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魔術とアクア

 月の国は西陰大陸内で事実上の最高権力を有しており、それに見合うだけの国力を維持するため、毎年大陸内の成人前の子供に試験をさせているのであった。それは何も騎士に限ったことではなく、様々な職業で行い、どんなことでも常に最前線を走れるようにしているのである


ーーーーーー


「それじゃあ最後の修行を始めようか。じゃあ魔術から基礎知識を説明してみて」


 里帰りをした後、アムルとホワイトの二人は村を出て修行を始めようとしていた。

 月の騎士団入団試験はあと数日で始まるため、アムルにとって自身の師から学べる最後の修行なのだ。つい気合いが入ってしまいそうになる。


「はい。魔術は人間が魔獣の使う魔力を利用した行動を再現したもので、魔力を使った技術全般の事を指します。ただ、人間では魔獣のように魔力を自由に扱いきれないので、魔力に属性を付与して効率的に消費したり、魔方陣を縫った魔術具によって様々な事を利用できるようにしています」

「ざんねーん、半分ふせーかーい!」


 突如アムルの背中から騒がしい声が聞こえてきた。ホワイトのような落ち着いた女性の声ではなく、もっと子供のような高い声だ。


「アクア……寝てたんじゃなかったのか?」

「もー、そんな嫌そうな顔しないでよー。わたしたち、一心同体の仲なんだからさー!」


 そういって元気そうにはしゃいでいる少女はガラス細工のような瞳に超の付く美少女だと誰もが思うほど整った容姿をしているのだが、それを台無しにしてしまうほどの言動をしている。

 よく見たら膝下から水の魔力で出来ており、それがアムルの背中と繋がっている。腕も一部が肌ではなく、水になっている。加えて、青い髪をポニーテールにしている髪留めは何で出来ているのか金の輝きを放っており、それに嵌まっている魔石はまるでアメジストのように美しい。


 そんな少女の名はアクア、自称女神様だ。何でもこの女神様は水の神なのだが、訳合って魔力と魂、というか精神だけの存在になってしまい、延命のためにアムルに封印された筈が手違いで駄々漏れになっているらしい。

 アクアが初めてアムルの前に姿を見せた時も、ホワイトと出会った時もそう言っていたのだが、アムルはどうにも信用できていない。というか訳が分からない。


 と、そんなことは置いといてアクアはアムルの回答にダメ出しを初めていた。


「いいかい、アムル君や。魔術っていうのはね、あくまでも属性に概念を持たせた事を指すんだよ。例えば炎属性の魔術なら、炎属性っていう概念から実際の炎を手とか魔方陣とかから出すようにする感じ。その出し方も魔術だけど魔術具はかんけーないのですよ。お分かりかなー?」

「アクアの正解だよ。少し煽るような発言は控えた方がいいけど、よく覚えてるね。魔術具は魔術って付いてるけど完全な別物だなら気を付けてね」

「……すみません、気を付けます」

「ねーえ、わたしの事はむしー!?」

「じゃあ次。一ヶ月前から君独自の魔術を開発するよう課題を出してたけどそれを発表して貰おうかな。いったいいくつできた?」


 属性は二大属性の光と闇から始まり、水と風、炎と土の四大属性に分かれる。さらにその四大属性を発展させた物として氷、雷、爆、花がある。

 属性は魔力の()を表しているような物なのだが、どの属性が強いかは個人差があり、中には属性を一つしか持たない者も、全属性持ちの者もいる。


 アムルの魔力は九割以上雷属性でできており、残りの一割未満は風属性でできている。つまり、多様な使い方を魔術に求められないのだ。


 ならばやることは一つだった。そう、雷だけをとにかく鍛える。


「俺は三つ作りました。一つ目がこれです」


 そう言ってアムルは腰の剣を抜いた。よく手入れされたよい代物だ。

 その剣に雷を纏わせると、剣を縦に振った。

 すると、纏っていた雷が釣糸のように剣先から伸び、鞭のように扱えるようになった。


「どうですか? 中距離の相手に距離を積めながら使えますし、基本は剣と同じ要領で扱えます。魔力の砲弾を当てるより俺にとっては簡単なので結構気に入ってます。欠点を挙げるなら、起動が読まれやすい事ですかね。多少はこの魔力だけを動かせるんですが、それをするとそれなりに魔力を消費を消費するんですよね」

