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漂流船 その2


 アイリス2の窓の前には漂流船を牽引しているスターゲイトの姿が見えていた。

 ランデブーポイントに到着した2隻は周囲に他の船がいないのを確認してからスターゲイトの後方下部から伸びたアームで漂流船をがっちりと掴むとオレンブルグ星に向けて曳航する。


 漂流船は200メートルクラスの輸送船だった。船体IDを確認したところリンツ所属の小口の運送業者だった。ただケンが加入している組合の組合員ではない。


 オレンブルグ星には事前に通信を送っていたこともあり彼らの勢力圏に入ったところでオレンブルグの守備隊の艦艇数隻が我々を待ち構えていた。


「オレンブルグ守備隊だ。ここまでの牽引、感謝する」


「こちらスターゲイト。最初に救難信号を受けたのは背後にいるアイリス2だよ。こっちはそれを聞いて牽引してきただけだ」


「こちらアイリス2。今、当該漂流船発見時の記録をそちらに転送した」


「こちら守備隊。確かに受け取った。あとはこちらで処理をする。ご苦労だった」


「よろしく」


「スターゲイト、こちらアイリス2のケンだ。貴船の協力に深謝する」


「スターゲイト了解した。宇宙じゃあこれは当然だからな。お互いに気をつけようぜ、じゃあな」


 短い挨拶の後でスターゲイトは機首を転換するとオレンブルグの勢力圏から離れていった。アイリス2は予定より1日遅れでオレンブルグ星のピアに接岸し荷物を引き渡す。漂流船の確保で遅れた分についてはカウントしないというのが運送規約で決められているので1日遅れたがペナルティは発生しない。むしろ客先よりは1日遅れでよく済んだものだとお礼を言われたくらいだ。


 アクシデントがあったが無事に荷物を届けたケンとソフィア。せっかくだからとオレンブルグ星で買い出しをすることにした。


「何というか特徴のない星ね」


 首都のダウンタウンを歩いている2人。


「ほとんどの星は特徴がないよ。農業、工業などに特化した星じゃなければね」


 それでもこの星でしかないという小物をいくつか買ったソフィア。アイリス2に乗ってからあちこちの星を訪ねた時にその星の訪問記念にと何か買っている。自宅には彼女が買った小物がそれ用に買った棚に綺麗に並んでいる。小物は少しずつ数が増えていた。


 一通り街の中を見た2人がアイリス2に戻ってきて船内でくつろいでいるとここのオレンブルグ星の警備隊から通信が入ってきた。


「少し聞きたいことができたので連絡させて貰った。いいかな?」


「はい、どうぞ」


 モニターに現れたのは警備隊の制服を着ているオレンブルグ星人だ。


「まだ初期の調査だがスターゲイトとアイリス2が曳航してきた船だが、内部のトラブルではなく外からレーザー砲を複数弾打ち込まれている様なのだ」


 警備隊の報告を聞いているケン、隣で同じ様に聞いていたソフィアの顔色が変わった。


「それで最初に救難信号を受けたのがアイリス2だというので聞きたいのだが、救難信号を受信した前後でレーダーに不審船の姿はなかったか?」


「レーダーには何も映っていなかった。漂流船は分速1,000Kmで自分たちの方に流されてきていた。どこで襲撃を受けたのかはわからないが少なくともこちらが信号を受信した時には周囲には船はいなかった。こちらも海賊を警戒して周囲を見ていたから間違いない。断言できる」


「やっぱりか。そちらが提供してくれた記録も見ているので間違いはないんだが念のために確認させて貰った」


「それは構わない。彼らは海賊にやられたのか?」


「恐らくそうだろう。積荷は言えないがかなり高価な物を積んでいた様だ」


 その後で手間をかけた、気をつけてなという言葉と共に通信が終わった。


「海賊船?」


 ソフィアが聞いてきた。その言葉に頷くケン。


「海賊船に襲われた末路は大抵ああなるんだ。荷物を取られ、船員は殺され、船を破壊される。あの船がいつ襲われたかは分からないがこの星から出る時も気をつけないとな」


 オレンブルグ星のカーゴピアに停泊しながら次の仕事を探すケン。ソフィアは海賊船の情報をNWP通信でシエラ情報部に送信していた。ケンによるとオレンブルグ周辺は従来は比較的安全なエリアだったという。そこに海賊船が現れたとすれば背後で糸を引いているであろうファジャルの戦略であり、海賊船の登場に何か意図があるはずだと言う。


「ケンには予想はつくの?」


 通信を終えたソフィアが聞いてきた。首を横に振るケン。


「分からないな。何か答えろと聞かれたら海賊どもの新造船のテストくらいかな。ただあのあたりってワープ空間もないんだよな。となると」


 そこでケンは言葉を止めるとじっと思案に耽る。ソフィアが声をかけても上の空状態だ。彼が何かを考えるとこうなるのを知っているソフィアはキッチンでコーヒーを淹れながらアイリスに話しかけた。


「ケンは思考に没頭してるわね」


『ええ。ケンはたまにこういう状態になります。ソフィアも待つしかありませんね』


「本当ね。彼はこういった時の後はたいてい良いアイデアを出すから今回も期待して待つわ」


 5分以上そうしていたケンが顔を上げた。そばにいるはずのソフィアがいないのでキョロキョロするとキッチンに彼女の姿を見つけると椅子から立ち上がってキッチンに移動する。


「アイリス、出航の準備を、オレンブルグ港湾局に許可を取ってくれるかな」


『わかりました。オレンブルグ港湾局に許可をとります。出航準備は完了しておりいつでも出発できます』


 すぐに港湾局の担当者が出てきた。


「今回は災難だったな。アイリス2はいつでも離岸してOKだ」


「ありがとう。宇宙にいたらこんな事もあるよ、じゃあまた」


 通信を切ると船長席に座るケン、ソフィアも自分の席に座った。


「アイリス。周囲に警戒をしつつ出航だ。目的地はシエラ第3惑星」


『はい。出航します。目的地はシエラ第3惑星。セットしました。レーダーはフルレンジで稼働します』


「シエラに帰るの?」


 席に座ったまま顔だけケンに向けて聞いてきた。


「そう。仮説だけどね、情報部には直接説明しておいた方が良いかもしれない」


 NWP通信で概略は連絡しているが詳細の説明も必要だし、久しぶりに自宅に戻りたいというケンの我儘もあった。アイリス2が離陸して巡航速度になると席を立った2人。ケンは自分の予想をソフィアに話した。最後に久しぶりに自宅に帰りたかったしねとはにかんだ表情でそう言うとソフィアがその場で抱きついてきた。


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