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エシクVS太陽系 その3


 アイリス2にシエラへの帰還指示が出た。ちょうど配達の途中だった彼らは帰還指示が出てから5日後にNWPを使ってシエラ第3惑星に戻ってきた。


 首都の情報本部に顔を出したケンとソフィア。


「遅くなりました」


「大丈夫だ。普段運送の仕事をしているのはこちらも理解している」


 シュバイツ准将が言った


 2人の前には情報部の2人が座っていた。シュバイツ准将と最近打ち合わせに顔を出し始めたフランソワ少佐だ。スコット大佐は別の打ち合わせに出ているらしい。


 エシクと太陽系連邦軍との戦闘が終わり、あちらに派遣していた人をアイリス2で迎えに行って貰いたいというのが今回のミッションだ。


「いずれ分かることだから先に言っておこう。太陽系連邦軍とエシクとの戦争は連邦軍の圧倒的な勝利で終わった。向こうは全滅、こちらは無傷だ」


 准将が言った。同席しているフランソワ少佐は最近情報部に移動してきた女性だ。彼女は以前はシエラ軍司令本部で仕事をしていたが、そこでの仕事ぶりを見ていた情報部が半年程前に彼女を引き抜いてきたという経緯がある。


 シエラのAI技術と連邦軍の優れたハード製造技術が合わされば相手よりも有利に立てるとは想像していたが圧勝と聞くとそれがケンの想像以上に力の差が有ったことになる。


 とは言ってもケンは運送屋だ。戦争の詳細については興味はない。太陽系連邦軍が圧勝したと聞いて地球人に大きな損失が無かったことが分かって安心する。


「戦争が終わったので派遣していたシエラ人が帰還する。その出迎えに行って貰いたい」


「分かりました」


 短く答える。戦争が終わったと聞いた瞬間にこの依頼は予想できる。


「ケンは地球人として今回の戦争に思う所はあるの?」


 フランソワ少佐が聞いてきた。彼女はそれまで資料の中でケン・ヤナギという人物は知っていたが、情報部に異動してから初めて彼と顔を合わせている。情報部の内部資料によると彼の評価は情報部でSクラスとほぼ最高の評価を得ている。実際に情報部に異動してきて彼の資料をもう一度見た彼女。彼がアンヘル博士の秘密基地を発見してから今までの活動を仔細に見てみると彼に対する情報部の評価が高いのは頷ける。極めて優秀な地球人だ。情報部に異動してきてからは情報部の仕事を覚えるために様々な部署を一通り経験してきた。それが一通り終わったところでスコット大佐の部下となっていた。


 フランソワにそう聞かれたケンがシュバイツ准将の隣に座っている彼女に顔を向けた。


「1人の地球人としては当然ありますよ。勝って欲しい、勝ってよかったとね。でもそれだけですね。自分はブルックス星系で仕事をしている運送屋で戦争のプロじゃない。変な言い方だけど当事者じゃない。地球人だけど地球に住んでいる訳でもない。勝ったと聞いて嬉しいですがそれ以上の感情は今はないですね」


 周りは冷たいと思うかも知れないが今言ったのがケンの本心だった。自分は平和主義者でもない。対話が通じない相手に対話を続けろという理想論を振りかざすつもりもない。話し合いで決着しないとなれば最後は武力に頼るのは当然だ。シエラと地球という同じ様な価値観を持っている星人同士の付き合いの方がレアケースだ。大抵の場合は異なる価値観同士がぶつかれば最後は腕力勝負、つまり戦争になる。


 今回についても自分が兵士だったら思う所があったかも知れないが小さな運送屋であるケンはとりあえず目の前にある商売をコツコツと丁寧にこなしていく事だと思っている。これはシエラ情報部と契約をした今でもケンの考えのベースになっていた。専属契約をしている。その契約の内容をこなすのが自分の成すべき仕事であると。


 フランソワはケンの返答を聞いてなるほど、彼の評価が高いのも頷けると感じていた。

 自分のフィールド外の事について関与しようとしてこない。与えられた仕事をこなすことに全力を注いでる。


 普通であれば戦争について具体的にどうだったのかと根掘り葉掘り聞いてきてもおかしくない。自分の故郷である地球が勝利したと聞けば気分が高揚する。特にケンは地球人でありながらシエラの情報部とはツーカーの関係を構築している。聞こうと思えばいくらでも聞けるだろう。


 でも彼はそれをしない。自分の立場、運送業者という立場をしっかりと認識していてある程度から先には踏み込んでこない。分別ができている。

 

 これはソフィアも同様だ。彼女は情報部中尉として大抵の情報へのアクセスが許されている立場だが軍情報部のコンピューターに彼女はアクセスしてこない。コンピューター管理者がアクセスしてくる人の身元を厳しくチェックしているがケンと一緒になってから彼女がダイレクトにアクセスしてきた事は一度もない。


