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54話 誘拐未遂2

サミューは古着屋へ戻ると悔しそうに吐き捨てた。


「くそっ、見失った! やはり店主もグルだったのか。 俺が付いていながらみすみす誘拐未遂を許すとは。 お前たちも事情を話すために付いて来てくれ」


珍しく声を荒げるサミューにノルが少し驚いていると、当のサミューはムスッとしながら人攫いの男を担ぎ上げズンズンと歩きはじめた。


義賊である自分が連れている2人を連れ去られかけ、店主を逃し、捕らえた1人もチラの手柄だ。


サミューはこの一件での自身のカッコ悪さにいらだっていた。


「やっぱりこの人は自警団の所へ突き出すのよねっ! 私たちを攫おうとしたんだもの当然よ!」


ノルのその言葉で我に返ったサミューは気持ちが沈み脂汗をかいた。


自分が向かう先には自警団がウヨウヨ居ると考えると歩く足も重たくなる。


そんなサミューの気が緩んだ隙を突いて人攫いの男をフードを目深に被ったマントの2人組が目にも留まらぬ速さで攫って行った。


まさに一瞬の出来事で呆気に取られたが、すぐにサミューが追いかける。


だが人通りの多い大通りということもあってか、マントの2人組を避けようとした人がロバにぶつかると、それに驚いたロバが暴れ回り軽い騒ぎになった。


あちこちの店の軒先にある商品が散乱しただけでなく、ぶつかった、ぶつからないといういざこざまで起きている。


そんな中でもサミューは雑踏を難なく躱しながらマントの2人組を追って走って行ったが、ノルとチラはそれ以上進めなかった。


そのいざこざが殴り合いの喧嘩となり、あっという間に増えた観衆で道が塞がれたからだ。


ノルはマントの2人組とサミューから目を離す事なく、かんざしを差し替え笛を吹いた。


一方サミューの追跡が続いたためなのかマントの2人組は店の屋根へ飛び乗り、その勢いで人攫いの男を担いだ人物のフードが脱げ顔が顕になる。


驚いた事にフードの下から現れたのは長い髪を花柄のリボンで束ねた美女だった。


男を肩に軽々と担いだ美女は立ち止まると振り返り、サミューと何故か離れたノルとチラへ投げキッスの乱れ打ちをして、先に行った1人を追うように屋根伝いに走り去って行く。


その投げキッスになんとも言えない身の危険を感じたノルとチラは華麗に避けたが、サミューはあまりに予想外の事に追う気が失せたのか、ゲンナリとした顔で3人組の遠ざかって行く足音を聞いていた。


ノルとチラが民家の庇の影へ入り上着を脱いでいるとサミューが戻って来た。


「あんな寒気のする投げキッスをされたら追う気が失せるな……」


ノルは苦笑しつつ、あっという間に人攫いの男を攫って消えた2人組の事を聞いてみた。


「あの人すっごい美人だったけど誘拐犯を連れて行ったっていうことはきっとその仲間よね?」


サミューはため息混じりに返す。


「ああ恐らくそういう事だろうな」


3人がそんな話をしている間に、自警団が駆けつけ騒動の事後処理を始めていた。


だが事後処理といっても、ノルの笛の音色を聞いて皆落ち着きを取り戻していたためやる事は少なそうだ。


その中に見知った顔がいたためノルは手を振る。


「あっオーウェストさーん、お話があるんだけど!」


「おお君達は朝の! 無事にパフォーマンスは出来たのか?」


「ええお陰様で。 それでね……この騒ぎ、私たちが原因なの」


「ええっ、君達が?!」


驚愕した様子のオーウェストにサミューは事情を説明した。


「その言い方だと語弊がある。 俺たちは少し前まで古着屋にいたのだが、そこでこの2人が攫われかけてな。 幸い人攫いを捕えることが出来たからおたくらの所へ連れて行こうとしたところ、マントの2人組に人攫いをかっ攫われたんだ。 俺も追ったが逃げられた。 恐らくその2人も人攫いの仲間なのだろうな」


サミューは説明を終えると遠い目をした。


義賊である自分が人攫いとその仲間の話を自警団にするとは、なんと滑稽なことだろう。


「それはどこの古着屋だい?」


話を聞いたオーウェストの表情にあまり変化が見られなかったのでノルは驚いたが、サミューがギナハラに到着した際に言っていたように、この街では良くある話なのだと痛感した。


だがそんなオーウェストも3人に付いて古着屋へ到着すると表情が険しくなった。


「なんということだ、自警団立ち寄り店じゃないか! 確かこの辺りの担当はミディスだったな、そういえばさっき呼ばれたときも見てないし、あいつは何処で何をしているんだ……? すまないが君達にも自警団の詰め所で事情を聞かせてもらうよ、付いて来てくれ」


オーウェストに促された3人は自警団の詰め所へ到着すると事務室へ通された。


それからすぐに部屋の外が騒がしくなったが、一向に誰も来る気配が無い。


それから疲れた顔のオーウェストが事務室へ来たのは2時間くらい経ってからだった。


居心地が悪そうなサミューを見てオーウェストは申し訳なさそうな顔をする。


「待たせて申し訳ない、君達に来てもらってからすぐに激しく口論するミディスと例の古着屋の店主が連行されて来てね、聴取に時間がかかってしまった。 どうやら君達が被害に遭った誘拐未遂事件はミディスの奴もグルだったらしくて……  君達には私の同僚が迷惑をかけたな、申し訳ない。 もっとも奴はもう仲間では無いがね。 せめてもの詫びとして奴らから聞き出した事を君達には聞かせようと思う、だが捜査の続いている事件だからここで聞いた事は他言無用で頼むよ」


オーウェストは深々と頭を下げると事件の詳細を語り始めた。



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