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第八話 プリズンアート[後編⑥]

……足りなかったんです、声が――by???

(ワレの作品を、分解した?)


 夢玉間を欲で突破したのではなく、分解して道を繋げた? しかもアーディルの所にピンポイントで?


「っ……!」


 危険だ天敵だと、回路が火花を散らす。無我夢中で床から空間を捻り上げて纏めて視界から消去するも、



 ガシャッ、ガガガガガガ……サラッ…。



 内部で何かの装置が起動・高速作動した次の瞬間には、崩れ落ちた砂山から何事もなかったかのような顔で復元した。頭上に広げられた十字の工具袋、マジックエージェングか……いや違う。甲殻類の脚の如く覗くどれもが見たことのない形状をしていることから、翁専用ではあるだろうが工具は工具。特別に魔力が込められているわけではない。


「ふぅ、手首が攣りそうじゃ」

「……は?」


 数秒前は安らかに気を失ったままのアーディルを抱えていたはずの手が、今はフォークとナイフを模したような道具を握っている――たったその二つで、ワレがぶつけた欲を無害に分解・再構築しただと!? ならばっ……右の剣にターコイズグリーンの風を、左足に稲光を纏わせる。


「ブレイトルネード! ディサンダーチャージ!」


 道具では防げない、思いつく限りの攻撃魔法を浴びせ続けるのみ! ビリビリと空を伝う斬撃風に確かな手応えを覚えながら左右の床を絶壁に見立てて押し上げ、左手に赤い上級火炎魔法陣を宿して駄目押し。たとえ退路を築けても魔法は避け切れないでしょう!?


「【斬・弓張(ゆみはり)の一文字】」


 首が斬れた、ような気がした。項から喉仏にかけてヒュッと過ぎった冷たい衝撃。反射的に呼吸を止めてバッと手をあてがったが、真っ直ぐずり落ちることもなければそもそも切れ目すら入っていない。けど確かに今、何かが後ろから前へ……え?


「ほほぉ、これは魂消たわい」


 翁の呑気な声音が遠い、というより霞められたと表現したほうがいいですね。視界いっぱいに撒き散らされた閃光――()()()()()()()()()()()の目を焼くような眩さに。見た瞬間は動作と速度が反比例する時間魔法をかけられたと思いましたが、翁が「[インヴァード・プローション]以外でこんな芸当ができるとはのぉ」と遠回しに否定してくれました。ハ、ハハハ……もうこのレベルになると本当に意味が分からなくて笑えてきますね。


「なんだ、降参の笑みか?」

「……えぇそんなワケがないでしょう!?」


 本気で自棄糞になって初めて、内心で紡ぐ`自棄糞という単語`の軽さを思い知る。黒く塗り潰された紛い物の中剣にヒヤシンスのかまいたち、対象を細切れに刻み尽くす風魔法[ブレイシュレッド]を宿して振り返り際に放とうとしたが――彼はすでに、振り向き切れない距離まで迫っていた。ザッと突き出された中剣を仰け反って躱し、円形に吸い込まれるようにして収束する上級魔法三つ巴の幕を尻目に、めげずに風魔法での反撃を試みたワレでしたが、


「【斬・袈裟の寝待月(ねまちづき)】」


 一拍の無音を挟んだ刹那。音よりも光よりも速く、ワレの全身がズタズタに斬り刻まれた。


(……いや…)


 斬られてない。手足はおろか爪も、毛先すらも。ペタンと座り込んだまま、ブレが止まらない視界に映り込んだ両の手を恐る恐る握り、また開く。問題なく動くし、多少の鈍さはあるものの感覚だってあるというのに……ワレを構築する全てが絶叫しているのだ。肉片の一つすら残さず斬り潰されたと。


「二、四、六……うし。さっきの()()()()()()()()()()()()したし、いよいよ奥義の出番だな」

「……はぁ?」


 吸収に、補給……ちょっと待てふざけないでくださいまだ一つとしてまともに技の分析できてないこのタイミングで奥義?


「……`何もない`」

「……?」

「`何も、お前たちは存在してすら`……!」


 こうなればもうこの夢玉ごと無に帰してやると、ショート覚悟で回線をフル稼働させる。悲劇の被害者を具現化したような工房の成れの果ても、中途半端に乾いて崩れ落ちた粘土細工のような化物の成り損ないも瞬時に闇に呑まれた……呑まれたと、いうのに…。


「デビュー回だし、最後はカッコ良く締めるぞ」

「お前デビューって……ますますアイドルユニットっぽくなっちゃったな」


 どうして貴方はっ、()()()()は何も変わらないままなんですか……!?


