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第五話 海の花嫁[中編①]

お前=俺のステータス、なんだろ?――by終太郎

 青い空、白い雲! 太陽を照り返す砂浜と、それらを海色に染めるビッグウェーブ。キャッキャウフフと響く桃色の声。うん、これぞまさしく南の海!


「……いやちょっと待てって」

「んー?」

「なっっっんでこんな賑わってんの!? マリッちさん注意のチラシ配ってたよね!?」


 翌日の昼過ぎ、僕とソウシは問題となっている南の海辺へやって来た。立て続けに事件が起きたビーチだし、すっからかんだろうなと思ってきてみれば真逆も真逆! 普通にめっちゃ人いる! しかもカップルばっか!


「見慣れない顔ぶればっかだし、たぶん他の街から来てんだろ」

「じゃあ、他の街じゃ注意喚起出てないのか……」

「出てても来る奴は来るって、()()()()()()()()()に釣られてな」

「ジンクスもう一つあんの? どんなの?」

「`失踪後も相手を想い続けて寄り添えば、来世でも結ばれる`」

「なんかお(まじな)いの域に達してない!?」

「呪いっちゃ呪いだな。事件後のカップルが、どれもラブラブにラブをかけた感じらしくてさ」


 当人たちよりもその過程を見てた周りが勝手に広げてるんだろ、と言ってソウシは砂浜に続く階段を下りると、肩越しに小銭入れを投げてきた。キャッチした僕に「そこの`ウミノ(⤴)イエ`で塩焼きそば買ってきてー」と左のほうを指差し、自分は反対のほうへ歩いていく。たぶん場所取りだろうな。


(にしても、てっきり女装させられると思ったのに)


 ウミノ(⤴)イエの列に並びながら、ふと今日の自分の格好を見返す。少し燻った色合いのシャツにベストとズボン、ハンチング帽。一般人のなかでも中の中あたりを意識した、目立たない男の服装だ。僕よりもダークなイメージが強いけどソウシも似たような服装で、間違っても女の子には見えない。


(女装を回避できたのはいいとして……これでどうやって`嫉妬の精霊`を誘き出すんだ?)


 作戦会議だーとか張り切ってたわりに、昨日ソウシは部屋に戻るなりコテンと寝てしまった。酔ってる感じはしなかったけど、ていうかステータスって酔うのか? とにかく今朝出発前に決めたことは、【僕らでカップルを装うこと】と【今回は嫉妬の精霊の正体を暴くだけで無理な戦闘はしない】ことの二点だけ。作戦と呼ぶにはフワフワとし過ぎてる。


「へい、次のお客さんどーぞ」

「ぁ、えっと焼きそばを二……つ!?」


 ニコッと出迎えてくれた中年男性の店員さんの頭上、店の軒下に掲げられたメニュー表を見た僕は思わず固まってしまった。


・かき氷(イチゴ小豆)

・ペオールド焼きそば(ソース・塩・辛々)←オススメ定番☆

・フランクフルト(ノーマル・ケチャップ)

・浜焼き(ホタタ・サザンエ)


 なーんか見覚えのあるメニューがぞろぞろとあるんですけど!? ペオールドってまんまじゃん! そして同じ焼きそばでも何故カップ焼きそば!?


「お客さーん?」

「……ハッ、すいません! えっと、ペオールドのソースと塩一つずつお願いします」

「へいよ! じゃあ合わせて800エルドね」


 会計を済ませてから、他のお客さんの邪魔にならないように横にずれる。少し待っていると奥から中年女性の店員さんがやって来て、四角いフタ付き器と箸をそれぞれ二つずつ「お待ちどうさま!」と手渡してくれた。


「お湯は入れてありますので、三分たったらこの角のフタを開けて、そこの桶にお湯を流してください」


 それが終わったらこちらを入れて混ぜるようにと、ソースと塩の粉が盛られた小皿を二枚、加えて砂時計をフタの上においてくれる店員さん。僕はちゃんと砂が落ちきるまで待ってから桶に湯を捨て、その場でソースと塩の粉をそれぞれの器に入れて混ぜた。そして小皿だけ重ねて店員さんに返すと、足早に店を離れる……あービックリした。なんで最初にソウシが`ウミノ(⤴)イエ`って言った時に`海の家`って変換できなかったんだろ、アクセントが違ったから?


