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ベースメテオ


 ケンとソフィアは久しぶりにアンヘル博士の小惑星基地に向かっていた。アイリス2にはシエラ人4名と地球人4名が乗船している。博士の基地は小惑星群の中にあったが今は小惑星群の端に移動していた。そうすることで博士の基地から工事中の宇宙基地の様子が見える。朝早くにMIBを出たアイリス2は昼前に基地に着いた。


『ケン、ソフィア。お久しぶりです。今ゲートをOPENします』


 小惑星基地に近づくと基地に積まれているAIのジャスミンの声がスピーカーから聞こえてきた。アイリス2に乗ってこの基地に行くのは初めてだ。


「やぁ、ジャスミン。久しぶり、元気だったかい?」


「こんにちは。本当に久しぶりね」


 アイリス2の前で小惑星に見せかけていた扉が開いていく。


『ありがとうございます。定期的にアップデートしてもらっています』


「そりゃよかった」


 ジャスミンは答えながら第2ゲートを開けた。基地に無事に着陸したアイリス2から8名の乗客が降りて船内に入っていった。基地には博士が所有していた宇宙船に乗り込んでやってきた人達もおり、総勢で20名程のシエラ人と地球人が今ここで仕事をしている。


 元々広い研究所ではない。ケンやソフィアが下船して場所を取るのも良くないだろうと2人はアイリス2の船内で待機している。今日はここで1泊する、乗客は夜にはアイリス2の個室に戻ってくる予定になっていた。


『ケン、宇宙基地の製造現場をモニターに写しましょうか?』


 アイリスの声がスピーカーから聞こえてきた。頼むと言うとケンとソフィアが座っているキッチンにあるモニターに正にリアルタイムで工事をしている宇宙基地の設置現場の画像が現れた。外枠の半分以上ができていて基地の全体像が想像できるくらいまで工事が進んでいた。


「かなり大きいわね」


 モニターを見た瞬間にソフィアが声をだした。


「太陽系のベースワンよりもずっと大きいぞ、2倍、いやそれ以上はありそうだ」


『ケンの予想通りです。外見から計算すると太陽系のベースワンの2.5倍の大きさになります』


 アイリスがモニターの画像から推測した大きさを報告してくる。いきなり2.5倍の大きさの宇宙基地を作るとは。ケンの想像以上の大きさだ。2,000人程度は余裕で活動できそうな大きさになっている。


「シエラの本気度がうかがえるな。と同時に太陽系連邦軍との関係も良好の様だ」


「この映像だけでどうしてわかるの?」


「普通ならもっと小さいサイズから始めるんだよ。シエラにとって初めての宇宙基地だ。運用面も含めて分からない事ばかりだからね。小規模の基地である程度ノウハウを蓄積してからサイズアップするのが常道だ。ただこれを見るとその基地の設計、そして運用ノウハウを太陽系連邦軍が提供するのだろう。だから最初から大きいのを作ったんだよ。連邦軍は宇宙基地製造と運用のノウハウを持ってるからね」


「つまり太陽系連邦軍が100%のバックアップしてくれるから。ということ?」


「その通りだ。お互いに信用し合っているからできるんだ。このサイズの基地となると相当金額がかかる。最初からそんな大きな投資を進めることを決めた背景として間違いなく基地が出来て、問題なく運用ができるという保証を太陽系連邦軍から取り付けているんだろう」

 

 ソフィアはモニターを見ながらケンの説明を聞いて納得する。確かにこのサイズの基地となるとかなりの投資だ。普通なら投資リスクをどう見るのかがポイントになる。お金は国民の税金だ、無駄遣いはできないのは政府も軍も知っている。ただそのリスクが限りなくゼロに近く、投資が無駄とならないと分かっていれば今度は軍として最も運用効率の良いサイズの物を作ろうをするだろう。ノウハウのある太陽系連邦軍の全面サポートが得られているからこそのこの基地だと。


