っているんです」


 紅井や警部は驚いたような表情を見せるが言葉は発しない。竜胆があまりに自信を持って言い放ったからだ。


「はっ、探偵が聞いてあきれるっ! 父は青酸カリで殺された(・・・・・・・・・)んだろう、そんな基本的な事を忘れているようではお前の推理も信憑性はないなっ!」


 紅井や警部達の驚いた表情にも気付かず、訓行は声を荒げる。


「大体お前の推理は推測だらけではないか、そんなあやふやなもので騙そうなんて甘かったな」


 勝ち誇る様に腰に手を当てた訓行は周囲の空気の変化にようやく気が付いたようだ。


「訓行さん、ありがとうございます……今の言葉で私の推測は、確信へと変わりました」

「はっ……?」

「和美さん、私は死因を説明した時、何と言いましたか?」


 和美は突然会話を振られた事に驚き、青ざめていた顔を更に青ざめる。そして震える唇から、やはり震えた声を紡ぎ出した。


「ど……毒殺(・・)、としか……」


 紅井や警部以外の人間、日和や皐月達からも驚愕の声が上がり、和美を除いた皆の視線が訓行へと一気に集まる。

 訓行の表情は更に歪み、いや、だがしかし……と意味の無い言葉を呟いていた。


「いやっ、だが……青酸カリなんてどこで」

「訓行さん、確かあなた……言っていましたよね『昆虫採集が趣味』、だと」

「ぐっ……」


 青酸カリには、バッタなどの昆虫標本を作る際に使う事で、標本の色が抜けにくくなる性質がある。

 訓行は竜胆の指摘に黙り込んでしまった。


「経緯はこうです」



 訓行は侵入者があった夜、外に和美と出かけていた。

 そして帰って来る前に屋敷へと侵入し辰巳殺害を目論む。和美と一緒に居た事がアリバイとなる予定だったのだろう。家の人間だから警備の事も侵入経路も容易に解決できます。

 しかし、辰巳が防犯ガラスにしていた事は知らなかった。家の人間とはいえ泥棒に関しては素人、視野が狭くなっていたのでしょう。そのまま侵入を試みたのです。


 だがそこで皐月と会ってしまう。顔を見られたかどうかは知りませんが、訓行は逃げ出し、何事もなかったかのように和美と家に帰ったのです。



「ここまでは、よろしいですね?」


 一同は無言の肯定を示していた。


「次に殺人が起こった晩の話です」

 紅井から水を受け取り、竜胆は一息つく。



 侵入した晩に見た皐月から、訓行はある事を思い出した。

皐月が毎晩辰巳にお茶を運んでいると言う事です。そこで訓行は皐月を犯人に仕立て上げる事を考えついたのでしょう。

 準備しておいたお茶に青酸カリを仕込ませ、後は待ちました。



「だがそこで想定外の事件が起こった」

「えぇ、予想に反して……お茶を持っていったのは日和ちゃんだったのです。だから訓行さんは強調した。普段行っていたのは皐月である、日和ちゃんは動機がないからするはずもない、とね。自分から目を外させる為に」

「……っ」


 訓行はギリッと強く唇を噛んでいた。先程までの怒りの形相は薄れ、今では戸惑い、恐れといった感情がありありと見て取れた。


「だが竜胆、円条寺訓行が犯人だったとして、動機はあるのか?」

「……ここからは完全に推測になるのですが、恐らく侵入者のあった晩、日和ちゃんは円条寺辰巳から何か重要な話、もしくは重要な物を受け取っていると思われます。そこで話された事が殺人を強行する理由の一つになったのでしょう」


 竜胆は皆に気づかれないよう、皐月の顔を覗き見る。

 そこには驚きと、少しの喜びを浮かべている表情があった。


「日和ちゃん、侵入者のあった晩……円条寺辰巳、君の祖父から何か受け取ってはいないかい?」


 今度は日和へと皆の視線が集中する。

 日和は、震えながら一つの封筒を取り出した。だがその震えは恐れからではなく、喜びの震えだったように竜胆は感じていた。


「ありがとう……これは」


 そこには、達筆過ぎるほどの流れる様な字で【遺書】と書かれていた。


「四つの事が書かれていますね……自分が恐らくもうすぐ死ぬ事について。次に円条寺皐月は養子ではなく、自分の本当の娘である。警備会社の経営権について。最後に、財産は……円条寺皐月、円条寺日和の両名に残す、事……」


 竜胆は何度か詰まりそうになりながら、なんとか遺書の概要を読みあげる。円条寺家の面々、特に皐月は目を大きく広げ、息を止めていた。


「訓行さん、あなた……この事について、薄々気づいていたのではないですか?」


 いち早く復活した訓行は竜胆の持つ遺書を奪い取り、食い入る様に読み始めた。既に竜胆の言葉は耳に入っていないようだ。


「な、なんだ……これはっ! 私、私の事について何も書かれてっ! ……ん?」


 横から覗きこんでいた和美がゆっくりと、訓行が目を止めた文章を読み上げる。


「円条寺訓行に関しては、円条寺警備の利益を横領し……会社の利益に著しく反した為、懲戒処分……並びに円条寺家からの除名を命ず……る」



 警部が訓行の肩を掴んだと同時に……訓行は地面へと、崩れ込んだ。



 皐月は辰巳が本当の家族だったと分かってどう思っているんだろうなぁ、と思いながら……こんばんわ兄琉です。


 今回で事件自体は終了、と言う訳なのですが後一話エピローグがあります。

 だがこのエピローグが一話分、3,500字程ある……。分けるべきか否か。


 多分、分けずに垂れ流しますが後一話お付き合いください。


 ではでは、次回は7月1日22時更新です。

 またお会いしましょー。

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