「ほい、焼きそばお待たせー」

「サンキュー。で、ウミノ(⤴)イエはどうだった?」

「そりゃもう目が点になりましたとも」


 やっぱこいつ、わざとアクセント変えてたのか。この悪戯(ドッキリ)好きめと嘆息すると、お待ちかねの塩焼きそばを渡してやった。ソウシが確保してくれたのは波際から結構離れたところの木陰で、自然に横倒しになった木の上に揃って腰掛ける。


 カップルたちもパラソルを持ち寄ってたり、魔法で頭上にいい感じの雲を作って影を落としていたり、はたまた何かキラキラしたシールドで肌を守っていたりと、各々日焼け対策をしている。やっぱこの世界でも日焼けは肌の大敵なんだな。


「いただきまーす」

「いたまーっす」


 パンッと揃って手を合わせ、湯気の立ちのぼる焼きそばを啜った。あ、普通に美味い。いやお店繁盛してたし疑ってたわけじゃないけど、やっぱここ異世界だし、現世の味には敵わないだろうなってどこかで思ってた節があったから……なんていうか、ホッとした。もう一口、さっきよりも多い量をズズズッと啜る。口いっぱいに広がる濃厚な味に頬っぺたが落っこちそうだ。


「シンプル飯もいいけど、やっぱこういうジャンクフードも食いたくなるよな」

「っ、うん」


 ソースが付いてたみたいで、横から伸びてきた指先に口元をぐいっと拭われた。いきなりでビックリしたけど、僕らは今カップルって体で囮捜査しているわけで……これくらいはまぁアレですよね。


「にしても、よくこの異世界でカップ焼きそば作れたな。作り方知ってたのか?」

「いや全く」

「全く!?」

「俺はただカップ焼きそばが食いたかっただけ。ここまで再現できたのはあの夫婦の才能だよ」


 まだステータスになる前のレベルアップ中、無性にカップ焼きそばが食べたくなった時のことだと言って、ソウシは塩焼きそばを啜る。食べたいと思っても製麺の魔法なんてないし、自分で手作りするなんてもってのほか。そんな中、海辺の店でメニューについて悩んでいる若夫婦を見かけて閃いたらしい。


 さり気なくコムギからメンという食べ物が作れると耳打ちして、ついでに現世における海の家の定番メニューも幾つか教えて、今のウミノ(⤴)イエが出来たとか……いや普通に凄いな。赤飯や水洗トイレの知識を広めた時と同様、怪しまれないように遠い遠い東の国からの旅人を装ったと得意げに言ってるけど……たぶん怪しまれてるぞ?


「しかも器から箸まで使い回し可能なエコ仕様、自然に優しい俺エラい!」

「あぁそういえば! これもお前が教えたの?」

「いや?」

「なのにドヤ顔かよ!」

「ペオールドって命名はした」

「命名ってただ現世のパクっただけだろ!?」

「実はHEY.F.O.と迷ってた」

「味ぜんぜん違うのに!?」

「ソースの一口ちょうだい♪」

「スルーかよどうぞ! ついでに塩も味見させてくれ!」


 ……なんて呑気に駄弁っていた僕らは、自分たちを中心に着々とドーナツ化現象が起きていたことに気づかなかった。ハッとしたのは、二人とも食べ終えて空になった器を重ねて立ち上がった時。こっちをガン見してたらしいカップル勢―主に彼女さんたち―とバチッと目が合って、ついで気まずげに逸らされて、


「やっぱ僕らがカップルとか無理あるって!」


 現実を知った。なんかもう恥ずかしいっ、イケるだろうと思ってた自分が! ごちそうさまをして器と箸を店に返しに行って戻ると、「やっぱマリッちさんに協力してもらおうよ!」とソウシの肩を揺する。すかさず`自分が女装するとは言わないんだ?`って目で見られた。


「自分が女装するとは言わないんだ?」


 ついでに言われた。するか! もしやコイツ狙ってたのか!? ブスッと頬を膨らませる僕を、ソウシは「まーまー座れって」と悪びれることなく手招く。そして座り直した僕に、もう一度周りをよく見てみろと言った。いやよく見ろって言われても……、


「ちょ、目が合った目が合った!」

「なにあのイケイケカップル超好み! てか彼氏の人イケメン過ぎ!」


 ……ん? んん?