「うん、結構良くできてるよ。『魔装』を発展させたのかな?」


 魔装とは武器や盾に魔力を纏わせ、攻撃力や耐久力を上げる魔術だ。これは騎士の扱う基礎的な魔術なので誰でも使え、実際にこれから着想を得ている。


「正解です。正直、他に開発した人もいそうですけど読んだ魔術の本には書いてなかったし採用しました」

「やっぱ、これアムルにとっては有能でも、わたしには使えないかな。武器持ってないし」

「アクアは他に使い勝手のいい魔術持ってるし今更いいだろ?」

「むう……せっかくなら使いたかったじゃん……」


 ホワイトは少し残念そうにふてくされるアクアをちらりと見ると、見えない口を開いた。


「それじゃあ二つ目の魔術を発表してもらおうかな。いったい、どんなの作ったの?」

「二つ目は一つ目のと似てるんですが、こっちは多数相手とか数ヶ所を一度に狙わないと倒せない魔獣用に作りました」


 アムルは剣を一振し、先程纏わせていた魔力を散開させると、また纏わせた。

 今度は剣先を上に向け、両手に持ち変えると、雷がバチバチと音を立て出した。先程も多少は鳴っていたが、それよりも激しく音を立てている。

 すると、纏っていた魔力が五方向へと飛び出した。まるで、生きた龍のように荒々しく動めいている。

 今度の魔力は宙には留まらず、押さえきれなかったかのように前方の木々へ当たっていった。無論、木々は全て弾け飛んだ。

「これが二つ目です。威力の調整が難しいし、五つまでしか出せない代わりに、当たれば強いです。ただ、魔力をそこそこ消費しますから使い所は結構選びます」

「これは……難しいね。危険な魔術程扱いは大変だし、人に向けて使うときは相当手加減しなきゃだし。慣れるまでは対人には使わないようにね。ただ凄いことは変わりないよ」

「ありがとうございます、アクアにも使い所は考えろって言われたんですよね。それで一つ目のを作ったくらいですし」

「そうそう、アムルったらやばくてね、これでもマシになったくらいなんだよ? 最初は全然制御出来てなかったんだから」

「あはは、なら継続を頑張るようにね……。それじゃあいよいよ、最後の魔術を御披露目して貰っても?」

「全然大丈夫です。これはアクアと共同で作りました」

「じゃあ、早速お願いね」


 アムルは一度深呼吸すると全身に魔力を行き渡らせた。すると、身体中からさっきまでとは比べ物にならないくらいの雷が暴れだし、魔力も漏れ出した。


「これは魔力の消費が激しい代わりに身体能力が飛躍します。特に速さが通常状態の時と比べ物にならないくらい上がります。これは俺の魔力でやってますが、アクアと同化? したらアクアの魔力でできます。属性を重複させることは出来ないみたいですが、アクアの得意な水属性以外の属性でもできるので手数が増えますし、何よりアクアの精神を封じ込めます」

「がーん、そんな風に思ってたんだ……。失礼だし、普通にショックなんですけど!?」

「じゃあもう少し自制してくれ……。どうですか?」


 アムルが期待を込めて訪ねると、ホワイトはクスっと笑った。何故なのか不思議に思っていると落ち着いたのか声を発した。


「ごめんごめん、それ、私の知り合いも生み出してたんだよね。その人は効率を重視して使わなくなったんだけど、強力だから消費魔力を抑える練習をしたらどんどん使っていっていいよ」


 そう言うと、アムルは嬉しそうにアクアと何やら話し出した。


 こうして楽しそうに会話している弟子を見ると、初めてあった時から随分変わったなとホワイトはひそかに思うのだった。

アクア、むずい

※もともと別の話が二話だったのですが、なんか違うなー感がエグかったので五話くらいに移行してます。最古参勢の方々、ご安心ください。

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