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第三話 冒険者試験[後編⑦]

オレが信じた告白奥義は間違ってなかったんだ!――byウル

「…………」


 夕刻。ナージュさんの店に帰ってきた僕は、部屋に引っ込むなりボフンッとベッドに突っ伏した。森からの帰還には[ロードスキップ]を使ったし、マッフルさんに試験合格の報告をしにギルドに行った時も普通に挨拶できていたし、さっき「ウルくんに聞きましたよ~、合格おめでとうございますぅ」と出迎えてくれたナージュさんとも話せてたけど、


「もう一歩も動けねー……」


 ホッと気を抜くともう駄目だった。


「おい終太郎、寝るなら風呂入ってからにしろよ」


 俺は汗と土まみれのベッドで寝たくない、と言ってソウシは僕の首根っこを掴んで引っ張り起こすと、乱雑に床に放り出した。ついでポーションっぽい液体の入った小瓶を取り出し、プシューと香水のようにベッドに吹きかける。いや香水っていうよりリ●ッシュか、石鹸みたいな香りがするし。そういえばソウシからも石鹸の匂いするな。


「あ、これ店主お手製の除菌ポーション。合格祝いにどうぞって」


 ソウシは「終太郎の分もあるぞ」と僕に小瓶を投げて寄越すと、バフッと自分だけベッドに寝転がった。


「ちょ、僕のことは追い出したくせに……!」

「だって俺もう風呂入ったもん」

「え、いつ!?」

「お前が店主と喋ってる間に」


 気づかなかったのかとヒラリと手を振られて、そういえば話してる最中にソウシの声しなかったなと初めて気づいた。


「早くサッパリして戻ってこねーと、俺がベッド独占して寝るからなー」

「むっ、ハイハイ分かりましたよ!」


 汗まみれの泥坊主はきちんと清浄されてきますよ! 着替えを引っ掴んで部屋を出ると、風呂場に直行――、


「って違うだろ!」


 せずに駆け戻った。閉じたばかりのドアを全開にすると、ベッドで「グピー、グピー……」とわざとらしく寝息を立ててるソウシに、わざとらしく足音を立てて詰め寄る。


「おいソウシ起きろ!」

「スピー、すよすよ」

「あからさまなオノマトペで誤魔化そうとするな! 今日こそは色々と説明してもらうからな!」


 聞きたいことが山ほどあるんだよと肩を掴んで揺らせば、ヤツは壁のほうを向いて寝たふりを決め込みやがった。こうなればと僕はブーツを脱ぎ捨ててベッドに乗り上げ、


「おりゃ!」


 ソウシの上に馬乗りになってやる。意外と潔癖なところがあるっぽいし、こうすれば嫌でも僕の相手をせざるを得ないだろう。案の定ソウシは、濁った呻き声を上げながらこっちを見た。


「説明してくれるまで退かないからな」

「…………」

「なんだよ。まだ抵抗すんのか?」

「いや、終太郎くん大胆だなぁって」

「はぁ? なに言っ……ハッ!」


 ヤバいこの体勢はっ、ていうかこのタイミングは!


「おーい二人ともー! 姐さんが合格祝いにご馳走作ってくれる、って……」


 やっぱりかぁあぁああぁあ!


「…………」

「ち、ちがう違うんだコレには訳がっ――」

「やっぱりな!」

「え?」


 ウルは蒼褪めもドン引きもしなかったばかりか、喜色満面の笑みを浮かべて拳を握っていた。でも、何でだろう……ゴミを見るような目で見られたほうが、ましだったと思ってしまうのは。


「オレが信じた告白奥義は間違ってなかったんだ!」

「ちがぁあぁあぁぁぁあぁああぁああぁぁう!」


 ホントに違うマジでちがうその誤解だけは止めてくれぇええぇえぇえ! ソウシの上から転がり落ちた僕は半狂乱でウルに弁明しようとしたが、


「じゃ、一時間くらいしたら店のほうに来てくれ!」


 テンションが爆上がりした彼の耳には届かなかった。あとには「お邪魔してごめんよ~」というセリフとともに無情に閉じられたドアを見つめて茫然と座り込む僕と、無言で成り行きを見ていたソウシだけが残される。


「な、なんかその、ごめんな?」

「…………」

「おーい、終太郎くーん?」

「……う…」

「う?」

「う、う……うわぁああぁあぁあぁあんっ」

「ぬえっ!?」

「なんでっ、なんで僕ばっがりごんな恥ずがじい思いじなぐちゃなんないんだよぉおぉおぉ!」


 顔をグシャグシャに濡らしながら、子供みたいに大声で泣き喚く。恥や外聞? 知ったことか! こちとらもう恥という恥を外に晒しまくってんだよ! しかもよりによってその恥がっ、男の尊厳に関わるもんばっかなんだよ!


「ちょ、分かった分かった! 終太郎が聞きたいこと全部答えてやるから、な?」

「うわぁああぁあぁあぁあんっ……」

「う……ぁ、あーなんか俺もっかい風呂入りたくなってきたなー。ついでだし、終太郎も洗ってやるよ!」


 号泣しまくる僕をあの手この手で宥めつつ、ソウシは僕を引っ張って風呂場へ向かう。皮肉にもこれが、いつも僕を振り回す相棒を逆に振り回してやることができた最初の瞬間だった。

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