表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
3章 湖畔に佇む街ストンリッツ
41/166

41話 スイーツフェスティバル5

 出店を出たノルとチラは動物の鳴き真似をし合って遊びながら歩いていたため人とぶつかった。


「「あっ、ごめんなさい……」」


 咄嗟に2人は謝りながらぶつかった相手を見ると、よりによってエマを叱りつけていたあのカオさんだ。


「(し、叱られる〜)」


 2人はすくみ上がったが、意外にもカオさんにガシガシと頭を撫でられた。


「おう、ちゃんと謝れて偉いじゃないか! ……ん? もしかしてエマと一緒にいた嬢ちゃんか?」


「は、はいそうです」


「おー、エマから聞いたよ。そっちの兄ちゃんとステンドグラス手伝ってくれたんだって? お陰でいい教会が出来て、スイーツフェスティバルが無事開催できたよ。ありがとな」


 カオさんの人懐っこい笑顔に安心したノルは気になっていた事を聞いてみた。


「お菓子の教会が無いとスイーツフェスティバルは開催できないの……ですか?」


「いやそんな事は無いが、俺はやっぱりお菓子の家が無いとスイーツフェスティバルはだめだと思うんだよ。半日の英雄像の側にお菓子の家を作り始めたのは俺の爺さんなんだけどよ、嬢ちゃんたちは昔ここで戦争が起こった事は知ってるか?」


「ええ、この街に来た日に教えてもらいました」


 カオさんは頷くと続けた。


「その戦争も今から1000年以上前の話らしい。だけど、どんなに戦争の悲惨さ凄惨さを口伝したとしても、どんどん記憶から薄れていくだろ? だってもう誰も実際に経験していないからどうしようもない事だと思う。だが人一倍正義感が強かった俺の爺さんは、その事に危機感というか焦燥感というかを感じたらしい。それで小さなお菓子の家の中で誰かれ問わず、この世界みんなで楽しく美味い菓子を食っていられる世の中を続けて行けるようにって思いを込めて作り始めたんだ。楽しい祭りの間に頭の隅っこにでも平和を意識していってもらえるようにってな。まぁあの立て看板だけでどれくらいの人が意識してくれるかはわからねぇが。だから俺はお菓子の家が無いと完全なスイーツフェスティバルって思えねぇな」


「そんな素敵な思いが込められていたのね……です」


 カオさん相手だと何故か敬語で話さなくてはならない気がしたノルの返事はぎこちないものになった。その様子を見てカオさんは笑いながらノルの肩を叩く。


「長話につき合わせて悪かったな。まぁ、そんな固くならずスイーツフェスティバルを楽しんでくれや」


 カオさんと別れると3人は自然とすぐそこにあるお菓子の教会へ入った。朝とは違いライトと椅子が設置され、楽しそうにお菓子を食べる人達で賑わっている。


 3人も買ったお菓子を食べて一息ついた後、外へ出ようと出入り口へ向かった。だが出入り口の横に設置されている立て看板を読む観光客の荷物が、出入り口を半分塞いでいて外へ出ずらい。声を掛けようか迷っているうちに会話が聞こえて来た。


「平和ねぇ……。難しいもんだぜ」


「えー、あんた何言ってんの? 平和なのが1番に決まってんじゃん」


 3人は盗み聞きをしているようで気まずくなった。


「いやさ、俺の親戚が住む国がだいぶ前に戦争をおっ始めたらしくて、近頃じゃ手紙も届かないから無事かもわかんねーのよ」


「えっ?! あの子供が生まれたっていうあんたの従兄弟のところ?」


「そうそう、あいつから届いた最後の手紙には、娘が初めてパパって呼んでくれたって書いてあったな……。けど俺はあいつらの無事を祈ることしかできないわけ……」


 男はため息をつくとお菓子の教会に向かって祈るように両手を組んだ。友人もそれに倣って祈るように手を組む。


「しっかし戦争って何で始まんだろうねぇ? 始めた指導者はこれはダメな事だって思わないのか?」


「うーん、きっと初めのうちはそう思っていても、国の利益のためとか考えて続ける。そのうちその状況に麻痺したり、良心の呵責に耐えられなくなってダメだって思う人間の心を捨ててしまうんじゃないかな?」


 そう言うと観光客はお菓子の教会に入って来た。


 先程まで気まずさを感じていた3人だったが、観光客の話に考えさせられていた。 気分を変えるようにサミューが尋ねる。


「……そろそろペンションへ帰るか?」


「うーん、そうね早く帰るように言われてるし」


「パーティ楽しみだね!」


 ひと通り見たと言っても全体をさらっと見ただけだったので、正直に言えばノルはやや後ろ髪を引かれていたが、帰ることに決めた。


「考えてみればお前たちも今日は早くから動いていたからな、ペンションへ帰ろう」



 ♢♦︎♢



 ペンションへ帰ると、庭にある窯の準備をしていたシダーさんが3人に気づいて微笑みかけた。


「おかえり、スイーツフェスティバルは楽しめたかい? 今夜はピザパーティだ、中でばあさんが待っているよ」


 ペンションへ入ると、シダー夫人がダイニングテーブルの上に材料を準備していた。


「おかえりなさい、旦那から聞いたと思うけど夕食はピザだよ。みんなで生地から捏ねるから荷物を置いたら手を洗っておいで」


「えっ、ピザって聞いた事はあるけど食べるのは初めて。急いで手を洗ってくるわ!」


「チラも、チラも!」


 2人に付いて2階へ行こうとしたサミューにシダー夫人が「期待してるわね男手さん」とウインクした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