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漂流船 その1


 シエラが初めての宇宙基地の製造に入っている頃、ケンとソフィアのアイリス2は彼らをシエラまで運び終えた後は通常の運送の仕事に戻っていた。2人は今回の戦争の当事者ではない。人を運ぶという任務を終えると情報部からもしばらくアイリス2を使う予定はないと聞いていた彼ら。自分たちのペースで仕事を選んで星から星への配達を繰り返していた。


 この日はリブルノ星の会社の機械の部品をオレンブルグ星にある取引先の会社に運ぶところだった。リブルノ星のこの会社は時折ケンを指名して配送を依頼してくる。地球人は絶対に間違わないと信じている。聞いていてこそばゆくなるくらいの地球信奉者の社長が経営している会社だ


 荷物を受け取りにリブルノ星に出向いた時も同社の社員が港で積み込みに立ち合い、その際、


「社長がケンに言っておいてくれとさ。太陽系軍がエシクとの戦争に勝ってよかったなって」


 と言われていた。


「ありがとう。ちゃんと聞いたよ。またよろしく頼むよ」


 やり取りを聞いているソフィアが隣で笑いを堪える顔をしていた。



 アイリス2は巡航速度でオレンブルグを目指して飛行していた。航路上に障害は無い。これなら予定より2日ほど早く到着するなと思っていた時アイリスの声が船内に響いた。


『救難信号を受信しました』


「場所は?」


 即座に反応するケン。


『座標 593・431・090 ですが動いています。分速1,000Kmで流されている様です』


 そう言ってホログラムにその座標を出すとオレンブルグ星に向かって飛んでいる進行方向の右下にあたる。


「どうするの?」


 席に座っているソフィアが顔をケンに向けて聞いてきた。ケンはそれには答えずにアイリスに聞いた。


「アイリス、救難信号以外の信号は出てるか?」


『今の所拾えるのは救難信号のみです』


「進路変更。座標ポイント、救難信号を出している船に向かってくれ」


『進路変更します。現在の速度で現地到着予定時間は5時間と48分後です』


「ここから一番近い星は?」


『現在向かっているオレンブルグ星が最も近い星になります』


 アイリスとやりとりしながらも船は進路を変えて救難信号が出ている座標に機首を向けて飛行している。


「ソフィア、緊急通信回線を使って救難信号を出ている船に向かうと伝えてくれ。漂流している船の座標も合わせて頼む。これが規則になっている」


 一連のやり取りを聞いていたソフィアが規則だと聞いて納得する。


 宇宙船では普通の通信で使ってはいけない回線がある。それが緊急通信回線で、宇宙船はこの回線については常に開いておくことが義務付けられていた。今、その緊急回線を使ってソフィアがケンが言った内容を数度伝える。


 すぐに同じ回線から反応が来た。


「アイリス2、こちらペインズベル所属の輸送船”スターゲイト” 船長のジュマーだ。そちらの緊急通信を受け取った」


 聞いていたソフィアが船体登録リストでスターゲイトの項目をクリックし、アップされた画面をケンと共有する。これを見るとスターゲイトは全長が300メートルクラスの輸送船、乗員は4名、船長はジュマー。確かにペインズビル所属となっていた。


「スターゲイト、こちらアイリス2の船長のケンだ。現在漂流船に向かっている。漂流船からは救難信号しか受け取っていない。ランデブーは5時間40分後だ」


「アイリス2了解、こちらも向かっている、ETAは6時間25分後だ」


 漂流や事故と言った場合には普段は競争相手であっても助け合うのが宇宙船の仁義だ。通信を聞いてシカトしたと後で分かればその船はもう商売ができなくなる。それくらいに緊急時には協力しあうという伝統が昔からあった。ただ唯一の例外が軍関係の船、それと海賊船だ。


「ここから一番近い惑星はオレンブルグ星になるな。アイリス2、俺たちが現地到着後に漂流船を牽引するので背後からついてきてくれるか」


 300メートルクラスの船なら牽引設備も立派なものを積んでいるはずだ。ジュマーという船長はなかなか男気がありそうだと感じるケン。


「了解した。そうして貰った方が助かるよ。俺の船は大きくないからな」


「こっちはアイリス2よりはでかいからな。任せておけ」


 ジュマーもアイリス2の船体登録をチェックしたのだろう。手配が終わると気を利かせたソフィアがコーヒーを淹れてくれた。運転はアイリスに任せているケン。そのアイリスに緊急通信の件とスターゲイトとアイリス2で漂流船を牽引してそちらに向かうとオレンブルグ星港湾局宛に通信を送る指示を出した。


「漂流船や緊急信号なんて初めてなんだけど」


 コーヒーカップを口に運んでいるケンを見てソフィアが言った。


「滅多にない。そして救難信号だけしか出していないところから見て乗組員は生きてはいないだろう」


 救助通信を使う間もなかったということか。

 ケンは輸送船のしきたりというか義務を彼女に説明する。


「こう言う場合は敵味方なく漂流船を保護することになっている。そしてその場からもっとも近い惑星に牽引するのが決まりだ。牽引している船に入ることは禁じられている。原因究明は専門家の仕事になるからな。俺たちが中に入ってあちこち触ることで原因が特定できなくなることを防いでいるんだ。盗難されることもあるからね」



『レーダーでスターゲイトを感知しました』


 アイリスの声と同時にキッチンにあるモニターにレーダー画面がアップされた。アイリス2と正反対の方向から近づいてきている様だ。300メートルクラスの映像が映っている。


「アイリス、レーダーはフルレンジのままで。それと全ての武器をいつでも使える様にしてくれ」


『わかりました。レーダーフルレンジ、合わせて全ての武器の使用準備をします』


「どういうこと?」


 武器の準備をしろと指示を出したケンの顔を見るソフィア。


「可能性の1つだけど、漂流船を囮にして俺たちが集まってきたところに海賊が登場するかもしれない。準備だけはしておこうと思ってね。レーダーをフルレンジにしたのも同じだ。漂流船以外に不審船がいれば先に見つけることができる」


 驚いた表情をしているソフィアにケンが言う。


「海賊船には仁義がない。自分たちの目的のためなら卑怯な手段でも何でも使ってくると思った方が良いんだ。だからこちらも準備できるところはしっかり準備しておく必要がある」


 話を聞いたソフィアは漂流船を見つけてからのケンの対応の全てに納得する。善意を逆手に取って襲ってくる海賊船。宇宙では何でも起こりうる、そのために考えられる可能性に対して事前に準備をするのが宇宙で生き延びる秘訣の1つなのだと。


『スターゲイトから通信です』


「つないでくれ」


「スターゲイトのジュマーだ。こちらも救難信号だけしか受信しない。こりゃダメだな」


「ああ。多分無理だろう」


「周辺はどうだ?」


 ジュマーが聞いてきた。彼も分かっている。


「こちらのレーダーでは範囲内に不審船はいない」


「OK。俺のところのレーダーでも同じだ」



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