39話 スイーツフェスティバル3
出店のタープの色が赤のストライプ、地元ストンリッツのお菓子工房の出店が並ぶエリアに来た。
ここストンリッツは老舗の菓子店が多い。そのため世界各地から集まった出店のようなユニークな店は少ないが、伝統に裏付けられた実力派がしのぎを削るエリアだ。
まずノルが足を止めたのは、チョコレート工房の出店だった。
ひと口大の沢山の種類のチョコレートが傾斜のついた台の上に綺麗に並んでる。チョコレートの甘くまろやかでありながら、ほろ苦くわずかにフルーティーな香りが、客を引き寄せるのに一役買っていた。
シンプルな物、四角の上にドライフルーツや砕いたビスケットが乗った物、球体の物、紙の型に入った物、白やピンク色をした物……。それぞれの形で味が違うらしく、両手の指では数えきれない実に様々な種類の小さなチョコレートが並んでいた。
出店の奥にはチョコレートを入れる数種類の大きさの空き箱が置いてある。どうやら箱の決められた数だけ、自分で好きな種類のチョコレートを選ぶ事が出来るようだ。
「サミューさん、シダー夫妻へのお土産にしたいの、買っても良い?」
「それならしょうがない、良いぞ」
ノルは初め大きな箱を選ぼうと思ったが、サミューの方をちらりと見て中くらいの箱を選ぶ。本当は全種類食べてみたかったが、そうもいかなさそうなのでどれにしようかチラと一緒に選び始めた。どのチョコレートを食べようか、シダー夫妻にはどれを買って帰ろうか悩む事も楽しい。
箱いっぱいにチョコレートを詰めてもらうと、再び出店見物を始めた。
しばらく歩いていると突然サミューは顔をしかめ、ノルとチラの後ろに隠れる。ノルは何事かと思って見回すと間延びした声が聞こえた。
「おおっ! お兄さんじゃぁ無いですかー」
時すでに遅し、サミューはエマの兄に見つかってしまったようだ。何が楽しいのか、エマの兄はニコニコとこちらへ手を振っている。諦めたようにサミューは2人の後ろから出ると挨拶した。
「その節はどうも、教会が無事に完成して何よりですね」
照れたようにエマの兄が返す。
「いえいえ〜、お兄さんとそちらのお嬢さんのおかげですよ。妹に代わってお礼を言わせてください。だけどその妹がですね、帰って来るなり泥のよーに眠っちゃいまして、こうして人前に出る事が苦手な僕が店番させられているんですよー」
エマの兄はまったく困ったもんだと言わんばかりに手を振る。それを見てサミューは「(本当にこの人は、人前に出る事が苦手なのか?)」と思った。
「で、ここに来てくれたって事は、うちの飴細工を見に来てくれたって事ですか? それともうちで働いてくれるって事ですか? あっ、もしかして客引きでもしてくれちゃったりしてー?」
目をキラリと光らせたエマの兄を見て、サミューは硬直する。
「あ、あ、飴細工を見させてもらいます」
エマの兄はサミューの反応を見て楽しみつつも、口を尖らせた。
「なーんだ、客引きはしてくれないんですねー。まあ冗談はさておき、うちの飴細工はここ英雄広場の名前の由来、"半日の英雄"様の仮面をイメージして作った物なんですよー」
エマの兄が示した物は、目と鼻を隠すようなデザインの仮面形の飴細工だ。
「今は人も少ないし、気になる事があったら何でも聞いて下さいねー。みなさんじっくりと見て行ってください」
「わぁ、ありがとう。たっぷり見させてもらうわ」
「チラも、チラも!」
「……はい」
内心サミューはエマの兄から早く離れたかったが、返事をしてしまった以上見ない訳にはいかない。腹を決めて陳列されている飴細工を見ると、その美しい装飾に息を呑んだ。
大まかに分けると、透明な飴に色をつけた物と白い飴に絵を描いた物がある。透明の飴に透き通った色の飴を斑らに混ぜ合わせて作られた仮面は、淵の装飾が複雑な物が多い。白い飴で出来た仮面は半日の英雄像が着けている仮面と同じ形だが、様々な絵付けがされていた。
「この飴細工に棒を付けたのはエマのアイデアなんですよ! 飴としても仮面としても実用的になっているでしょー? 明日はエマが来て実演もする予定なんですー!」
エマの兄は得意気だ。
「エマさん明日はいるのね! サミューさん、明日また挨拶に来ても良いわよね?」
サミューはこれで解放されると内心ホッとしながら返した。
「ああ、もちろんだ。ではそろそろ次の店へ行くか?」
すると快活で大きな声に呼び止められた。
「おっそれならうちの店を見て行ってくれよ!」
突然会話に入ってきた人物は、お菓子の教会のステンドグラスに使ったビスケットを一緒に作った若い職人2人組だ。
エマの兄と別れると職人2人組と共にベンチのある休憩スペースへ来た。
「お嬢ちゃん達なら勉強させてもらうよ」
ノル、チラ、サミューはベンチに座る。
「お兄さん達は座らないの?」
「そこはお客様用のスペースなんだとさ! 俺達が座っているのを親方なんかに見られた日にゃ、終わりだ……」
「ちげぇねぇ!」
職人2人組は「ガハハ!」と笑った。
相手の大きな声に合わせノルの声も自然と大きくなってゆく。
「そうなのね。そうそう、お勉強? スカベル村に学校は無かったし、行ってみたいわ」
そう言いながらノルが頷くとサミューが「負けてくれるって事だ」とコソっと言った。
「おうよ! お嬢ちゃん達にはとても世話になったしな、負けてやるよ。ちなみに俺は学校をキチンと卒業したぜ」
「嘘つけ、お前は落第ギリギリだったはずだ、俺と同じでな!」
「あっ、お前こんな大勢の前でバラしやがったな!」
職人2人組が「ガハハ!」と笑い合う横で、ノルは思案していた。
「(負けてくれるっていう事は、お菓子を少し多く買ってもサミューさんに怒られないって事ね)」
食いしん坊なノルは立ち上がり、勢いよく手を挙げた。
「はいっ! 見に行きたいです!」
「チラも、チラも!」
スイーツフェスティバルの雰囲気に飲まれたノルとチラは元気に跳ねた。
「お前達やめろ、埃が舞う。周りに菓子を食ってる人もいるんだぞ。……それに注目を浴びている」
キョロキョロと周りを見渡しノルは赤くなる。
「あ、案内して下さい……出店へ……」
ノルは周りに自分の無知さを大声で聞かせていたのかと思うと顔から火が出そうだった。
「おう! こっちだ、付いて来てくれ!」




