「退職金税制の見直し」と「雇用の流動化」について
◇雇用の流動化は必要
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は23年の岸田政権の時にも出てきました「退職税制の見直し」とそれに付随する「雇用の流動化」について僕の意見を語っていこうと思います。
質問者:
退職税制が雇用の流動化を阻害していると言われているんですけど、現実問題としてどうなのでしょうか?
筆者:
確かに退職税制に関しては昭和の戦後すぐからの制度であり、
時代にそぐわない「制度疲労」が指摘されても仕方の無い状況にあります。
当時の時代背景を申し上げますと戦後直後に関しては人口が増加のカーブを辿っておきながら「人手不足」という状況でした。
「年功に応じた昇給」や「手厚い福利厚生」、「積立式の退職金」などによって人員を少しでも確保しようと躍起になっていたわけです。
質問者:
今の人口減少社会で人手不足なのでは無く、人口が増えつつある状況での人手不足というのは凄いことですね……。
筆者:
朝鮮戦争などの「特需」から高度経済成長期に入ったのが大きかったと思いますね。
一見するとかなり「手厚く保護され過ぎている」「囲い込みだ」と思われるかもしれませんが、
それでも戦時中の国が労働統制に乗り出し、自由な転職・解雇は禁止された状況よりはマシと言えました。
質問者:
それに対して近年言われている「雇用の流動化」と言うのはどうして重視されるのでしょうか?
筆者:
まずは「働き方」の問題です。
昭和の頃は人権意識が乏しく、「上の人がやってきたんだから若い世代もやるべきだ」という謎の風習によって理不尽な思いをされてきた方と言うのがたくさんいたんです。
旧ジャニーズなどの古い組織体制を思い浮かべれば分かるかなと思います。
さらに、利益を追求し従業員を低賃金で馬車馬のように働かせるいわゆる「ブラック企業」と呼ばれる企業も増えてきました。
雇用の流動化が無ければ「ブラック企業」の思うがままに低賃金で動けなくなるまで「奴隷労働」をさせられる従業員が増えてしまいますので、これは必須であると考えます。
◇退職金税制の状況
質問者:
確かにどこも就職先が見つからない状況だといくらブラック企業と言われようとも勤め続けるしか選択肢が無くなりますからね……。
一方で退職金税制は現在どういう状況だから雇用の流動化との問題になっているんですか?
筆者:
退職金を一括で受け取る場合、勤続20年以下では1年あたり40万円が課税対象から控除(税金の対象にならない)なのですが、
20年を超える年数となりますと、1年あたり70万円が控除される仕組みになっています。
具体例でお話させてもらいますと、
22歳から40年間同じ職場で働いたAさんは
40万×20年+70万×20年=2200万円が控除になります。
22歳から20年αという職場、20年が他の職場のBさんは
40万×40年=1600万円が控除の対象になります。
仮に3000万円退職金が出るとしますと、Aさんは800万課税。Bさんは1400万円課税。
2000万円の退職金の場合ではAさんは全額非課税。Bさんは400万円課税と非常に大きな差になるのです
質問者:
違う職場に移れば退職金も減る可能性はありますけど、これだけ控除額が違ってくると、そりゃ「同じ会社にいよう」という感じにはなりますよね。
しかも、大企業であんまり働かずにずっといられるとなると社員側も会社側も何だか不幸な気がしますしね……。
筆者:
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」というデータでは 男性の60~64歳と65歳以上の年齢階層ではこの40年で勤続年数が10年も増えています。
質問者:
そうなるとやはり雇用の流動化問題と言うのは勤続年数20年を超えた40代以降からのお話という事なんですね……。
筆者:
一つ問題なのは「控除の是正」という話になると「低い方に合わせる」という流れになりがちだという事です。
「働き方改革」で「正社員と非正規の是正」でも「低い方に合わせる」と言った悲劇が郵政などでは起きていましたからね。
ただ一応は与党内では勤続20年以下で1年あたり40万円という控除額を引き上げて非課税の対象額を増やす案と、
勤続20年を超える1年あたり70万円という控除額を引き下げて、非課税の対象額を減らすという案、
若しくはその両方を行うなど複数の案が出ているようです。
しかし「20年を超える額が引き下げられる」案が一番有力視されているようではありますけどね。他の案は「アリバイ作り」の可能性は大いにあります。
質問者:
今は国が出すお金は絶対的に緊縮でケチですからね……。
筆者:
本来であれば低い方(20年未満の控除)を引き上げる一択だと思いますけどね。
特に既に20年以上勤めあげている氷河期世代・団塊ジュニア世代がやっとの思いで正規社員になったとしても、一番煽りを受けることになると思いますからね……。
彼らはバブル崩壊時に就職する時代を迎え、まともに正社員にもなれず、最近の賃上げの波にも乗れていない「悲劇の世代」とも言えますからね。
生まれた年だけで決まってしまうなんてあんまりだと思います。
質問者:
しかし、仮に20年以上の控除額を引き下げる(増税)として雇用の流動化には繋がるんですか?
