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第十一話 輪廻更生(リイン・カーネーション)[前編③]

二曲目はBirthday Songだな、終太郎――byソウシ

 ちょ、ハルデルトさんはともかくなんでマリッちさんが!? って朝の見回りか!


――マリッちちゃんの前で、その話題は絶対に出さないで


(朝っぱらから結界魔法なんか使ってたら気になって見に来るよな!?)


 無いよりはまし程度の認識でレベル90のまま[バリアモンド]を使ったことも合わせて迂闊だったと、僕は唇を噛む。レベル328のマリッちさんにしてみれば、薄氷もいいところだったろうな……どういう攻撃かは分からないけどビキッて一撃だったし。


「その星型のバッジ、この街の保安官とお見受けします。殺気を鎮めていただけませんか」


 今すぐ立ち去りますのでと口調こそ落ち着いてるけど、ハルデルトさんの手はレイピアを握ったままで眼差しも鋭い。マリッちさんが戦闘態勢を解く気配をこれっぽっちも見せないからってのは分かるけど、これじゃあ……。


「あぁウゼ」


 本当に殺し合いになる、と寒気を覚えた刹那。ソウシが動いた。といっても片膝立ちの状態から普通に立ち上がっただけで魔法もスキルも使ってない――けど、レベルを上げた。表向きの99から本来の99999まで一気に、殺気を添えて。僕がいる一角を除く全土がカンストした負の感情に侵されたらしく、マリッちさんはヒュッと息を詰めて腰を抜かしてしまった。


 ハルデルトさんも殺気拡散の衝撃で掌を離れたレイピアそっちのけで、怯えて座り込んじゃった英斗くんに合わせて全身を盾にしてる。若干効き目が出すぎてる気もするけど……ひとまずは一触即発の空気がなくなったことに僕はホッと息を吐いた。


「っんだ敵襲か!?」

「ガウガウッ」

「グルルル!」

「…………」


 一秒後には、吐いた傍からビクッて思いっきり吸い込んじゃったけど。裏口から飛び出してきたウルたち三兄弟の手には鉤爪がはめられてて、ナージュさんもブローチを鎌に変えただけじゃなく足まで生やしてる……でもその顔色は、ついさっきまで酔い潰れてたことを踏まえてもすこぶる悪い。壁越しとはいえカンストステータスの全力殺気を浴びたんだ、きっと立って動くだけでも相当しんどいんだ。


「ぁ、あのこれは別に争ってたわけじゃっ」

「…………」


 いや揉めてたのは本当だけど不可抗力で、と身振り手振りで言い訳をする僕をスッと片手で制し、ナージュさんはまっすぐマリッちさんの傍へ歩み寄る。そして呼吸を落ち着かせるだけで精一杯な彼女の背中を摩りながら目元を掌で覆うと、瞬きを忘れて痙攣している瞼をそっと下ろした……たったそれだけで、ガチガチだったマリッちさんの意識は魔法にかかったみたいに沈む。そこだけ切り取れば神聖な儀式だけど、


「…………」


 英斗くんとハルデルトさんのほうを顧みたパールホワイトの瞳は、`すぐに立ち去りなさい`と生々しい圧力を放っていた。その圧に抗うことなく「数々のご無礼、お許しください」と深く深く頭を垂れたハルデルトさんは、ナージュさんがマーメイドプリンセスだと直感したのかもしれない。やや乱暴な手つきでレイピアを鞘に戻すと、未だに茫然としたままの英斗くんを荷物担ぎして[ロードスキップ]で去っていった。


「……えっとソウシ、は大丈夫そうだな。シュウタロウお前は?」

「っ、僕も大丈夫!」


 騒がせてごめんとウルに謝りながら僕も立ち上がったけど……どうしよう、ナージュさんのほう見れない。マリッちさんの前で英斗くんの話題を出したら、接触させたら駄目だってあんなに忠告されたのに……俯きながらチラッと覗ったソウシの顔にも、まさか彼女の英斗くんへの憎悪が問答無用で攻撃してくる程だとは思わなかったって苦々しさが滲んでいた。


「悪ぃ、ちと油断した」

「…………」

「`突っ込んでったのはマリッちのほうみたいだし、二人だけのせいじゃない`」


 ゆるりと首を振ったナージュさんの表情を翻訳したウルは、締めとばかりに「だってさ!」と僕らの背中を叩くと、


「だから()()も、コイツら責めんじゃねーぞ?」


 ナージュさんとマリッちさんの更に向こう側へ声を投げる。この状況・タイミングで僕らを責める権利を持つ`お前`――おずおずと視線を上げた先にはイリグさんが、表情らしい表情のない顔で佇んでいた。怒鳴られる、とウルが先手を打ってくれたことも忘れて身を竦ませると、気づいたソウシが「逆光で能面に見えるだけだ」と耳打ちしてくれる。実際は光の加減とかじゃなくて本当に無表情に近かったんだけど……臆病な僕は優しい嘘に甘えることにした。


