二人の旅人
初めまして、佐上蛍です。
この物語はタイトルからではどんな内容なのかわからないと思うので補足させていただきますと、少年が戦争を通して望む未来を得ようと時に苦悩し、時に仲間と笑い合い、時に涙を流す、そんな物語です。
かなり複雑でわかりにくい内容となっていますが楽しんでいただけるよう頑張ります。
それから物語の都合上、戦争表現、奴隷表現、宗教表現、暴力表現等を描きますがあくまでもフィクションですので、僕自身の何かの意図があって書いてるわけではないです。ご了承ください。
人類は力を奮い、自らのエゴを押し付けることで遠い過去から今に至るまでを勝者のみが生き残ってきた。これは、勝者が正義という弱肉強食の世の中で形成された必然であり、ここ異世界でも当然のものとなっていた。
月陰暦一四九六年、先の大陸をも跨いだ大戦終結から早五年、三大大陸が一つ西陰大陸ではほとんどの国で復興が完了していた。
魔術により発展した文明は他大陸にはない個性であり、誇りであり、時に醜く感じてしまうものの、魔術がなければこんなに速く復興出来なかったのだから素直に誇りたいと思う。
西陰は水の国、氷の国、炎の国、爆の国、闇の国、月の国の計六国により形成されており、月の国が事実上の最高権力保持国として大陸全土を治めている。
そのため、月の国独自の法律が時に他国にも通じる事があり、それは騎士という職にも関係しているのであった。
ーーーーーー
ここは西陰大陸南部の大国、水の国。豊かな水産資源と美しい町並みから世界に誇る観光地として名を馳せている都会だ。
そんな都会にも勿論田舎はある。ここは、旅人すら立ち寄ることのない山岳地帯の過疎村、リュウノ村。
せいぜい高原野菜くらいしか誇れる物のないド田舎である。
子供は皆農家になり、都会に憧れを持つ事すらない。そんな村に二つの影が向かっていた。
一人は白い髪に仮面を着けた推定女性であり、もう一人は十四、五歳くらいの黒髪の少年だ。どちらも腰に剣を帯刀しており、一見ただの服を着ているようだが、それには防護の魔方陣が縫われている。
「久し振りの里帰りだけど本当に来てもらって良かったの? アムルはここにいい思いでがないでしょう?」
白髪の女性が少年の事を「アムル」と呼び、尋ねている。顔は見えないが心配が顔に出ているようだ。
「大丈夫です。あれから四年も経ったんですから、身の振り方くらい弁えてますよ。それに、ホワイトさんがいないと俺はアクアから延々と愚痴を聞かされる事になるんですから、来た方がマシだったんです」
少年は女性を「ホワイトさん」と呼んだ。少しうんざりした表情なのだが、よっぽど「アクア」という人物の愚痴が嫌なのだろうか。
そんなことを考えながら門番の仕事をしている男性は、近づいてきた二人組に警戒しながらも話しかけた。
「ここは都会でもなんでもないし、旅人ならまだ明るいんだからすぐに山を下りな。あんたらみたいな文無しでも借りれる宿が麓にゃあるからよ。」
「文無しとは失礼だね、ザック。私だよ、ホワイトだよ。忘れちゃったの? よく飲みに行ってあげてたのにな……」
本当に悲しそうな声でホワイトは呟いた。ザックは当然二人の事を覚えていた。しかし警戒を緩めない。
「覚えてるかどうかは合言葉を言ってからだ。村の決まりなんでな。仕事をさせてくれ」
「そうだったね。それじゃあ改めて『リュウノ村でカボチャを採りたいのだが構わないだろうか?』」
「……いいだろう、ちゃんと覚えていたんだな、ホワイト……。いや、さっきまで忘れてやがったな?」
「まさか。私は君の奥さんから聞かされた愚痴も全部覚えていたよ」
「なんだと、このやろー」
久々の再会に心底嬉しそうに二人は会話をし出した。やっぱりここは、アムルが出ていった四年前から変っていないようだ。ちなみにザックは騎士ではない。あくまでも決まりで門番をしているだけだ。
余所者を嫌い、簡単には村に入れない。何故ここまで警戒しているのか知らないが、ホワイトはこの村出身なのだから不必要なのではと思ってしまう。
「で、ホワイト。何でまた里帰りを? しかも、そこのガキ……まさかアムルか? なんだってそいつも連れてきたんだよ?」
