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第六話 異世界探偵、再び!?[前編]

ご注文、何にする?――byエリム

「へぇ? じゃあ精霊さんの失くし物も見つかって、お風呂の人魚さんとも仲直りできたんだ?」

「ぶふっ」

「おいソウシ!」


 エリムちゃんのシェーレさんに対する呼び名がツボったらしく、ソウシは「今度その人魚さん紹介すっから、そう呼んでやってくんね?」と腹を抱えて肩を震わせている。察しのいいエリムちゃんはすぐさまムッと頬を膨らませ、結局僕が「ぁ、えと、なんかゴメン……」と代わりに謝ることに――それは陸へ戻ってきて三回陽が沈み、そして四回昇った昼日中のこと。


 僕らは南の海辺のウミノ(⤴)イエを訪れ、この騒動の解決のために協力してくれたエリムちゃんに事の顛末を報告していた。といっても二ヵ(こく)の問題も絡んでるからオープンな部分だけだけど、エリムちゃんはそこもちゃんと考慮してくれて、あれこれ興味本位で深追いしてくることはなかった。義理を通したつもりが……なんだか逆にこの子に甘えてしまったみたいだ。


「ペオールド焼きそば二人前、どーぞー?」

「おー、いただきま……んぶっ! 辛っ、お前コレ辛々だろ!」


 俺が頼んだのソースなんだけど、とソウシは舌をヒーヒー言わせながら文句を垂れる。慌ててお冷を飲んで辛味を逃がそうとしてるけど、確か辛いの食べてすぐ水飲んでも、辛味が増すだけじゃなかったっけ? あ、やっぱりそうだ……めっちゃ悶絶してるよ。


「そんなに辛いのか?」


 ちなみに僕のほうには、ちゃんとソース味の焼きそばが運ばれてきていた。エリムちゃんもカワイイ悪戯するなぁ……一口ソース味を食べてから、興味本位でソウシの辛々焼きそばもつまみ食いしてみる。念のためにお冷を傍に寄せておいたけど、


「ん、結構ピリッとくるけど辛々も美味しい!」


 僕は普通に食べられた。すかさずソウシが「ひゃあ!?」と真っ赤にピリついた舌を出して振り返ってくる。うわ、涙まで出てるし! んな大袈裟な……あーでも辛いって分かってて食べた僕と違って、ソウシはソースだと思い込んでガッツリ頬張ったもんな。


「どーひゅう舌しへんはお!?」

「どういう舌って言われても……」

「辛いのが大丈夫なのって生まれつきか、あとは慣れだよなー」

「ですよねー……へ?」

「んべ?」


 なんか今、エリムちゃんの声とも僕らの声とも違う青年の声が聞こえたような……と後ろの席を振り返ってみると、


「オーシャンモーニング、お二人さん!」

《ご歓談中失礼》


 ついこの間知り合ったばかりのマーメイドプリンスが、我が物顔でピースサインを送っていた。テーブルの下から鰭と水入り樽が覗いているところを見るにレルク王子は人魚の姿のままのようだけど、カルタ王子は二本足で座っている。


 あ、だからミニ黒板で挨拶してきたのか。この二人がいるならシェリーさんとシェーレさんも一緒かと思ったけど、キョロキョロ辺りを見回す前に「ボクらだけだよ」とレルク王子が教えてくれる。


「で? なんだってプリンス様たちがわざわざお出ましに?」


 くるっと身体を反転させるなり、そうホイホイ陸に上がれるほど暇じゃないだろとテーブルを背もたれに足を組むソウシ。ダブルプリンスに負けないどころか、軽く上回るくらいの堂々っぷりだけど、コイツさっきまで辛い焼きそば食べて涙目になってたんだよなー……。


「いやなーに、ちょっと噂を確かめてみたくなってな」

「噂?」

「ミカンの皮の片付けから金魚の糞の後始末まで難事件承ります、って名探偵の噂をだよ」


 ブフーーーッと、思わず僕は焼きそばの口直しに飲んだお冷を噴き出してしまった。幸い飛沫は誰にも掛からなかったけど、そのぶん気管に絡まって咳き込みが止まらない。ぁ、涙も出てきた……なんかデジャヴ。


「ってそうじゃない!」

「聞き捨てならないな」


 お、珍しくソウシと意見が一致……、


「ゴミの片付けは難事件の五倍の額で承るって修正しとけ」


 するわけなよねうん分かってたよ!


