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第三話 冒険者試験[後編⑤]

シュウタロウと交わりたいとかっ、マジのマジで一ミリも思ってないから!――byウル

(か、かっこいい……)


 語彙力が低下したとかじゃなくて、本当にそれ以外の言葉が出てこなかった。それくらいソウシの戦い方はめちゃくちゃカッコ良かった。ノーダメージで一方的に敵を、と言うと面白味のないチートみたいだが、モンスターの生態を理解したうえで的確にダメージを与えていく姿はチートと言うより`最強`って感じで……うん、とにかくカッコ良かった。


「言っとくけどアレが全力じゃないから、俺が全力出したら星すらワンパンで終わるから」


 そこは勘違いしないでくれと、元通り別々の身体に戻ったソウシはビシッと僕を指さして言った。某アンドロイドじゃあるまいし星はさすがに無理だろ、とは言えなかった。なんか普通に想像できてしまった。前言撤回、やっぱこいつチートだわ。


「でも、助かったよ」

「ん?」

「今回もありがとな、ソウシ」

「…………」


 ビタッとソウシの表情が硬直する。え、普通に笑いかけたつもりだったけど、僕そんな酷い顔してた? 心外だなぁとブスくれつつ腰を屈めると、未だ眠ったままのウルの横顔を見つめた。寝息も穏やかで特に苦しんでる様子もないのに、彼だけが一向に目を覚まさない。


 イノもシシもとっくに目覚めて、回復魔法の[ケアリー]だってかけたのに。ソウシは「寝てるだけだから問題ない」って言ってるけど、やっぱ心配なものは心配だ。ついでに言うと、モンスター化した時にウルが着ていた服は破け飛んでしまったので、今は僕のマントを貸している。


「クルルゥ……」

「ガゥ……」


 二頭ともウルを心配して、頬に擦り寄ったり身体を寄せては目覚めを祈るように鳴き続けている。ただ時折ソウシと目が合うと、ぴゃっと震えて僕の後ろに隠れていた。どちらかと言えば僕のほうがボコスカ殴ってたのに、やっぱアレがソウシの力だって本能的に分かるんだろうな。


「なぁソウシ、やっぱギルドに戻ろうよ」


 よしよし怖くないぞと二頭を撫でながらソウシを振り返るも、あいつは「ヤダ」とにべもなく断る。曰く、こうなった経緯を説明するのが面倒だとか、このままウルにステータス偽造のことをバラされたら終わるからとか。仮に連れ帰ったとして、カンストステータスの自分以上に高度な回復魔法を使える者がいるとも思えないとか。


「一応ギルドには、回復魔法を専門にしているお抱えの治療魔法師(ドクター・マジシャン)がいるけど、俺からすれば雑魚だし、その治療費の値段も紙に書いてあったけど普通にぼったくりだぞ。ったく、ギルドで負担する必要がなくなった途端にふっかけやがって」


 無駄と分かってる治療のために借金したくないと、ソウシはひとり水切りをしながら言う。いろいろ言ってるけど、たぶん`借金作りたくない`ってのが一番の理由だろうな。確かに僕も借金は困るし、ソウシ以上の実力者がいるとも思えないけど、でもなぁ……なんて悩んでいると、


「……う…」

「っ、ウル!」


 空気を読んだようにウルが目を覚ましてくれた。


「…………」

「よかった目が覚め――」


 たんだなと言い切る前に、ウルがガバッと抱きついてきた。一瞬だけ戸惑ったけど、僕はそっと彼の背中に腕を回してヨシヨシと撫でる。きっと訳が分からないままモンスターの姿にされて、怖かったんだろう。ウルのほうが経験値も歳も僕より上だろうけど、今だけは何だか年下の男の子に思えた。


 イノとシシも安心したように擦り寄ってきたが、背中に寒気を感じたと思ったら逃げ出してしまった。どうしたんだろうと二頭の後ろ姿を目で追っていると、これまた唐突にバッとウルが身体を離す。けど肩を掴む手はそのままで、心なしか力が強くなってるような……そのくせマゼンタの瞳は焦点が合ってなくて、


「ウ、ウル?」


 なんか、ヤバい感じ? 実はまだ霧の成分抜けてませんでした的な!? でも抜けたから戻ったってソウシ言ってたよな!? おいウルちょっ、近い近い! あとマント落ちてる今お前素っ裸だぞ!