「好きに動け。合わせる」

「……ありがと」


 研ぎ澄まされた声に呼応するように長短の対となる剣が、その刃とシースがグリップと同じ色に染まっていく。瓜二つでありながら、無をイメージしたワレの闇を圧倒的に弾く澄んだ闇。確か底冷えするような日の夜空が、こんな色でしたっけ……嗚呼。


 ワレのイメージが反映されたのかそういう仕組みだったのか、刃とシースにポツポツと星光が灯ってきましたよ。片手から両手に握り直して身体の正面に構えるとその瞬きも薄れ、残った輝きはアンバランスなガードのそれ一点になりましたけど。



「【斬】」



 あ、そういうことですか……あのガードは色の付き具合がチグハグなんじゃなくて、



「【唐竹(からたけ)の満月】」



 星夜に浮き上がる`月`、あの仄かな灯火そのものを表してたんですね――空を縦断し迫る二筋の月光を前に、そんな遅すぎ且つ役に立たない評価がワレの回路を過ぎった。


    ◇◇◇◇


「始まりは、もう少しだけ楽にしてあげたいという欲でした」


 アウトローな見た目に反して頑張り屋な弟は、舞い込む依頼すべてを完璧に熟そうとするから――二十四時間という時間に加えて、住居に滲む私生活の温もりまでもが仕事の殺伐さで上塗りされた、洞窟工房。埃の如く隅っこに忘れられた温もりの名残りを掻き抱くように眠るアディさんを屈んで見つめながら、レイさんが言う。


 子守唄を紡ぐような優しい声だった。独り言なのか、それとも後ろに僕がいるって分かってて語りかけてるのか……まぁ僕も独り言のつもりで応えればいいか。「ほんと、酷い隈だ」と一歩隣に並べば、一瞥の代わりに苦笑が向けられた。


「瞼ピクピクしてるし、そもそも寝れてないんじゃ……」

「瞼の痙攣は眠りが浅い証拠ですからね」

「ここまで無理しなくても、少しセーブしたって大丈夫だったと思うけど……」


 ミリタリー・ディスターブのトラウマが、依頼拒否=客激減っていう思考に結びついちゃったのかなと呟く僕に、レイさんは「アディ一人だったら、きっともっと上手くやってたよ」と膝を抱える腕に力を込める。平等な支え合いという言葉を綺麗なまま当てはめるには、日常という器はあまりに心許なかったって……確かに、良くも悪くも移り変わってこその日々だもんな。


「吾の性格はご存知ですよね?」

「ぁ、まぁ……」

「そんなんですから、客の対応はアディに任せ切りで……その部分こそが優先すべき改善点だったと、今なら分かるんですけどね」


 かといってアマクと、単独魔法使用を可能にした項の機器――イテアを生み出したことを心底悔いているかと聞かれても頷けない、とレイさんは独り言ちる。場面はアディさんの工房スペースから、レイさんの作業部屋と思しき一角に変わっていた。山積みにされて雪崩た紙束に何が書かれてるのかは分からないけど、所々に滲む赤い点が……傍らに転がった羽ペンにこびり付く赤黒い跡が、レイさんの隠れた一面を代弁しているようだった。


「無限大といわれる人の想像力も、切迫した環境においては別です。他人が関係してるとなれば尚更、どうしたって限界はきます……もちろん吾も」


 問題は客の量ではなく頭脳にかかる負担。それを根本的に肩代わりしなければ、依頼をセーブしたところで一時凌ぎにしかならないと考えていた当時のレイさんがまず目をつけたのは、依頼してきた客の頭脳だった。


 `何でもいい`と言う人ほど、脳内に漠然としつつも揺るぎないイメージを秘めている。でもそれを上手く言葉にできない素人感や、その道の職人を前にしているという緊張感から当たり障りのない`何でもいい`に行き着く……じゃあその`何でもいい`の皮をかぶったイメージを引っ張り出せたら?


「……効率、良くなりますね」

「格段に、ですよ」


 最低限の手直しで最大限に依頼人が満足する武器、レイさん自身どこか夢物語に感じていた。ゆえに完成・成功した時の痛みにも似た激情は、ペンの握り過ぎで磨り減った指の腹の痺れや寝不足で鳴り止まない脳みその悲鳴をも容易く凌駕したらしい。コレがあればアディさんも安心して日常に目を向けられるようになる、そう信じたレイさんを待っていたのは――アディさんの怒りと失望だった。


「ズルだ職人の恥だと、癇癪を通り越してまるで発作だったよ……あの子の負担を減らすことが目的だったのに、輪をかけてこれまで以上に無理をするようになってしまってね」

「…………」


 それ程までにあからさまな拒絶反応を見せられていたのに、どうしてアマクを手放さなかったのか――レイさんもまた、一人の武器職人だったからだ。アディさんが背中で示した絶壁は、レイさんの中に密かに降り積もっていた鬱憤に火をつけたんだ。