「店で休んでくか? すぐ連れ帰るならイノかシシ貸すぞ?」

「……いや、平気だ」


 自分一人で背負って帰れるからとウルに返したイリグさんが、ナージュさんの腕からマリッちさんを譲り受ける。軽々とおぶりながら「すまない、止められなかった」と彼女に謝ってるところを見ると、騒ぎを聞きつけて来たんじゃなくて、二人一緒の見回り中に飛び出していったマリッちさんを追って来たみたいだ……ふと、どっちの`止められなかった`だろうと僕は思った。


「あの人たち、ナージュの店に用があったのか?」


 普通にマリッちさんの行動が唐突すぎて`止められなかった`のか、


「俺と終太郎にだよ、この店は無関係だ」


 彼女の憎悪を知ってたから`止められなかった`、()()()()()()()()()()()のか――ソウシの言葉を聞いたイリグさんは最初こそ訝しがってたけど、「……だったら忙しくなるな」と一度納得顔になると、さっさとマリッちさんを背負い直して路地を出ていこうとする。と、今度は僕が「ぃ、忙しくって?」と反射的に呼び止めていた。


「オレの勘だから絶対とは言い切れないけど……シュウタロウとソウシさ、この間エルフの園で歌ったんだろ?」


 さらには新魔法使ったそうじゃんと肩越しに見てくるイリグさんに、果たして僕は上手く頷けてただろうか? 乾燥した顔で口角つり上げたらピシッて皮膚が罅割れたみたいな、上にも下にも動かせない困惑が前面に出てた気がしてならない。


「その分じゃ知らないみたいだけど、アレ評判凄いんだぞ?」

「へ、へぇ」


 まぁ現に、エルフの園から遠く離れたこのフーリガンズに住むイリグさんのとこまで届いてるっぽいですしね。


「で、もうすぐエレジルフ王子の誕生日だろ?」

「…………」


 歌に新魔法、それから地方に関係なく広がってるらしい評判の良さ。そこへ近日中に開かれるだろう一国の王子の誕生祭とくればさ、


「二曲目はBirthday Songだな、終太郎」

「もうそれしかないよねぇええぇえっ!?」


 気を失ってるマリッちさんそっちのけで大空へ向けてシャウトしてから半日後、てかその晩。僕とソウシ宛てにハルデルトさんから、火の鳥を彷彿とさせるような豪華な[ピジョンメッセ]の鳩が届き、僕らは英斗くんのこの異世界での誕生祭――【リ・エレジルフ】に正式に招待されることになった。


    ◇◇◇◇


「……んで?」

「ぇ、えっと……こ、このたび王子様の誕生祭で、歌を披露することになりまして…」


 歌詞作りの参考にエレジルフ王子、もとい英斗くんのこと教えてもらえないかなって――言い切る前に、ノーモーションで投擲された包丁が僕の頬スレスレを掠めていった。かと思いきや銀の閃きはピッとキャッチする音と一緒に綺麗にUターン、厨房でまな板の上の野菜と向き合っていたリインさんの手に戻る。


 こっちを一瞥もしないまま何もなかったみたいに、だけど包丁を握り直して野菜を刻んでいく横顔には`拒絶`の文字がデカデカと浮き出ていて……耐え切れなくなった僕は無言で頭を下げると、店を出て浜辺まで逃げた。太陽が地平線から顔を出して間もないこの時間。浜は魚を捕る人たちで意外といっぱいで、砂を踏む音なんてそこら中から聞こえてくるのに、


「歌のカードを切ればワンチャン喋るかと思ったけど……さすがに無理か」


 お前のそれは何時だって、その他がボヤけて聞こえるくらいハッキリと僕の耳に届くんだ。一歩分の距離をあけて止まった足音に振り返れば、ソウシがせっせと砂の城を作っていた。シンメトリーに連なった塔とそれらを囲む分厚い城壁、その威圧感を緩和させるみたいに点々と覗える木々に装飾みたいな沢山の窓に……ってちょお待てや今の今までそんな城ありませんでしたけど!?