「相手の子も弟タイプで可愛い!」

「いつまでも見てたいけど、尊すぎて目が焼けそう~❤」


 なんかハートが、彼女勢の目からハートが飛んでません!? しかも僕のほうは`可愛い`とか言われてるし……そりゃソウシに比べたら男っぽくないでしょうけども。


「チッ、なんだあの二人組」

「人の女に色目使いやがってよ」


 そして彼氏勢からの怨念ビームがヤバい。ピンクとダークの念がスクランブルして僕らの周囲だけ空気がカオス化してる。そりゃドーナツにもなるでしょうよ。


「な、ちゃんとカップルに見られてるだろ?」

「……見られてたな」


 なんか男として色々と間違ってる気がするけど、バッチオーケーだとドヤってるソウシを見てると、少なくとも今はコレで正解なんだろうなって思えてくる。クスクスと笑う僕をどう思ったのか分からないけど、「じゃ、仕上げといくか」と立ち上がったソウシは満足げだった。


「もしかして泳ぐのか?」

「いや、水中は向こうさんのテリトリーだからな」


 念のためにその手前の波際でひと暴れしようと言う彼を、僕は少し疑問に思った。ソウシなら相手のテリトリーだろうと、どうとでもなりそうなのに……。


「もしかしてお前カナヅ――」

「なわけないだろ99999だぞ」


 カンストステータス舐めんなと、ニッコリ笑顔で凄んでくるソウシ。はいスイマセンでした調子に乗りました……ブプッ。でもゴメンやっぱ想像すると笑えてくるわ、泳げないソウシ(笑)。


「で、ひと暴れって何するんだ?」


 スイカ割り、それとも砂の城作り? ご立腹の相棒に反撃される前にと、僕も立ち上がって話題を戻す。するとソウシは一転して得意げな表情になり、「スイカ割りと砂の城か。それらも確かに古今東西海辺の遊戯として親しまれてきたものだ」と語り出した。ピンと指を立てて波際まで歩いていく背中を、二歩ほど遅れて追いかける。


「けど今日やるのは、俺たち()()が楽しむ遊戯じゃ意味がない」

「へ、なんで?」

「嫉妬霊を確実に釣るには、ギャラリーの視線と感情も同時に独り占めする必要があるからだ」

「な、なるほど……でもそんなテーマパークみたいな遊びあったか?」

「あるだろ、観客の二人に一人がポロリを期待する伝説の遊戯――」



 ビーチバレーがな!



「おぉおっ……お?」


 シュバッと頭上に伸ばされたソウシの手は、確かに球体を持っていた。そんなものどこに隠し持ってたんだとツッコミたい気持ちもあったけど、それ以上に――なんで球体が見慣れたボールじゃなくて、現世でいうところのヤシの実にそっくりなのかを全力でツッコみたい!


「正式名称は`ヤヅの実`だけど、認識はヤシの実であってるぞ」

「ぇ、マジでヤシの実なのか?」

「うんマジ。ほら」


 持ってみろと差し出された黄色い球体を受け取ってみる……うん、本当に重くて硬いヤシの実だわコレ。


「じゃあ次はネットを――」

「いやいやいやちょっと待とうソウシ!」


 ネットの代わりになるものを探し始めた相棒にストップをかける。なんだよって顔で振り返ってるけどそれ僕のセリフだからな!? なんでヤシの実!? 異世界にビーチボールがないのは分かるけど、だからってヤシの実候補に挙げる!?


「大丈夫、さすがの俺もヤシの実をそのまま使ったりしないって」

「そ、か……」

「いや待てよ、俺=終太郎のステータスだからそのままでも――」

「やめて大丈夫でも無理だから!」


 たとえ身体的に大丈夫でも精神的にアウト。全力で球から逃げる未来しか想像できないと首を振る僕に、ソウシは「じゃ、新魔法試すか」と言ってヤシの実をポーンと上に投げ、キャッチした。


「新魔法?」

「[オルタフリーション]――物体の性質を自由に変化させる魔法だよ」


 試しに使ってみ、とヤシの実を手渡される。コレがビーチボールに……にわかには信じ難いけど物は試しだと、ビーチボールを頭の中に思い描きながら両手にグッと力を込める。


「ォ、オルタフリーション!」


 瞬間、ぶわっとレモンイエローの光が手元を包み込んだ。てっきり見た目も変わるかと思ったけど、光が消えてもヤシの実はヤシの実のままで……まぁ性質変化ってソウシ言ってたしな。


(ええいままよ!)


