エシクVS太陽系 その1
『エシクの艦隊が集結し始めました。ポイント2、ポイント3の2箇所に集結中です』
AIのジャンヌの声がベースフォーの指令室に響いた。この情報はリアルタイムでベースアステロイドのイヴも共有する。同時にベース内にブザーが鳴り、艦内中が一定時間赤の点滅照明となる。ベースワン、ベースアステロイドともに艦内での動きが通常モードから戦闘モードに変わった。
4つのワープポイントのうち2つを使って進軍する作戦の様だ。これもシエラの技術で作られたデブリに擬態している偵察衛星のおかげだ。NWPを使って通信を飛ばしているので敵の探索にかからない。今までの偵察衛星はデータを送信する際の電波が敵に感知されるという欠点があり、どの星も電波を探っては敵の衛星を破壊してきた。現にエシクも太陽系に数多くの偵察衛星を飛ばしてきたがそれらはことごとく破壊されている。一方、シエラが中心となって開発したNWP通信を利用する偵察衛星は敵に感知されず、多数の偵察衛星がロデス星系にばら撒かれ、エシクの動向をほぼリアルタイムで補足していた。
『集結終了まで1時間、その後ワープインからアウトまで4時間の見込み』
偵察衛星から入ってくる情報を次々と分析し連邦軍に提供するAIのジャンヌ。
「艦隊離陸準備せよ」
ベースフォーに詰めている今回の戦闘における最高司令官であるブルー少将が指示を出した。
ベースフォーで待機していた太陽系連邦軍の空母6隻、駆逐艦20隻はいつでも飛び立てる準備を終えており司令部からの作戦開始の次の指示を待つ。
「いよいよですね」
「敵の動きがここまで事前に分かるとこちらも十分に対応する時間がある」
ベースフォーの指令室でブルー少将とスコット大佐が並んでモニターを見つめている。
AIのジャンヌより追加の情報がもたらされた。
『ポイント2に集結しているのは戦艦2、空母2、巡洋艦2、駆逐艦5。 ポイント3には
戦艦4、空母3、巡洋艦5、駆逐艦6。集結状況から判断してポイント2でのワープが先行、その後時間をずらせてポイント3からワープするものと思われます』
「エシク軍の戦力のおそらく半分程度を繰り出してきている様です」
指令室にいる連邦軍の大佐が言った。
「それだけ奴らも必死なんだろう。先にポイント2で出迎えた我々を背後から叩く作戦だな」
ジャンヌの報告を聞いていたブルー少将が言った。数ではエシクの方が多いが地球連邦軍側に焦りはない。レーザー砲の射程距離の違い、AIの処理能力の違いを知っているからだ。以前ならロデス星系に監視衛星を飛ばして情報を取ることはできなかっただろう。それがシエラの技術で可能になった。事前に敵の動きを知ることができれば数で劣ることがデメリットにはならない。
少将が近くで控えている士官に命令を下した。
「オペレーション:エンクロージャーを開始する。ポイント2にチームアルファを、ポイント3にチームベータを派遣。現地到着後はレーザー砲の最大射程距離にて待機。オプション1で歓迎しろ」
少将のオーダーを聞いていた士官が間を置かずに艦隊に指示を出した。
「チームアルファは直ちにポイント2に移動せよ。チームベータは今から20分後にポイント3に移動。ワープアウト地点に到着ご、両チームともオプション1の陣形にて待機」
チームアルファは空母”ロンドン”、”オタワ”、駆逐艦”デンバー”、”ニース”、”ミュンヘン”、”カイロ” ”サンタ・クルス” ”ヨコスカ” ”オデーサ” ”バルセロナ”にて構成されており、
チームベータは空母”ワシントン”、”ベルリン”、”トウキョウ”、駆逐艦”ケープタウン”、”アントワープ”、”ホンコン”、”イスタンブール”、”マナウス”、”シャンハイ”、”プサン”、”ナホトカ”、”アンカレッジ”、”メルボルン”、”バンガロール”で構成されている。
地球連邦軍では旗艦船となる空母は以前の地球に存在していた様々な国の首都名から名前を取り、そして駆逐艦には都市名から名前をとって船名をつけるしきたりがある。今は地球全体で一つの国家として動いているが昔の時代の名残を船名に残していた。
ベースフォーで待機していた連邦軍の艦船のうちチームアルファはすぐに離岸してNWPを使って指示されたポイントに飛んで言った。その後チームベータも同様にベースフォーから離岸しポイント3に向かって編隊を組んだままNWPしていく。
『ポイント2に集結していたエシク艦隊がワープしました。ワープアウトは今から3時間57分後です。ポイント3は動きがありません』
AIのジャンヌから刻々と情報が入ってくるとそれをベースフォーから各艦船およびベースアステロイドにリアルタイムで転送していく。もちろん各艦隊にもこの情報はリアルタイムで共有されている。
「チームアルファがポイント2に到着しました。スタンバイOKです」
それから20分後、
「チームベータがポイント3に到着しました。スタンバイOKです」
『ポイント3にいたエシク艦隊がワープしました』
AIのジャンヌの報告を聞いたブルー少将が全艦隊共通のチャンネルを使って檄を飛ばす。
「ブルー少将だ。これから約3時間後に諸君らの前にエシクの艦隊が現れる。今までと違って本格的な敵の艦隊だ。せいぜい歓迎してやろうじゃないか。エシクが現れたら遠慮はいらない。奴らが2度と太陽系に出向いてくる気がなくなるまで徹底的に叩きのめせ。遠慮はいらんぞ。諸君らの健闘を祈る」
『エシク艦隊ポイント2へのワープアウトは今から30分後、ポイント3へのワープアウトは今から62分後です』
オペレーション:エンクロージャー、つまり囲い込み作戦だ。ワープアウトポイントを囲む様に艦隊を派遣しワープアウトして艦隊の態勢を整える前に先手攻撃で敵を殲滅する。
ポイント2、ポイント3に配置された艦隊はAIの指示通りの位置につき、空母からは小型戦闘機が飛び出して所属する空母の上空で待機する。罠に向かって飛び込んできているエシクの艦隊を叩きのめす準備は完了した。