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09.本日のランチは人参尽くし 〜人参ポタージュスープ


「まああ。何このスープ、美味しいわね」

「本当ね。色も綺麗だし、こんな色のワンピースがあったら欲しいくらいだわ」

「そうね。こんな素敵な色だもの、15歳は若く見えちゃうわね」

「それは若返りすぎよ〜」


常連のおばさま達がどっと笑う。


今日のランチに付けた人参ポタージュスープは好評のようだ。





『〜本日のシナモンカフェランチ〜


卵のホットサンドと、人参ポタージュスープと、サラダのセット 〜ドリンク付き〜

※お取り寄せ人参使用 』


ランチメニューは日替わりなので、店内の黒板のメニュー表にその日のランチ内容を書いている。

今日はホットサンドランチだ。


卵のホットサンドは、潰したゆで卵に、みじん切りにしたピクルス、マヨネーズ、塩、胡椒を混ぜ合わせた具材を、サンドイッチ用のパンにたっぷりと挟んで、ホットサンドメーカーで焼き上げたものだ。

――味に間違いのない、定番の味である。


サラダは、千切りキャベツとレタスとベビーリーフを混ぜ合わせて、上にプチトマトを飾ったシンプルなものだが、サラダにかけているドレッシングにこだわりがある。

芽衣奈お手製の、特製人参ドレッシングなのだ。


人参とりんごと玉ねぎ、酢、オリーブオイル、醤油、少しのお砂糖をブレンダーにかけただけだが、これが本当に美味しい。

特製ドレッシングは、サラダを『付け合わせを越えるもの』にしてくれる逸品だと芽衣奈は思っている。



だけど真の主役は他にいる。

それは人参ポタージュスープだ。


芽衣奈自慢の人参ポタージュスープは、シンプルな手順とシンプルな材料で作られている。

薄切りした玉ねぎを、鍋でじっくりとバターで炒めて甘みを引き出してから、たっぷりの人参と塩と砂糖を加えて、蓋をして蒸し焼きにする。

人参が柔らかくなったなと思ったら、牛乳を加えて更に弱火でコトコト煮込み、最後にブレンダーで人参を滑らかにして、仕上げに生クリームも加えてコクを足すと完成だ。

水を加えないこのポタージュスープは、贅沢の極みだ。最高しかない。


器に盛り付けて、店内のプランターで育てているパセリのみじん切りをちょっと飾ってから、お客さんへお出ししている。


常連のおばさま達の話ではないけれど。

綺麗なオレンジ色は、身につけたくなるほどに可愛さを持っている。




今日のランチは、「人参ドレッシング × 人参ポタージュスープ」。

――人参攻めだ。

これには理由がある。


芽衣奈は数日前の真夜中のテレビショッピングで、「極甘にんじんLサイズ三kg箱!今なら二箱買うと、更にもう一箱ついてくる!!」という文言に惹かれて衝動買いしてしまっていた。


買って届いてしまったら、人参メニューを作るしかない。


決して凝ったドレッシングでもスープでもないが、どちらも人参好きを震え上がらせるはずの逸品だ。

人参十二kgなんて、あっという間になくなるはず。


常連の三人のおばさま達の賑やかなおしゃべりを聞きながら、芽衣奈はご機嫌でランチを出した後のキッチンを片付けていった。







「今日のランチ、本当に美味しかったわぁ」

「本当よね。きっとトールさんのハートも鷲掴みね」

「そうね。とってもお似合いだわ〜」



ランチのお皿を下げてテーブルを拭き、セットの紅茶を運んでいくと、おばさま達にうふふふと嬉しそうに笑いかけられた。


今日もお見合い写真が、テーブルの真ん中に、ドン!と主張するように置かれている。

――運んだ紅茶を置くこともできないが、いつもの事だし芽衣奈が動じる事はない。


空いている隣のテーブルに紅茶を乗せたトレーを置いて、今日のお見合い写真を眺めた。



「この人、トールさんっていうの。お兄ちゃんほどじゃないけど、とっても背が高いのよ。身長247センチよ〜」


「身長247センチですか?」


「そうよ〜。耳の長さが60センチもあるの。背が高い男の人って素敵じゃない?」



お見合い写真の中で白い歯を見せて爽やかに笑う彼は、確かに顔立ちの整った素敵な人だ。

街ですれ違っただけでもドキドキしてしまうほどだろう。


だけど芽衣奈はそんな整った顔立ちよりも、彼の頭の方が気になってしまう。

頭の上にピョ―――ンと真っ直ぐに伸びた耳があるのだ。

耳の長さを入れて247センチの彼は、きっとうさぎの異世界人なんだろう。


耳の長さを引けば187センチの彼は、耳の長さを入れなくても高身長な男性だった。




「こんな素敵な方が目の前にいたら、ドキドキしてお話もできませんね。私には勿体無い人ですよ」


芽衣奈はふふふと笑って、丁寧にお見合い写真を閉じて、おばさま達にお返しした。

そして手早く紅茶をテーブルに並べて声をかける。


「お待たせしました。セットの紅茶の、ホットミルクティーおふたつと、ホットレモンティーお一つです」


「もう。メーナさんったらお仕事ばっかりなんだから。トールさんと一度会ってみなさいよ。一目で恋に落ちちゃうわよ〜」

「おばさんだって、トールさんと恋に落ちたいわぁ」

「まあ!そんな事言ったら、旦那さんが焼いちゃうわよ〜」


おばさま達がどっと笑う。

元気なおばさま達に芽衣奈もつられて笑顔になる。


「恋に落ちて仕事が手につかなくなっちゃうと困りますからね」


「あら。お店がお休みになっちゃったら困るわねえ」

「トールさんは素敵すぎてダメね。おばさんがその恋を引き受ける事にするわ」

「もう!旦那さんが泣いちゃうわよ〜」



ほほほほほほと大爆笑のおばさま達は、今日もとても元気だ。

機嫌がよさそうに、おばさま達のスカートから覗いているそれぞれの尻尾も揺れている。


異世界の元気なおばさま達は、芽衣奈に元気をくれる大切な常連のお客さんだった。









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― 新着の感想 ―
ふと思ったんだけど、通貨は同じなのかな?じゃないと店が成り立たないよね。
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