 軽くヤシの実を投げ、真上にアンダーサーブを打ってみる――と、覚悟していたような痛みが腕に走ることはなく、ヤシの実はポーンと綺麗に跳ねた。太陽と実が重なって小さな日食が起こり、ふと夏だなぁって思う。異世界に四季があるかは知らないし、あったとしてもこの海辺が温暖なだけで、今が夏かは分からない。でも、きっと今の僕は夏にいる。




――どこ、いっちゃったの……?




 そうだ、僕は夏が……――ボゴンッ!


「っ、たぁ……!」


 ボサッとしてんなと説教するみたく、顔面にヤシの実ボールが落ちてくる。これまたいい具合に跳ねて浜に転がったボールを拾い上げながら、ソウシが「あーあ、だから言ったのに」と溜息を吐いた。どうやら僕が聞こえてなかっただけで、危ないぞーって何度も声をかけてくれていたらしい。ごめんごめんと謝りながらさり気なく鼻を摩るけど、やっぱり折れてない……性質変化スゲェ。


「そういえば、ネットどうすんの?」

「あー、浮遊魔法でその辺の海藻ぶら下げとくか」

「いや、海藻じゃボール当たったらすぐ千切れちゃうだろ」

「んー……」

「ねぇお兄さんたち。ネットってもしかして、お魚さん捕まえる網のこと?」


 どうしようかと悩んでいたら、十歳くらいの女の子が話しかけてきた。ヴァニラカラーの髪を後ろで一つの三つ編みにした人懐っこそうな子で、僕はつい目線が同じになるように屈んで「うーん、そんな感じだけどちょっと違うかな」と答える。


「形は似てるんだけど、こう……砂浜の上に立てられる丈夫な網のことなんだ。お魚捕る網は、ペションてしてるでしょ?」

「んー、立ってる丈夫な網かぁ――こんな感じ?」

「へ?」


 月の色みたいな大きな目がちょっとマジになったかと思いきや、女の子は急に宙に手を伸ばして「フィッシャートラップ」と唱えた。すると海水の一部が大きなシャボン玉みたいに浮き上がって浜に移動し、空中で網目を紡ぎ始める。あっという間に、透明な長方形のネットが完成した。


 あんぐりと呆ける僕とソウシに、女の子は「あたし、エリム。漁師の娘なの」と自慢げに言ってウミノ(⤴)イエを指差す。ああ、あの夫婦の娘さんだったんだ。ていうか漁の仕事もしてたんだ。まぁメニューのなかに浜焼きってあったしな。


「コレ、ちょっとやそっとじゃ壊れないから。なにか面白いことするんでしょ?」

「う、うん! ありがとうエリムちゃん」


 親切な子だなぁってニコニコでソウシを振り返ったら、アイツはズーンって効果音を背負いながら砂浜にのの字を書いていた。まぁ理由は想像つくけどと肩を竦めつつ、一応近づいて耳を傾けてみれば、


「べつに忘れてただけで使えないわけじゃないし。それだけ魔法の引き出しがあるってことだし」


 やっぱりめっちゃ拗ねてた。てか忘れてたんだ。面倒臭いなぁと転がっていたヤシの実(ビーチボール)を拾い上げると、ボンッてわざと頭にぶつけてやる。「んぶっ」って前のめりになった背中に笑いながら、跳ね返ってきたボールを片手でキャッチすると、


「ビーチバレー、やろ!」


 振り向いた相棒に片手を差し伸べた。キョトンとしたのは一瞬のこと。ソウシはすぐに表情も気持ちも切り替えて、「そうだな」と手を握り返して立ち上がった。ファーストサーブは僕に譲ってくれるみたいで、エリムちゃんが作ってくれたネットを挟んで相対する。邪魔にならないようにベストと帽子は脱いだ。


「コートまで設置すんのは面倒臭ぇから、ボールを浜に落としたらアウトでいいか?」

「おう、分かった」

「三つ編みの嬢ちゃん。手ぇ空いてるなら審判頼むわ」

「あたしの名前はエリムだってば、もう! でもいいよ」


 一点ずつ、先に十点取ったほうが勝ちねと言ってエリムちゃんが両手をグーにして立つ。ソウシの目論見通り、僕らの周りにはいつの間にか見物客の層ができていた。これはカッコ悪いところは見せられないなと、気を引き締めてボールを投げ、アンダーサーブを打つ。ほどほどにラリーしつつ、ここぞって時にバシッと決めて、ワアァッて歓声もら――、


「フン!」


 ドスッ!


