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シエラ第3惑星にて


「ファジャルが空母を海賊船として使用している可能性がある。そういうことか?」


 オレンブルグ星からそのままシエラ第3惑星に戻ってきたアイリス2。船を専用ピアにつけると事前にアポイントを取っていた情報部に顔を出した。スコット大佐とフランソワ少佐が2人を待っていた。


「確定ではありませんがその可能性が高いと考えています。あの空間一帯はもともと安全地帯で海賊船が闊歩するエリアではない。海賊船は基本ワープのある場所からそう遠くない場所で待ち構えています。でも今回破壊された輸送船は曳航先の守備隊によると外部からの攻撃によるものだという。となるとあのエリアに海賊が現れたと考えられます。従来の海賊とは違って1箇所にとどまっておらずに移動しながら海賊行為をしているのかもしれない。そう考えるとますます空母なのかなと考えました。空母なら今までとは比べ物にならないくらいに多くの戦闘機を搭載できますからね。それに航続距離も長い」


「つまり空母を基地代わりに使い、実働部隊を小型機に任せるということか」


「小型機とは限りません、中型まで考慮すべきでしょう。さらに相手によっては空母本体が出ていくこともあるでしょう。自分が言いたい事は海賊は従来の特定のエリアに3、4隻の旗艦がとどまって輸送船を待っている従来のスタイル以外に新しいやり方が増える可能性があるということです。そして空母なら海賊船の背後にファジャルがいると思いますね。いずれにしてもシエラ籍の商船には注意を促しておいた方が良いと思いましたので報告にきた訳です」


「なるほど。よく分かった。ケンの言う通りシエラ籍の船に対して通達をだそう。空母から中型、小型機を飛び出させる海賊がいる可能性がある、そして従来のワープアウト以外のエリアにも海賊が出る可能性があるとな」


 よろしくお願いしますと言って2人は会議室を出て情報部を後にした。


「流石にケンですね。常に先を見ている。それも冷静に見ている」


 2人が出ていった会議室の扉に顔を向けたままフランソワ少佐が言った。


「その通りだ。だから彼は一流なのだ。さぁこちらも仕事だ。少佐はシエラ籍の船に出す通達文を作成してくれ、私は准将に報告に行く」


 その翌日、シエラ軍参謀本部の名前でシエラ籍の全ての商船に海賊に対する通達がなされると同時に海賊に関する情報収集の依頼が出された。


 通達が出されてから1週間後、1つの情報が商船から情報部に飛び込んできた。従来海賊が出ないとされていたエリアで海賊にやられたと思える輸送船が漂流していたという話を聞いたという。


 場所はケン達が漂流船を見つけたオレンブルグ星からそう離れていない。同じ海賊(空母)が移動したのだろうと考えられる。


 これを受けてシエラ籍の商戦(輸送船)は順次シエラに戻って武装強化をすることになった。今までの装備に加えて小型戦闘機を同時に複数機撃ち落とせる銃器を船体に追加装備していく。自分たちの命は自分たちで守る。シエラ人は皆それを知っているから反対する者もいない。一方で従来の3、4隻で固まってワープアウトポイントにて待ち構えている海賊船もいるとの情報が入ってきた。これはシエラ籍の船が見つけたのではなく他の商船からの情報だ。背後にいるのは恐らくファジャルだろうがまだ証拠が見つからない。


 ただシエラでは背後にいるのがファジャルであるという前提で彼らの目的、背景を探りつつシエラ籍の船には十分に注意する様にと再度通達を出した。


 ブルックス星系がきな臭くなってきた。と同時にシエラ最初の宇宙基地の建設が良いタイミングだったとシエラ情報部は判断する。



 MIBで製造される宇宙基地のパーツは輸送船で基地を設置する第1資源惑星外の宇宙空間に運ばれ、そこで組み立てられることになる。地上ではMIB内で作業を見ながらの打ち合わせが出来たが宇宙空間ではそうはいかない。宇宙での組み立てを第3惑星の近くで行い、完成してから自走で第1惑星外まで移動するという案も出されたが却下された。

 

 第3惑星の近くで作業を行うとシエラに来る商船や客船に見られてしまう可能性がある。資材の輸送に時間がかかるが第1惑星の小惑星群の外側まで運んだ方が機密が守れる。作業効率は考慮するがそれ以上に機密保持の方が優先度が高い。


 シエラ情報部は現地での打ち合わせの場所に小惑星群の中にあるアンヘル博士の秘密基地を利用することにする。ただし秘密基地はその規模から大型輸送船が着岸できない。秘密基地にある博士の小型宇宙船とアイリス2をシエラ第3惑星と秘密基地との輸送手段とすることになる。


 ただカートリッジエンジンは太陽系連邦軍にも見せない様に博士の小惑星基地はエンジンルームに入るための扉が取り付けられ、AIが認めた人間のみが入る事が出来る様にした。これは博士の基地にある小型宇宙船についても同様だ。アイリス2についてはAIのアイリスが扉の管理をしているがこれは既にケンが認めた人間以外だと扉が開かない様になっている。


 MIBと宇宙基地建設現場と人の往来にアイリス2を使うにあたり、ケンとソフィアに対して現在進められている宇宙基地製造プロジェクトの内容が開示された。情報部の会議室でスコット大佐から説明を受けた2人は大佐の話が終わると、


「分かりました」


 とケンが短く言った。会議室にはスコット大佐、フランソワ少佐、そしてケンとソファアの4人しかいない。宇宙基地建設の間は通常の運送屋としての仕事は休みになる。


「私達が送迎するのはいつ頃までですか?」


 黙っていたソファが聞いた。


「それほど長期にはならないと思う。ある程度外形が出来た時点で終了だろう。せいぜい3,4カ月と言ったところだ。その後はAIやレーダー、エンジンなどの内部の機械の設置になるがこれはシエラ単独でやる予定でいる」


「しばらくピストン輸送をしながらシエラでのんびりさせてもらいますよ」


 アイリス2は情報部と契約している船だ。全てにおいて情報部の依頼が最優先となる。

 今回はシエラ第3惑星と第1惑星近くにある小惑星群の外側までの行き来だ。


 NWPを使う事はできず片道約5時間の飛行となるがアイリス2にとっては全く問題が無い。アイリス2の動き方についての打ち合わせが終わると今までとは違ったざっくばらんな口調で大佐が話かけてきた。


「ところで、ケンの意見を聞きたいんだが、シエラが宇宙基地を持つことについてどう思う?」


「いいんじゃないですか?惑星の固定基地と違って移動が出来る、更に艦船も駐留出来る。フットワークが良くなりますね」


「正にその通りだ。しかも大型レーダーを設置すれば我々が見ることができる範囲も広がるしな」


「聞いていると基地の場所はシエラの勢力圏内だし全く問題ないと思いますね。現に連邦法では許可なく星国の勢力圏内に入ってきた場合にはその星国は自国防衛の目的で無条件で銃器の使用を許可するとなっています。自星防衛なのですからよそからとやかく言われることもないでしょう」


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