 相変わらず頭のキレというか回転がすごい。ソフィアは隣でモニターを見ているケンを見てそう思っていた。



 博士の秘密基地ではシエラ側と地球側の技術者および軍担当者との打ち合わせが続いていた。もっぱら地球側の説明をシエラ側が聞くということになっているが、肉眼でも見える基地の工事現場を見ながら打ち合わせをし、新しい指示や提案が出るとジャスミンが作業をしているロボット達に命令を送っていた。肉眼での観察以外に基地の周辺に配置しているカメラ衛星からは様々な映像が送られてきて部屋のモニターに表示されていた。


 秘密基地で夜を過ごした彼らは翌日の夕刻までそこで打ち合わせをし、工事状況を確認してからシエラ第3惑星に戻ってきた。


 その後も数度シエラ第3惑星から博士の小惑星基地へ人を運んだアイリス2。




 この日、ケンとソフィアはアイリス2の後部ハッチの近くに立って積み込まれていく荷物を見ていた。


 後部ハッチを上に向けて開けているアイリス2に厳重に梱包されている荷物がエアカーに乗って収められていく。


 シエラ初の宇宙基地の心臓となるAI、コンピューターシステムの基幹部分だ。積み込み自体はAIの指示でロボットがやるので間違いはないがそれでも普段よりも速度を落として慎重に積み込んでいた。荷物室の中にあるフックが四方八方から荷物に伸びてきて完全に固定される。



 アイリス2はここ数か月は第3惑星と博士の秘密基地、或いは工事現場を往復する仕事に専念している。2週間前に宇宙基地の外郭の大部分が完成、空気製造機が備え付けられた。これによりここからは内装工事となり地球からの技術者の一部は地球に帰還、代わりに運用の専門家達が地球からやってきて今は第3惑星の軍施設の中でシエラ人に対して基地の運用について講義、指導をしている。


 そんな中いくら同盟国でも開示しないシエラの秘中の秘であるレーダー、エンジン及びAIが完成しこれを宇宙基地に運ぶことになった。


 レーダーは大きく、また1つではないので分解して現場に運んで備え付けられるが、エンジン、AIについては第3惑星で製造してそのまま現地に持ち込んで設置することになる。エンジンは既に設置済みであり、それによって基地内での空気、電源が確保されていた。


 アイリス2の後部倉庫の殆どを使う大型の特注コンテナが無事に収まるとしっかりとそれを固定させる。


 アイリス2にはケンとソフィアの他に現地でAIの設置から立ち上げを担当する技師が数名乗り込んでいた。実際はもっと多くの人員がこの作業に従事することなっているが彼らは別の輸送船で既に現場に先乗りしており、アイリス2の到着を待っている。


「OKだ。あとはよろしく頼む」


 作業員に混じっていた軍関係者の言葉に返事をした2人は機内が機内に戻って暫くするとアイリス2がゆっくりと浮上し、現場に向かって飛び立っていった。


 

 5時間後、小惑星群の外側にある宇宙基地の中にいくつかある荷物搬入扉の1つが開いてそこに後進でゆっくりアイリス2が入っていく。荷物用のハッチとってもアイリス2であれば十分な広さだ。300メートルサイズまでの輸送船に対応しているハッチとピアだという。


「位置そのまま。ゆっくりと下降して着地」


『位置このままで最低速度で下降して着地します』


 アイリスが答えその数秒後、無事に基地内のピアに着陸した。


『外部酸素正常』


「後部ハッチオープン」


『後部ハッチオープンします』



 無事に着地すると乗り込んでいた技術者達が部屋から降りてきて2人に礼を言って基地の中に入っていった。


 最後にケンとソフィアが下船し、積んできたAIが入っている箱を船から卸す作業に立ち会う。


「これを設置したらこの基地もお目覚めだよ」


 同じ様に立ち会っている軍関係者が言った。何度か荷物を運んだこともあり顔見知りになっている。ソフィアによるとこの男は軍施設部の中尉だという。


「それにしちゃあでかい赤ん坊だな。しつけが大変そうだ」


「確かにな。ただこっちにはしつけのプロが沢山いる。任せとけ」


 そう言って豪快に笑った。


 シエラ初となる外部宇宙基地は正式名称を『シエラ惑星群宇宙第一基地』と呼び、通称、つまりコールサインは”ベースメテオ”となった。



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