試験の全容
新年入ってから初めてのナイト・オブ・エースですね。改めて明けましておめでとうございます。
関係ないけどそろそろこの作品の略称を決めたい。
ホワイトが待合室に入ると、見慣れた顔が一つあった。その顔は少し驚いたようにも、安心したようにも見える、弟子の顔だ。
思わず笑いかけてしまったが、すぐに顔は見えないのだったと思い、少しだけ残念な気持ちになってしまう。そんなことを知らなくても笑いかけてくれる弟子がそこにいるのだからよくできたものだ。
他の顔を見ると、ホワイトはやはりなという気持ちになった。
部屋割りは適当じゃない。実力とコネで分けられている。勿論受験者は知らないが、きっとどこかで悟るはずだ。だが、それはどうだっていい。大事なのは弟子が受かるかどうかだ。
贔屓は駄目と分かっているが、どうしても肩入れしてしまう。だからホワイトは自身の出す試験を本人の実力がないとどうにもならない物にしたし、合格を祈るだけで他に手出しはしないように自重しているつもりだ。
しかし他の者はどうかわからない。
この部屋の受験者の中には、月の騎士が取った弟子もいるし、なんなら試験官に選ばれた騎士の弟子だっている。アムル以外にも、だ。
それがどんな風に転ぶのか、現状わからない。もしかしたら弟子を合格させるための試験を用意する試験官もいるかもしれない。
ただ一つ言えることは、ホワイトが試験官だろうがなかろうが、実力通りに進めばアムルの合格は間違いないということだ。心配してしまうのは、アムルの合格を邪魔しようとする不届き者の存在である。
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ホワイトの号令で室内に緊張が走る。ようやく試験が始まるのだ。ここからは全員敵で信じられるのは自分だけ。
そうと分かっていても、一人という実感はあまり湧かない。アムルには相棒がいるし、師匠もいるからだ。まあ師匠は今回敵みたいなものだが。
ホワイトによって案内された場所は、広い闘技場だった。直接客席から見える会場へ通された事から、先程までは闘技場の待合室にいたようだとわかる。
既に人だかりが出来ており、それが国ごとに別れて列を作っていると気づいたのはすぐだった。
「それじゃあここで整列して。出身ごとに別れてくれれば順番はなんでもいいから。列を乱さないようにね」
そう言い残すと、ホワイトはさっさと列の前方へ歩いていった。そこにはホワイトと同じ、月の国の紋章が入ったマントを羽織った騎士が三人いた。
一人は眼鏡をかけた青年、一人はバンダナを巻いた無精髭の中年男性、一人はふわふわとした金髪の女性だ。そこにホワイトが加わっても、意外なことに違和感はなかった。というか凄く馴染んでいる気がする。
アムルは同じ国の者であり、先程まで会話していたフリューとラッシュと共に列に並んだ。
フリューからは緊張が、ラッシュからは自信が伝わってくるのがアムルにはわかった。そして、自分はどうだろうと疑問に思ったが、すぐに考えるのはやめた。気づけばさらに人が増えており、眼鏡の騎士が話を始めたからだ。
「静粛に! それではこれより月の国騎士団入団試験を始めます。試験の説明と注意喚起を月の国騎士団副団長である、アベル騎士から話してもらいます。しっかり聞いてください」
そう言って眼鏡の騎士が後ろに一歩下がると、紺色のストレートヘアを揺らしながら若い女性の騎士が前に出てきた。
この人はアムルでも知っている。会ったことはないが、話だけはホワイトから聞かされていたのだ。
月の国騎士団副団長アベル。七年前に始まった東の大陸、東陽大陸と西陰大陸とで争った大戦争で西陰に勝利をもたらし、同時に西陰全土へ『紋章』の存在を知らしめた最強の『聖騎士』。
彼女を知らない騎士は西陰どころか東陽にもいないとまで言われるほど暴れまくったらしいが、アムルはアベルに対してどこか懐かしいような、それでいて寂しいような感想を持った。
「初めまして、私はアベル。月の騎士団の副団長だ。早速だが、今回の試験の説明を始める。」
