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第三話 冒険者試験[後編②]

レッツゴー終太郎!――byソウシ

「ルールを厳守したうえで合格したってのに、随分なお出迎えだな――ウル」

「え……」


 どんなモンスターだろうと僕が身構えてる隣で、ソウシが衝撃的な発言を落とす。なんでウルが……冗談だよな? 引き攣った苦笑いを浮かべて「嘘だよな?」とソウシの腕を揺さぶっても、ソウシはいつもみたいに笑い飛ばしてくれない。ただ僕に現実を受け止めろと言うように、舞い上がった土煙の向こうを凝視している。その視線を追うように恐る恐る目を向けると、


「ルール厳守っていうのは語弊があるんじゃないか?」


 薄れた土の幕を破ってウルが歩み出てきた。その顔に浮かんでいるのは、今まで目にしていた親しみ溢れる笑みとは異なる薄ら寒い余所行きの笑みで。彼の両脇を固めるように侍っている二頭の猪狼も、牙を剥いて僕らを威嚇している。どうして、と掠れた呟きが漏れた。


「どうしてって、アンタら二人が嘘を吐いたからだよ」

「ぅ、嘘なんかっ」

「[カットラビリンス]と[ディテクト・アイ]、使ってただろ」

「え、うん……」

「どこから見てた。傍に気配はなかったはずだけど」

「森の入口からだよ。視力にはちょーっと自信があってな」


 ソウシとウルが静かに睨み合う一方で、僕は必死に頭を回す。もしかして、魔法使っちゃ駄目だったのか……いやでも冒険者になるための試験でそれはないだろ。マッフルさんもそんなこと言ってなかったし、案内書にも書いてなかったし。そう僕が言い返せばウルも、魔法の使用はルール違反じゃないとすんなり認めた。じゃあ何が問題だったんだと若干強気で出れば、彼は僕らが使()()()()()()()()()()使()()()()()だと言う。


「シュウタロウもソウシも、確かレベルは90前後だったよな?」

「お、おう」

「でもおかしいんだよなぁ――さっき言った二つの魔法は、最低でもレベル170はないと使えないはずなんだよ」

「ゲッ……」

「ギク……!」


 図星全開で硬直した僕とソウシに、「あーそれと、昨晩の泥棒(ゴミ)」とウルはにこやか~に冷め切った言葉を繋げる。


「レベル350のオレが倒せなかったのに、オレの半分にも達してないアンタらが勝てるわけないだろ?」


 誠に仰るとおりで……!


「しかも体当たりなんかで♪」


 ほんっっっっっとうにどうして気づかなかったんでしょうね!? 冷や汗タラタラで「ちょっと失礼します!」と腰を直角に折ると、同じように顔を引き攣らせているソウシを巻き込んで後ろを向く。頭も尻も隠れていないどころか大バカ丸出しもいいところだが、逆に向こうも攻撃する気が失せるだろう……ていうか失せて!


「おいっ、ウルが言ってたのホントなのか!?」

「……うむ」

「じゃなんで90前後に設定したんだよ、なんか訳でもあったのか?」

「……うぅむ」

「どっちだよ!?」

「ありません完全に設定ミスりました」

「馬鹿ソウシっ」


 ステータスの能力値んなかに`知力`も入ってたよな!? どこいったんだよ99999! いや言われるまで微塵も疑わなかった僕も人のこと言えないけどさ!


「お二人さ~ん、その辺りの事情っていうのは説明してもらえんのかなー?」

「あっ、いやえっとそれは……」

「二人は姐さんの恩人だし、オレも手荒なマネはしたくないんだけどなー」

「だったら目ぇ瞑れよ!」

「だって得体の知れない存在を姐さんの街にはおけないもん!」

「`もん`言うなさっきまでの意味深キャラどこいった!」


 おぉ、ソウシのツッコミとは珍しいものを見た……なんて言ってる場合じゃないよな。でも良かった、ウルが漫画とかで見る裏切りキャラ的な感じじゃなくて。事情を説明、できるかは分からないけど、とにかく話をすれば最悪の決裂は避けられそうだ。あぁホッとしたら何だか視界がボヤけて……ボヤけて?


「終太郎っ」

「え、ちょ……!」


 霧でも出てきたのだろうかとモヤモヤした空気を手で払っていると、唐突にソウシに担ぎ上げられた。そのまま跳躍して霧が薄いところまで大きく後退すると、「[バリアモンド]を使え早く!」と急かしてくる。


 その剣幕に負けて反射的に「バリアモンドっ」と唱えると、シルバーの光がピキパキと音を立てて僕とソウシを包み込んだ。同時に視界もクリアになり……初めて周囲の様子がおかしいことに気づく。ただの霧にしては濃淡が極端すぎるというか、なんか点滅してるように見えるというか……生きてる?