「……び…よう」

「へ?」



「交尾しよう」



「……へ?」


 こうび、コウビ、交尾……確か、オスとメス或いは男女でアレコレするやつだっけ? でも変だなー、僕男だしウルも男なんだけどなー。嗚呼脳がパンクするってこういう感じなんだと、パンクしてるはずの脳で考える。


「……っ、え? シュウタロウ?」


 渦巻いていたマゼンタの瞳に光が戻ったかと思えば、ウルはハッと息を飲んで後ずさった。離れたことでちゃんと見えるようになった彼の顔は、「やっちまった」とばかりに蒼褪めている。一方の僕はというと、漂白剤を頭からぶっかけられたみたいに真っ白になっていた。


「ご、ごめんシュウタロウ! ちょっと寝惚けててっ――」


 ボゴッ!


 傍らをブリザードが駆け抜けたかと思いきや、ウルの身体が綺麗に吹っ飛んだ。ブリザードもとい絶対零度の怒りを纏ったソウシが、彼の頬に渾身のグーパンを打ち込んだのだ。弧を描いて飛んでいったウルは頭から川に落っこち、陰から様子を見ていたイノとシシが「ウビャーーーッ」と獣にあるまじき悲鳴を上げている。けど`交尾`というパワーワードを真正面から浴びせられた僕に、心配する余裕はなかった。


「終太郎、何回殺す? 0から99999のなかで選んでくれ」

「うん、じゃあ0で……でも、帰ろう」


 ちょっと距離を置くに越したことはないと、ソウシを連れて森を去ろうとすると、


「ひ、ひはうんはっへ(ち、ちがうんだって)!」


 片頬を真っ赤に腫れさせたウルが、ザパァッと水面から顔を出した。凄ぇ、ソウシのパンチをくらって喋れるのか。


「ゆえのははとはひはえははへへ(夢のなかと間違えただけで)っ」

「ソウシ、聞き取りにくいから[ケアリー]使っていいか?」

「いいよ。話し終わったらもう一回殴るけど」


 最後の物騒な一言はスルーし、僕はウルの頬っぺの腫れを治してやる。ウルは早口で礼を言うと、「ホントに初恋の人と間違えただけでっ」と涙目で謝り倒してくる。


「シュウタロウと交わりたいとかっ、マジのマジで一ミリも思ってないから!」


 思ってないからぁ、思ってないからぁ……と、ウルの涙声が木々の間で反響する。いや思ってくれなくて本当にいいんだけどさ、ていうか僕も交わりたいとか微塵も思ってないけどさ。こうシーンとした空間で全身全霊をかけて叫ばれると、地味に傷つくな。


『終太郎、コレは使えるぞ』

「は?」

『いいから、俺に合わせてくれ』


 唐突に念を送ってきたかと思えば、続けてソウシは実に彼らしい狡賢さ満載のアイデアを送ってくる。いつもの僕なら一瞬くらいは躊躇したかもしれないけど、今回は一切の迷いなく了承の念を送り返した。


「シュ、シュウタロウ? ソウシ?」

「終太郎、確かあのマーメイド店主に土産話頼まれてたよな?」

「まってまって待って!」

「あー、そうだったな。お世話になったし、約束は守らないとなー」

「ほんとに待ってってば! 話す、話すから! 夢のこともオレが人に慣れてる理由もっ、あの霧に抗えなかった理由も! あとお前らがステータス誤魔化したことも黙ってるから! ていうか忘れるから!」


 だから姐さんには言わないでぇえぇぇぇえっ――腹の底から絞り出された懇願の叫びに、僕とソウシは顔を見合わせてグッと親指を立てた。

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