 2人とも見事なものだと感心してた。


「地球へ行ってもらうのは3日後となる。現地ETAから逆算してこちらを出るのは午後2時だ」


 分かりましたと答えたケンとソフィア。


 2人がオフィスを出ると准将が少佐に顔を向けて言った。


「あれがケン・ヤナギだ」


「そうですね。情報部での評価が高いのも頷けます。ソフィアも大したものですよ」


 その声に頷く准将。


「2人とも自分の立場をしっかりと理解し、必要以上に踏み込んでこない。シエラ情報部は彼らとは付き合いが長いがケンは最初からあの対応だ。ソフィアも彼の影響を受けている様だ。2人とも一流の情報部員だよ。まぁケンは厳密には違うがな」


 そう言って声を出して笑った准将。



 エシクと太陽系連邦軍の戦闘の詳細については連邦軍のAIから全てのデータが送信されてきた。彼ら地球時は約束通り100%全てを開示してきていた。シエラ情報部および参謀本部は圧倒的な勝利になった太陽系連邦軍の戦闘データーを仔細に分析する作業を開始した。


 一方でアイリス2は予定通り3日後にシエラ第3惑星の15番ピアを飛び立つと第1惑星の裏にある小惑星群の近くからNWPを行い、50分ちょっとで地球のワープアウトポイントに出現する。


「LAベース、こちらアイリス2、ケンだ」


「アイリス2、こちらLAベースだ。いつもの場所への着陸を許可する。今日は宇宙に結構な数の船が出ているが貴船の航路上は大丈夫だ」


「戦争が終わって一斉に仕事を始めたってとこかな?」


 LAベースの管制官とのやりとりをしながらも機体はいつものルートに乗って一路地球を目指していた。


「その通り。数日前まではお祭り騒ぎだったのがようやく収まって皆仕事の時間になったってことだ」


「なるほど。どおりで地球の周りが酒臭いわけだ」


 ケンがそう言うとモニターの向こう側で相手の管制官が大声で笑った。


 アイリス2を含めたシエラの船とLAベースとはNWP通信で会話をしているので関係者以外が通信を傍受する術を持っていないがそれでもお互いに必要以上の事、突っ込んだ話をしないのがルールだ。ただ堅苦しい情報関係ではなく、冗談のやり取りはアイリス2とLAベースとの間ではしょっちゅう行われている。お互いに気心が知れた関係になっていた。


 アイリス2はケンの指示で高度を下げると無事にヤナギ運送のピアに着岸する。隣のピアにはユーロセブンが同じ様に着地していた。機首を同じ方向に向けて並んで着地している2機。


 ソフィアが乗降口を開けて先に降りて、続いてケンが外に出るとオフィスの中からアン大使を先頭に参謀本部のプレストン大佐、ヨーク大尉、そしてAIのサポートをしていたアランとボイド、最後にアンドリュー中佐が出てきた。


「お疲れ様」


「いえいえ、そちらこそお疲れ様でした」


 アンの言葉に答えるソフィア。彼女はすぐにアンとアンドリュー以外のメンバーを機内に案内して部屋に連れていく。ケンは機外で2人と話をしていた。


「今回私とアンドリューは戻らないけど、近々またシエラで打ち合わせがある予定なの。その時はお願いしますね」


「いつでもご利用してください」


 そう言って頭を下げるケン。では出発の準備がありますのでと2人に頭を下げて機内に戻っていくケンを見ていた2人。


 相変わらず必要な事以外は一切聞いてこないのねとケンの態度に感心するアン。隣に立っているアンドリューも同じだった。太陽系連邦軍が大勝したのは知っているがそれについて全く質問をしてこない。


「相変わらず優秀だ」


 ケンがアイリス2の中に消えていったのを見てアンドリューが言った。


「本当ね。聞きたいのを我慢しているという風でもない。本当に自分の仕事に徹しきってるプロね」


「地球人のケンなら、戦争について詳細を聞いてきてもおかしくないところだが全くいつもと同じ態度。だからこそシエラ情報部として彼と専属契約を結んだんが今のところはこの契約は大成功ですよ」


「本当ね。彼以上の人材はそうはいないでしょう」


 機体のそばで2人が話をしていると出発準備が出来たのかソフィアとケンが機外に出てきた。


「ではこれからシエラに戻ります」


「気をつけてな」


 2人は最後の挨拶をすると機体に乗り込んだ。乗降口のハッチが閉まるとアンとアンドリューは機体から離れる。しばらくするとアイリス2の機体がゆっくりとその場から上昇を始め、ある程度の高さで機首を空に向けると一気に加速して飛び立っていった。


「さて、私たちはこれから連邦軍参謀本部との打ち合わせの資料作りね」


「AI関連の質問が来るでしょうな」


 オフィスに戻りながらそんな話をする2人だった。


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