アベルの言葉にゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてくる。彼女の言葉には迫力こそないものの、決して安心はさせてくれない、静かで冷たい印象がある。
「君たちには今日より七日間、ここにいる試験官が出す試験に挑んでもらう。試験は各試験官からは一人一つ、一日かけて行う。全体を通しての合否は九日後に発表するから、各試験の合否がどうであれ毎日出席してもらう。ただし、試験中に大怪我を負う等で試験の続行が不可能だとこちらが判断したらその時点で強制的に脱落だ」
試験官は先程の三人に加えてアベルとホワイト、それから疲れているようにみえる顔色の男性に筋肉質な大男が混ざった七人。
ホワイトが何日目の試験を担当するのかすらアムルは聞いていないが、全員一筋縄ではいかなそうだとなんとなく肌で実感した。
「続いて注意事項に移る。君たちには試験の七日の間、こちらが用意した寮で生活してもらう訳だがくれぐれも問題は起こさないでくれ。これが一つ目だ」
何故だか一つ目は、試験とあまり関係のない事への注意事項だった。とは言っても、アムルは今この瞬間まで寮で生活すること等頭になかったため実は少しだけありがたかったりするのだが。
「二つ目だ。騎士としてあるべき姿勢で試験に挑め。不正はどんな理由であれ許さない。中には多少の不正がバレた程度なら庇ってやると言われている者もいるかもしれないが、関係ない。問答無用で失格だ」
えっ、と言った声が聞こえてきた。場所はアムル達のいるところの左側、炎の国出身の受験者達が集まっているところからだ。一人、明らかに顔色の悪い少年がいる。
そこでアムルはあることに気がついた。氷の国の出身者が一人いるのだ。
氷の国は、何年か前に魔獣が大暴れして国ごと凍りついてしまったと聞いていた。勿論ホワイトから。
凍りついたのは大地に建築物、生物まで全て数限りなくだ。その事件があってから、西陰の各国は氷の国を強制封鎖し、今でも調査を続けているらしい。
それなのに氷の国出身の受験者がいるのは、まだ国籍を移す前にどこか別の地へ旅行でもしていて助かったのだろうか。国籍を移すには恐ろしく金がかかるため、まだ変えていないことには納得できる。
アムルがそんなことを考えていると、アベルの声が聞こえてきた。
「注意事項はこれで最後だ。後は任せたぞ、ラルフ」
「はいはーい、ちょっと待ってくださいね」
アベルがラルフと呼ぶと、最初発言していた眼鏡の青年が答えた。彼はラルフというらしい。ラルフ……確か、月の国騎士団第一部隊隊長の名前だったはずだ。
ラルフは両手を上下に合わせて、少しずつ離している。手と手の間には少しずつ、何かの物体が生成されているように見える。完全に手を離し終えるとそれは、金属のような銀の輝きを放つリングになっていた。
「お待たせしました。えー自分はラルフ。月の騎士団の第一部隊隊長やってます。今日の試験は自分が担当するんで覚悟してくださいね」
やはり第一部隊隊長だった。ホワイトに以前月の騎士団で一番強いのは誰かと聞いた時教えてもらった名前だ。
たしか、最強はアベルで次に騎士団長、三番目争いをラルフとホワイトでしていると言っていたはずだ。謙遜も自信もなく、当たり前のように自分の名前を言った師匠を心から凄いと思った事を覚えている。
「そんじゃ、自分の試験の説明しますね。自分からの試験はいたって単純。このリングを着けて、魔術を使ってください。このリングは自分の『能力』で作ったもんでして、なんと着けてる人の使った魔術の特性とそれをどれだけ使いこなせてるかが分かるんですよ。魔術は戦いの共。中には使わない人もいますが、君らは全員使うって聞いたので問題ないですかね。問題アリなら前もって言っといてください。その人には他の試験を出しますから。それと使う魔術はどんなものでも、何個でも構いません。とにかく君たちの魔術の腕前が見たいので頑張ってください。注意事項は他人には打たないで、こっちが用意しとく的に向かってお願いします。あ、魔装みたいに武器や自分に使う魔術は例外ですよ。あと、今の自分にはラルフさんに向かってってことじゃないですからね」
最初の試験から一筋縄ではいかなそうだと、アムルは感じたのだった。
最後の文、適当すぎたかも。