「お前いったいどっから、ていうか誰の作品盗んできたんだよ!」

「失敬だな、一から十まで俺の手作りだっての」

「絶対に一瞬のクオリティじゃねーだろ職人技の域越えてるわ!」

「そりゃ(カンスト)技だからな」

「ああそうですか!」


 よくもまぁ平然と中二病じみたワードに輪をかけて中二病みたいなルビ振りやがって! それがまたムカつくくらい様になってんだよなこの男はっ……もう。ツッコむのに忙しすぎて、リインさんへの罪悪感に沈む暇もないよ。


 なんて苦笑まじりに嘆息しつつ、僕は城が崩れないようにちょっと遠回りしてソウシの隣に屈んだ。改めて見ると、いや見なくてもスゲェ出来だな。シェーレさんが見たら密かにジェラシー感じそうだとボヘ~ッと想像してると、


「うーわ、なんでよりによってブルギディア城?」


 せっかく凄いのに勿体無いよと唇を尖らせたエリムちゃんに見つかった。頭上にはデカい水玉になった[フィッシャートラップ]が浮かんでて、見覚えがあるようでない貝たちがフヨフヨと海水を漂ってる。現世の浜焼きじゃ味わい切れない新鮮さの秘密はコレかぁ。


「っていうかブルギディア城!?」


 想像で作ったにしてはやけにリアルだなと思ってたけど実在する城だったの!? しかもよりによって目下悩みの種でしかない人の実家とかさ……と仰天する僕を`ブルギディア城という名称は知ってても実物を知らなかった`と解釈したのか、エリムちゃんが「シュウ兄ちゃんってリッチなのかビンボーなのか分からない」とジト目で言う。まぁ平民が知ってるヒノデ鳥の卵を知らなくて貴族なら知ってて当然の城も見たことないとか、もはや世捨人の域だもんね。


「それから作るにしても、人目のあるとこは避けたほうがいいよ?」


 チラッと視線が飛ばされた先――小さな肩の向こうにはヒソヒソと、見るからに僕らに対してマイナスな事を呟いている漁師たちがいて、



 ぐしゃっ。



「え……」


 ろくに訝る暇もないまま、今度はソウシが真ん中の塔を指で弾いて砂の城をただの砂山に戻してしまった。当然僕は「おまっ、せっかく作ったのに!」って叫びかけたけど、あいつの金の双眸は一挙手一投足まで観察するみたいに漁師たちを見据えたままで……顔色窺いからは程遠いその圧に、声が喉で詰まってしまう。


「なんだ、壊すために作ってたのか」

「そりゃそうだよな」

「あんな媚売り王と軟体王子の城、好き好んで作るヤツなんかいないって」


 特別鈍いのか、ペラペラでも一応は`安堵`の形をした皮を被っているせいか。漁師たちは僕らの反応なんて見えてないみたいに、ただただ自分勝手な解釈を嘲笑と一緒に放置するとさっさと仕事に戻っていく。本当に、心底`人`って生き物は……と言いたいことは山程あるけど、


「媚売り王に、軟体王子?」


 それ以上に気になるワードが出てきた。「あの態度といい、えらく下に見られてんな」とソウシが砂を払いながら立ち上がれば、それも致し方ないとばかりにエリムちゃんが溜息を吐く。


――この街から出てけ失せろじゃなきゃ死ねっ


「なんで、皆そこまで……」

「`民はとりあえず生きてればいい`って戦時中から同じ考えだから」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、平和ゆえの余裕な生活を取り戻してるのは王族と貴族だけで、平民は未だに`腹を満たせる飯と雨風を凌げて眠れる家`という最低限の生活のままだからと砂を蹴りながら空を仰ぐエリムちゃん。


 また気になる単語が連なって出てきたけど、とりあえず目先の生活水準の差についてもう少し詳しく聞いてみる。と、どうも現国王はブルギディアを豊かにするよりも現状維持に力を注いでるらしく、周辺(こく)と諍いを起こさないよう過剰なまでに気を遣っているとのこと。


 どれくらい過剰かと言うと……孤児が増えすぎて経営が立ち行かなくなる一線を行き来してる施設とか、治癒魔法師が定住してなくて病に罹らないかビクビクしてる村とかに回せるお金を四海への貢ぎ物に使うほど。


 けど陸と海の不可侵条約の継続、延いては王国民の明日を守るためという名目のため横領には当てはまらない。それどころか、本当に施設の経営が崩壊して孤児が放り出されたり村人が流行病に罹った時は十分な援助をしてくれるそうだ。


「だからみんな、陰口は叩いてもクーデターとかストライキは起こさないの」

「……それで、媚売り王か」


 エルフの園みたいに異常に閉じた地域が野放しになってたのも、国の意識が海にばっか向いてたと分かれば納得がいく。ていうかこの異世界の人間の国って、ブルギディア王国だけだったんだ。


「ただ生きていく分には問題ないんだけど……あたしも偶にはママと街に出て、思いっきり買い物とかしてみたい」

「え……」

「お店は楽しいし、パパに教わった漁も好きなんだけどね」


 本当に偶にでいいのになぁと、目の前の女の子は大人よりも大人っぽく笑う。来る日も来る日も、それこそ出会った時からずっと当たり前みたいに店を手伝ってた十歳の看板娘。僕らが見てないところでは子供らしく遊んでるって無意識に思ってたけど……全然、そんなことなかったんだ。母親とショッピングなんて普通のことが真っ先に出てくるくらい、遊べてないんだ。

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