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06.常連さんはご兄妹 〜フラップジャック


「あれ?ユフィ兄さん?兄さんもこのお店に来ていたの?」


最近続けて通ってくれているお客さんが、ドアベルをチリンと鳴らして入ってきたお客さんを見て、驚いたように声をかけた。

声をかけられた彼もまた驚いた顔になる。


「もしかしてこの前フィーネが話してた、『新しく見つけた店』ってここだったのか?」

「そうよ。ユフィ兄さんがいつも寄っているってお店も、ここだったのね」


お客さん同士の会話に、『オープン時からの常連さんと、最近の常連さんは兄妹だったのね』と芽衣奈は驚いた。


いつもはサラサラの髪に隠れている尖った耳の彼と、サラサラのロングヘアで、もしかしたら尖った耳が隠れているのかもしれない彼女。


普通の人間だと思っていた彼女が異世界人だとすると―――シナモンカフェの常連さんはみんな、異世界人だったという事になる。

サラサラのロングヘアの美人の彼女だけは、異世界人ではないと思っていただけに、知ってしまった事実に芽衣奈は衝撃を受けた。



だけどそんな驚きは、顔や態度に出したりしない。


たとえシナモンカフェの常連さんが全て異世界人だったとしても、芽衣奈のお店の味を好んで通ってくれている大切なお客さん達ばかりなのだ。

そんな些細な事を気にする必要はない。


芽衣奈は驚きなどなかった事にして、常連さんの彼に笑顔を向けた。


「いらっしゃいませ。お二人はご兄妹だったんですね。そういえばよく似ていらっしゃいますよね。

今日のお席はフィーネさんと同じテーブル席にされますか?」


尖った耳の彼のいつもの席は、カウンターの一番奥の席だ。

だけど妹さんのいつもの席は、三つ並んだテーブル席の真ん中のテーブル席と決まっている。

芽衣奈が妹のフィーネさんの方へ、手のひらを向けて彼に問いかけると、彼は静かに首を振った。


「いえ、いつものテーブル席に座ります。いつもの席の方が落ち着きますからね」

「え、なに?ユフィ兄さん、冷たくない?普通一緒の席に座るでしょう?」

「フィーネ、うるさい。食べ終わったなら早く帰りなさい」

「え〜〜〜なにそれ」



言葉では冷たく言いながらも、楽しそうなやり取りに芽衣奈は微笑んだ。

とても仲のいい兄妹のようだ。雰囲気が温かい。


「フィーネさんはご注文されたばかりなんですよ。今日はフィーネさんリクエストの、フラップジャックをご用意したんです」

「フラップジャック?」

「オートミールと、ドライフルーツと、ナッツとチョコを混ぜて焼いた、ザクザクのオーツバーと言いますか、クッキーみたいなものです。栄養たっぷりだし、食べ応えがあって、美肌にも効くお菓子なんですよ」


芽衣奈の説明が上手く伝わらなかったのだろうか。

少し首をかしげた彼の髪がサラッと動き、尖った耳がチラリと姿を現した。


「フラップジャックは初めて聞くお菓子ですが、今日のお店の中の香りがそうなら、とても美味しそうですね。今日はいつものを止めて、それをお願いします」


「お飲み物はどうされますか?」

「そうですね。では……カプチーノで」


「かしこまりました。カプチーノとフラップジャックをお待ちしますね。ふふふ。フィーネさんと同じご注文ですね。とても仲が良いですね」

「はは。一緒でしたか」



彼の言葉に笑顔を返して、芽衣奈は二人分のカプチーノとフラップジャックを用意する。

カプチーノはエスプレッソマシーンのボタンひとつだし、フラップジャックも食べやすいようにワックスペーパーですでに軽く包んでいる。お皿に乗せるだけで準備は整った。


まずは先に注文した妹のフィーネの分から運ぼうかと顔を上げると、いつの間にかフィーネは兄である彼の隣の席に移動していた。

本当に仲のいい兄妹のようだ。

いつもは本を読んでいる彼は、今日は妹のフィーネさんとおしゃべりをしている。


楽しそうなおしゃべりを中断してしまうけど、カプチーノは泡が命だ。ふんわりとカップから盛り上がった泡が、少しでもふんわりしている間に見てもらいたい。

「失礼します」と声をかけて、芽衣奈は二人の前に商品を並べた。



早速サクサクとフラップジャックを食べたフィーネが嬉しそうに声をあげた。


「この味すごく好きかも!入ってるチョコレートも甘過ぎなくていいわね」

「ありがとうございます、フィーネさん。チョコはビターチョコを使ってます。高カカオチョコはポリフェノールたっぷりですからね、お肌にも良いですよ。それからお砂糖はビタミンとミネラルが含まれたきび砂糖使用です。オートミールは食物繊維たっぷり栄養たっぷりだし、『美容に良い焼き菓子』のリクエストに応えられたでしょうか?」


「合格よ!すごく美味しい!」

「確かに美味しいですね」


妹のフィーネの言葉に、兄の彼も同意する。


「ありがとうございます。お客さんにも気に入ってもらえて良かったです」


にっこりと芽衣奈が笑顔を返すと、常連さんの彼が口を開いた。


「僕だけ『お客さん』呼びは寂しいですね。そういえば名前を名乗った事はありませんでしたね。メーナさん、僕はユフィと言います。これからは名前で呼んでもらってもいいですか?」


「もちろんです。ユフィさん」


名前呼びをすると、一気に仲良くなった気がする。

オープン時から通ってくれている耳の尖った彼もまた、名前で呼び合う常連さんの仲間入りとなった。




「せっかく外で会ったんだもの。この後買い物に付き合ってよ。この二軒隣の雑貨屋さん、すごく可愛いものいっぱい置いてるのよ」

「ああ、そう言えばそんな店があったな。分かったよ」


サクサクとフラップジャックを食べなら、仲良く二人が会話しているのを、聞くともなしに聞いていた芽衣奈は、『あれ?』と気づく。




シナモンカフェは、古びた雑居ビルの中にある店舗だ。


雑居ビルの前に小さな看板は出させてもらっているが、シンプルな看板はそんなに目を引くような物ではない。

隠れ家的カフェを目指したわけではないが、隠れまくってるカフェである。


そんな隠れまくってるカフェのある雑居ビル自体も、人通りの少ない目立たない場所にある。

雑居ビルの周辺には他に目につくお店などなく、同じようなビルが立ち並んでいるだけだ。

二軒隣にそんな雑貨店など――なかったはずた。




「ありがとうございました」と常連さんのユフィとフィーネを見送った後、芽衣奈は二人が出て行った扉をじっと見つめた。


『このお店に来てくれる常連さん達って、いつもどこから来てどこへ帰って行くのかしら?』と、初めて芽衣奈は異世界の常連さんを不思議に思った。




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