 アディさんの負担軽減から彼への承認欲求へシフトチェンジしてることにも気づかないまま、レイさんはアマクに固執し続けた。会話が減っても目が合わなくなっても、帰る家という空気が無くなっても……。


「あの項の彼、イテアって名前なんですね」

「彼、ですか」


 また妙な代名詞を使いますねと柔らかく笑ったレイさんは、ポキッと膝を鳴らして立ち上がると、背を向けて歩き出した。同じ音を立てて腰を上げた僕も、並んで続く。


「魔力さえあれば魔法を使えるアディと、魔力があっても魔法が使えない吾……この時点でもう平等には聞こえないでしょう?」

「……自己防衛装置、ってことですか?」


 ラバドラ用のドラゴンがいるスクリーム・マウンテンも、信頼関係があるドートがいるクリスタル・バレーも、エルフの園も安全とは言い切れない。っていうか最後の園に限っては絶対に安全じゃない主に精神面で。


 リインさんはエルフ達のレベルはカスだって言ってたけど、魔法が使えることに変わりはないわけで……アディさんが傍にいないレイさんには自分で自分を守れる力が、一人でも魔法を使える術が必要だったんだ。


――良かったじゃねぇか、これでもう俺等っつう媒体無しで魔力を使えるもんな!?


 アディさんを切り捨てたわけじゃ、なかったのに。どうしてすぐに気づけなかったんだろうと拳を固くしていると、コッと何かに躓いて顔面からすっ転んだ。ジーンと鈍い感覚が広がる鼻を押さえながら起き上がれば、視界いっぱいに広がる緑の地平線。


 躓いたのは縦に連なったU字型の金属の輪に足が引っかかったからで、他にも半円状に盛り上がった鋼の玉とか色とりどりの線が張り巡らされたデカい乾電池とか、見覚えしかない部品が見覚えのないサイズで鎮座している。


「爺様のデザインを参考にするつもりは微塵もなかったんですが」

「前も思ったけど爺様って……」

「なかったんですが、指先は無駄に正直でね」


 改良を重ねれば重ねるほどイテアのデザインはマッフルさんのそれに近づいていったと、レイさんは肩を竦めて四角い部品に腰掛けた。大雑把にいえばイテアはアマクの進化バージョンだけど、正確には魔力変換装置にアマクを搭載したのがイテアということらしい。


「会場で言ってた、タイムロスを無くすためですか?」

「いえ、それは項を通して神経と直結させたことで理想点に到達したので」

「じゃあどうして?」

「……足りなかったんです、声が」


 一際沈んだ呟きが落とされた瞬間、足裏の緑がドクンッと脈打った。他の部品たちも伸縮したりボイラー室みたいな唸り音を響かせたりと息づき、自分の存在を主張してくる……この感じは怒り寄りの興奮かな。


「最初は声、次は吾の言動への反応と……慣れたら外すつもりで付けた装飾感覚でした」


 今までアディさんと一緒にしか魔法使ったことなかったゆえの、物足りなさ。そう信じて疑わなかったレイさんは、パターン別に組み込んだ音声の他にも魔法発動時の彼の癖とか、とにかく思いつくままにアディさんに近づけていったみたいだけど……イテアって、どこからどう見てもレイさんだったよね? 夢玉の中で見た姿だけど、途中からは取り繕える余裕とかなさそうだったし。


「`ズル`」

「っ!」

「宿屋の営みに慣れても、園の腐った体制に見て見ぬ振りができるようになっても、アマクがどれだけ絶賛されても……むしろ認められていくほど、あの言葉の存在感が増していきました」


 じゃあ真逆の言葉が聞ければいいのではと試しに組み込んでみたレイさんは、気づけばその搭載用アマクを粉砕していたらしい。グランドコンダと背中が擦れた時の比にならないくらい鳥肌全開だったって両腕を摩る姿から、本気でビビッてることは分かるけど……あのデカミミズに背中擦られるってそもそもどういう状況!? そっちが気になって「ぁ、うん」ってなんか適当な返事になっちゃった、案の定「軽く見てますね?」ってジト目で睨まれた。まぁいい、ってすぐに話を戻してくれたけど。


「記憶から薄れもしなければ耳に優しい言葉で上書きもできないまま、どうにも集中力に欠ける日々を送っていた時……アマクから声が聞こえたんです」

「ぇ、ぶっ壊したのに?」

「そっちとは別――吾が()()()()()()()()()のほうです」

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