「……へ?」

「ハイ、黒のお兄さん一点!」


 生温い演出考えてんじゃねぇ、ってど突かれたみたいにバチクソ強烈なアタック返されましたわ!


「キャーーーカッコ良いー!」

「これぞ先手必勝のダークホース様!」


 しかも聞いてよこの大歓声! それとこのアウェイ感!


「カワイ子ちゃんも負けるなー!」


 いや誰がカワイ子ちゃんだ! でも応援ありがとね!


「あーそうそう、言い忘れてたけど」


 アタックを決めた掌に息を吹きかけながら、「俺、ゲームで手抜きとか手加減一切しない派だから」と言うソウシ。その目つきは好戦的を通り越して、もはや敵意MAXだ。


「甘いプレーしてたら、スコンクで大恥かくぜ?」

「……へぇ?」


 言ってくれるじゃんと僕も腕を伸ばし、手首も回してから砂に埋まってるボールを拾い上げる。軽く砂を払ってネットから少し離れると、一歩二歩と助走をつけ、


 バシンッ!


 盛大にジャンプサーブを打ってやった。ソウシはレシーブで受けたけど角度が悪かったのか、ボールはあらぬ方向へ飛んでいって砂浜に転がる。よし、これで僕も一点だ。


「お前=俺のステータス、なんだろ?」


 じゃあ腕力も同等ってことだよな――とか自信満々に決めてますけど、俺たぶんコレが人生初サーブです。


「キャーーーカワイ子ちゃんもカワカッコ良い!」

「ファイト~!」


 あー、でも女の子からの歓声ってやっぱ照れるっていうか、元気でるなー。カワイ子ちゃんていうのは頂けないし、`カワカッコ良い`に関しては「???」の領域だけど。


「鼻の下伸びてんぞー、スケベ郎くん!」

「おわっ」


 いつの間にボールを拾ってきたのか、ソウシがジャンプサーブでやり返してくる。咄嗟にレシーブで打ち上げ、アタックした。けどちょっとネットに掠って勢いが落ちてしまい、トスで上げてからソウシが打ち返してくる。僕が追いつけないように遠くを狙ったつもりだろうけど、


「とうっ」


 腕を目一杯伸ばしながら腹面ダイブし、ボールと砂浜の間に手を滑り込ませて打ち上げてみせる。ボールがギリネットを越えたのを横目に身体を起こし、砂を払う手間も惜しんで走ると、


 バシッ。


 ネットの手前でジャンプして、ソウシのアタックを防いでみせた。まさか追いつかれるとは思ってなかったみたいで、ネット越しに見えたソウシは顔面全域でビックリって叫んでる。うん、僕もやっぱりビックリした。ソウシお前の反射神経と脚力ヤバいな。


「へぇ? 思ったより扱い上手いじゃん、か!」

「っ、と! そりゃガープの森でお前に無茶ぶりさせられたから、な!」


 レシーブとアタック、時々間にトスを挟みながら会話する。よく夢の中だと空飛べたり、自由自在を通り越して変幻自在に身体を動かせるっていうけど、今の僕はまさしくそんな感じだった。思い返せばあの戦いの時も、ソウシのアシスタントがあったとは言えよくあそこまで動けたな。僕絶対運動音痴なのに……もしかして、僕の癖とか理解して指示出してたとか?


「いやいやそんなご都合主義な――」

「終太郎」

「へ?」


 アタックくるかと思って身構えてたら、ソウシはヤシの実をキャッチして横目で海を睨んだ。え、まさか何かきた!? バッと僕も海のほうを顧みたけど、


「くるぞ」


 ザパーーーーッンって覆い被さってきたビッグウェーブに、呆気なく呑まれた。

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