「さっきの一撃か。ったく余計なもん起こしやがって」

「えっ、やっぱマズいのかこれ!?」


 そういえばウルたちは、と辺りを見回して、蠢く霧のなかに無防備に取り残されてる一人と二頭を見つけた。イノとシシは煩わしそうにふるりと首を振り、ウルも鼻と口と手で覆いながら何かを探すように視線を巡らせている。もしかして僕ら? 向こうからは見えないのか。でも視力いいって言ってなかったっけ!?


「ウルこっち! 早くこっち来いって!」

「おい結界魔法っ、結界張れって!」


 距離は言うほど離れてないのに、僕とソウシが叫んでもウルは全然気づいてくれない。音っていうか空気の流れまで遮断する霧ってホントなに!? もうこうなったら直接腕を引っ張って救出を……!


「うっ、ぐあぁあ……!」

「ウルっ」


 ぐわっと目を見開いたかと思いきや、ウルが頭を抱えて苦しみ出した。ハッと主を見上げたイノとシシも次の瞬間には同じように唸り出して、どう見ても尋常じゃない。まさか毒か!?


「ソウシ解毒魔法は!? あ、ケアリーでいけるか!」

「無理だ。アレは毒魔法じゃない」

「え……」


 毒じゃないって、あんなに苦しそうなのに……ん? んんん!? なんかウルさん身体が大きくっ、ていうかゴツくなってませんか!? 毛もモシャモシャになって八重歯も爪も伸びて、顔もなんか獣っぽくなってるけど!


「ぐっ、がァ、グガァアアァアァァァアァアアアアァ!」


「ウ、ル?」


 獣っぽいとかそんなレベルじゃない――本物の、獣だ。耳を劈くような咆哮が轟くと同時に霧が消し飛び、双眸を真っ赤にギラつかせた敵意を剥き出しの三頭の猪狼だけが残った。ペタンと、その場に座り込む。


「うそ、だよな? ウルが、モ、モンスターに……」

「いや、肉体が強制改造された痕跡はない」

「は……?」


 冷静な声につられて顔を上げてみれば、ソウシの片手から扇状に伸びた光がウルをスキャンしている。またあの、アジュなんとかスキルってやつだろうか。それにしても肉体改造されてないって、現にウルの身体はモンスター化してるじゃないか。


「いや、多分あれがヤツの本来の戦闘スタイルだ」

「えぇなんっ、あ、猪狼に育てられたからか!」


 乳を飲ませてもらったって言ってたし、それならそこそこぶっ飛んだレベルにも納得が……いくけど言ってる場合じゃない!


「ガァアアアァアァァァアアァァア!」

「うぎゃああぁあぁあっ」


 本来の姿ならなんでそんな僕らに敵意剥き出しなの! なんで歪曲した牙を剥いて僕らを、ていうか僕を喰おうと襲いかかってくんの!? なんかもう目を閉じるのも怖い! ヤバいこれマジで喰われる……!


 ガキンッ!


「ギャガッ」

「あ、れ?」


 唐突に薄暗くなった視界にどことなく籠った空気、そしてニュルリと蠢く平べったい何か……嗚呼最後のはたぶん舌だな。僕の上半身は今、確かに猪狼と化したウルの口の中にある。だというのにこれっぽっちも痛みを感じない。それどころかゴッツい歯が僕の身体に当たるたびに、ウルのほうが苦悶の声を漏らしている。


(なんで……あ、そっかさっきの結界魔法(?)か!)

「調子にのるなよ」

「え……」


 静かながら苛立った声。ビクッと肩が震えた刹那、鈍い音が響いて僕の視界が一気に明るくなった。え、今の声ってソウシだよな……コイツこんな声も出せんの? 風呂で怒られた時より断然、というか比べるのも烏滸がましいくらいに怖い……。


「ガウァッ」

「グァブ……!」

「お前らもだ。誰に歯向かってるか思い知れ」


 へたり込んだままの僕を狙って突進してきたイノとシシを、ソウシの華麗な回し蹴りが迎え撃つ。叩きつけられるように地面を滑っていった二頭どちらのものかは分からないが、その足元には折れた牙が転がっていた。喰われそうになった僕が言うのもアレだけど、痛そうだな。


「ぁ、ありがとうソウシ……」

「うん、ちょうどいいな」

「いや何が?」

「サンドバッグ」

「おい!」

「という名の演習相手。いくら上級魔法が使い放題だからって、それ頼りじゃ格好つかないからな」

「は、い?」


 理解が追いつかない僕をさらに置き去りにすると、ソウシは「はい立って」と僕を引っ張り起こして、


「レッツゴー終太郎!」


 ポンと、体勢を整えつつある三頭の前に僕を突き出した……いや待て。待て待て待て待て待て待てホント待てって!

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