「てか、なんで五倍?」

「タダで犯人探し(ゴミ掃除)する便利屋って思われたくないから」

「お前はまた凄いルビ振ってきたな……」


 まぁ全くの的外れってわけじゃないけどさと溜息を吐くと、僕は改めてダブルプリンスを見やった……うん。なんかこう、特にレルク王子の周りにワクワクニコニコって擬音語がエフェクトみたいに漂ってるのが見える気がする。このあとの展開はだいたい予想がつくけど、その前に一応確認しておこうと口を開く。


「あの、レルク王子」

「ん?」

「その、名探偵の噂っていうのは……」

「どんなのかって?」


 んーそうだなーと余裕ぶっこきながらも、グレイの視線は縋るようにカルタ王子に向いている。足が生えたことで無口に拍車が掛かった王子はコクッと頷くと、カカカッと凄い速さで黒板に書き込んでいった……コンビって皆こうなのかな?


 片方がバーッンて表に出て、もう片方が裏でサポートして、でも後者の方がなんかカッコ良くて……僕はつい、チラッとソウシのほうを見てしまう。と、レルク王子が「えーなになに?」とカルタ王子のカンペを音読し始めた。いやもう隠す気なしかい。


「`姫の宝を盗んだ盗人を成敗、森を汚してたミストワームを撃破`」


 ……ん?


「`果物を使った悪質なイタズラを看破、そしてつい最近は南海の失踪事件を見事解決`」


 んん!? あー、まぁ後半だけ強調すれば名探偵って呼べなくはないか。前半は推理っていうより攻略だし、ナージュさんのブローチに関してはホント偶然だったし。ソウシは大変ご満悦みたいで、得意げに組んだ足をテーブル代わりにして焼きそばを頬張っている。そりゃ今列挙された事件(冒険)解決に一番貢献してるしな……だからって僕のソース焼きそばを勝手に食べるのは頂けないけどな!?


「そういえばさ、陸じゃ失踪事件ってどうカタがついたことになってんの?」

「ぇ、と……表向きは新種のスライムによる騒動ってことになっています」


 隠蔽工作ってやつですねとそれっぽい言葉を持ち出すと、レルク王子は俄然興味が湧いたみたいでグッと身を乗り出してくる。とりあえずそんな本格的じゃないと前置きしてから、僕は簡単に話していった。


 南海からフーリガンズに戻ってすぐ、マリッちさんにだけは一から十まで全部話したこと。「人騒がせなオージ様」とその声は表向き呆れだけを含んでいたけど――キャラメルの瞳は、次この街を騒がせたら王女だろうが王子だろうが容赦しないと獣の爪のように尖っていたこと。


 失踪者を脱水症状にした新種スライムは僕とソウシが討伐したことになってるけど、発見の証である肉片を持ち帰らなかったため存在認定はされず、報酬は失踪事件を終息させた分だけを受け取ったこと。肉片を捏造して金をぶん取ろうとしたソウシと、嘘は嫌だし捏造がバレたらどうするんだと反対した僕との間でちょっとだけ揉めたこと……って最後のはいらなかったか。


「……そっか」


 いいシェリフだなと呟くレルク王子の口元には、一転して大人びた苦い微笑が浮かんでいた。やっぱり幼馴染だからかな……子供みたいにはしゃいだかと思いきやスッと大人びた一面を覗かせるところ、シェリーさんにそっくりだ。


「`オレ様もそう思う`……ってなんだこれ?」

「っ!」


 いつの間にかボヤけていた視線をハッと戻すと、レルク王子の疑問符を受けながらカルタ王子が黒板の文字を消している。一瞬目が合ったけど、海でそうだったみたいにまたすぐ逸らされてしまった。嫌われて、はないよな……?


「で、噂は確かめられたのか?」


 カツンッと、空になった器に箸を置きながらソウシがやや強めの口調で言う。と、なんだか急に呼吸がしやすくなった気がした。一見なにも変わらない普通の空気だと思ってたそれが、如何に甘ったるく重々しく喉にへばりついていたか……換気っていうのかな。ここは壁が吹き抜けで傍には海だってあるのに、おかしな話だけど。


「いいや、もうひと押し欲しいかな?」


 レルク王子も、多分そうだ。


「ちょーっとストップ」


 さてと王子がテーブルの上で手を組んだところで、互いの顔を隠すようにトスッとメニュー表が置かれる。王子と揃って見上げた先では、エリムちゃんがニコッと商人の笑みを浮かべていた。タダで長時間居座れるほど、この店は安くないぞと。


「ご注文、何にする?」


 ダブルプリンスだけでなく、焼きそばを注文してた僕らにも「食べ盛りなお兄さんたちなら、新作のミルクアイスくらいペロリでしょ?」と勧めてくる、幼くも逞しい商売魂。「将来安泰だなこの店」と若干頬を引き攣らせて笑うソウシに、僕もコクコクと頷かざるを得なかった。

ぜんぜん探偵してない、探偵ですm(__)m

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