筆者:
仮に「退職金増税」の方をしたところで「しがみ付いている氷河期世代」が他の会社へ転職するかと言うと――よっぽど「優遇された早期退職金」を提示されない限り動かないんじゃないかと思いますよ。
年齢が上がれば上がるほど「現状維持をしたい傾向」にあるみたいですしね。
まぁ、全く効果が無いわけでは無いと思うので、大企業として見れば「少しでも厄介払いが出来たらラッキー」ぐらいには思うかもしれませんけどね。
質問者:
なるほど……。きっかけは退職金税制優遇かもしれないけど控除が引き下がったとしても転職のきっかけにはならないと……。
筆者:
ちなみに転職をしない前提でお話をさせてもらいますと、
税理士浦野広明氏の計算では勤続38年、退職金2000万円 の例では、
合計101万2500円の増税となるそうです。
京都大学大学院教授で元内閣官房参与の藤井聡氏の試算では
平均的なサラリーマンの増税額がおよそ40万円だとすると、国の増収額は2000億円から5000億円ほどになるとしています。
「雇用の流動化」と言うのはただの建前であって本当は何かに理由を付けてあらゆるところから搾り取ろうとする増税緊縮的な考えが見え隠れしているということです。
質問者:
それだけの増収になる見込みなら財務省の方々は放っておきませんね……。
◇「政治家の流動化」は国民の投票でしかできない
筆者:
「控除」と言うのはそれだけ大きな存在であるという事ですね。ネットが発達していない昔であれば気づきにくく粛々と行われていたと思います。
一方で転職者のうち3分の2ほどが20代と30代と言うデータもあり、平均勤続年数も40年で1、2年ほど低下していることからも「若い世代とは無関係」という状況だと思います。
逆に今の若い世代はやれる方は皆リスキリングを自主的に行っていますからね。
一つの会社に囚われなくていいというのはとても良い傾向だと思いますよ。
退職金税制にも負けずに、どこへ行っても通用するように頑張るだけの力を身につけることが大事だと思いますからね。
質問者:
確かに変動が激しい時代ですから、それに流されないだけの実力が必要だという事ですか……。
筆者:
もっと言うのなら年齢だけ、勤続年数だけで評価されるのでは無く純粋に能力で評価されるべきだと思いますけどね。
ただ、学校教育が詰め込み式で先生からの押し付けばかりなので高校や大学を卒業したての方が社会で即戦力になるのが難しいとは思います。
これは教育や社会通念の変革も含めた総合的な改革が必要だと思いますね。
質問者:
そう言った社会になっていくためにはどうしたら良いんでしょうか?
筆者:
結局のところ既得権益にしがみついている政治家を変えていくしか無いと思います。
「政治の流動化」のために「既存の政治家を落とす」方向性にもっていかないといけないです。
ただ、官僚が固定化されているために「財務省のお勉強会」で「増税洗脳」がされているために政治家は官僚から独立して自ら勉強するべきだと思います。
そのためには「地元参り」で票が取れて政治家の地位を維持できている状況も問題ですけどね。
質問者:
色々問題があるにせよまずは投票に行くしか国民側としては選択肢が無いという事ですか……。
筆者:
内閣府の調査で『今日より明日が悪くなる』という人が『良くなる』という人の4倍以上いることが分かっています。
国民のやれることは投票活動と言論活動しかありません。
「財務省解体デモ」のような現実世界での活動も周知の意味では価値があると思いますよ。
何かしら「現状を変えたい」という確固たる意思がこの国を良くするのだと僕は思っていますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は退職金税制で20年を境に大きく変わっていること。
本来であれば低い方を引き上げて是正するべきところではあるが、現状はその案の可能性は低いこと。
社会構造を変えるためには「政治の流動化」をする必要があり、そのためには投票や言論活動、デモ活動などが価値のある行動だという事をお伝えしました。
今後もこのような政治経済について個人的な意見を述べていきますのでどうぞご覧ください。