「もうすぐアムルの入団試験が始まるからね。始まる前に残りの私の私物を取っときたかったんだよ。ただアムルを一人で残しとくと厄介な連中に絡まれそうだったんだ。かわいい弟子を危険な目に合わせたくないし、それなら私の目の届くところに置いといた方が安全だしね」
「ふーん、にしてもアムルも物好きだな。また婆さん達に嫌味言われるぞ?」
「俺もそれは分かってるんですけど、もうここに来ることはないだろうし、最後に婦人様の顔を見ておきたかったんです。一応恩人ですから」
「そーかい。ま、入んな。一応お前さんにとっても一応故郷なんだからな」
こうしてアムル達はリュウノ村に足を踏み入れた。やっぱりアムルに対して少し引いた立場でしか会話をしてくれない所も変わっていないらしい。故郷なんだからと口では言っていたものの、そう思っていない事は明確な態度で言っていたのだから。勿論アムルも故郷とは思っていないのだが。
道を歩くと少ない村人達が何やらこちらを見てひそひそ話している。老若男女、さまざまな顔だ。ホワイトを見て嬉しそうに頬を緩めている者、アムルを見て嫌そうに顔をしかめる者、ホワイトに対して目を疑うように驚いている者。
そうして村で一番大きな建物に入った。村長夫妻の家だ。ここでまず挨拶をしておく必要がある。
「そこのメイドさん。村長夫妻はおいでですか?」
「はい、上にいらっしゃいますが、アポは取ってお出でですか?」
「いや、取ってない。何しろさっきここに着いたばっかりなんだ。久し振りの里帰りな物でいつ着くか分からなかったし、第一連絡すら取れないからね」
「そうでございましたか、お帰りなさいませ。上に取り次ぐのでお名前よろしいですか?」
「ホワイトとアムルが来たと伝えてください」
メイドは一礼した後、上に続く階段を昇っていった。
「にしても、今の子は知らない子だったね。私のこともアムルの事も知らないとは」
「もしかしたら、新しい孤児かもしれませんよ。俺以外の孤児達が今どうしてるか知りませんけど、さっきの子は知らない子でしたし、ここには孤児ばかり働いてますから」
「そうかもね。でもメイドなんて初めて見たな。まさか村長の新しい趣味だったりしてね」
「誰の趣味だって?」
雑談をしていると厳格そうな老人男性が階段を下ってきた。左手で杖を付きながら右手で手すりを掴んでいる。
「お久しぶりです、村長。さっきのは冗談ですので聞き流してもらって大丈夫ですよ」
「一度聞いた物を簡単に忘れられるか。……それで、何しに帰ってきた。それもアムルなんぞ連れてきおって」
「置いておいた荷物を取りに来ただけですよ。アムルは厄介な連中に絡まれないよう目の届く所に置いときたかっただけです。すぐに私の家に連れてくから気にしなくて結構ですよ」
「そうか。……ところでアムル。お前は今何をしておる?」
「騎士として修練しています。もうすぐ始まる月の国騎士団入団試験を受けようと思いまして」
アムルがそう返すと村長は「そうか」とだけ言って上に戻っていった。
すると、すぐにメイドがホワイト達の方へ小走りに向かってきた。
「すみません、ご主人様が粗相をしていたようで。ワタクシの方からきちんと言っておきますので。それからご婦人様なのですが、実は体調を崩されておりまして、伝言だけ頼まれています。何でも、「速く帰りな、疫病神ども」だそうです」
「そう……それじゃあ最後に一つ。あなたはどなた?」
「ワタクシは二年前拾われたメイドです。大した者ではないので、気にしなくて結構でございましてよ」
「そう。じゃあ私達はこれで失礼するから。明後日には村を出ると伝えといてください」
「かしこまりました」
こうして村長宅を出た二人はすぐにホワイト宅へと向かった。
「ホワイトさん、何だか静かですね。何か気になることでも?」
「いや、大したことじゃないよ。それより今から修行に行こうか。最後に煮詰めるよ」
「はい!」
異世界転生じゃないです
あと今回はほとんど喋って無かったアムル君が主人公です。
ザックはお気に入りのモブです
※この話は元々掲載していた内容を大幅変更しています。幻の第一話は五話くらいにあるので変だな?と思った最古参勢の方はご安心ください
それからもう一つ。一度アカウントが消滅したのでやり直してます。真の最古参勢の方がいらっしゃったらコメントで教えてね